提灯は電気という文化がなかった時代、電気の代わりとしてなくてはならない存在でした。
今では明かりをともす道具として使われるのはLEDなどになってきて、提灯が使われることはほとんどなくなってしまいましたが、お盆の時期など亡くなった方をお迎えする準備として未だに提灯を灯す文化はなくなっていません。
そんな提灯の産地として有名なのが岐阜県です。
岐阜県は優れた和紙と竹の産地でもあり、提灯の生産が盛んで伝統工芸品の一つに指定されています。
今回は岐阜提灯の歴史と魅力について紹介していきます。
岐阜提灯に欠かせない美濃和紙の存在
岐阜提灯に使われている紙は美濃和紙と呼ばれる和紙です。
美濃和紙は美術の分野ではもちろん、耐久性や強靭性があり非常に丈夫です。
その性質を生かし、文化財の修復に使われたり暮らしの中でも使われることが多くなってきています。
壁紙や照明などの他に和紙で作られたドレスなども制作されています。
日本の提灯の起源
提灯のことが記されたもっとも古い記録として残っているのが応徳2年(1085年)の『朝野君戴』(ちょうやぐんさい)という平安時代中・後期の詩文や文書類を収録した書に記載されています。
平安時代の宮中や邸宅で宮中や貴族の邸宅で使用され、特に貴族の行列や儀式での照明具として普及しました。
当時の提灯は主に竹と紙を素材に作られ、ろうそくや油を使って火を灯していました。江戸時代になると街中や商店、祭りなどでも広く使用され、特に行灯や提灯行列の文化が発展しました。
この時代には、江戸の街並みを照らすための「江戸提灯」が有名で、庶民の生活や娯楽にも欠かせない存在となっていました。
庶民に提灯の文化が定着し始めたころ、岐阜でも提灯の制作が始まりました。
当時から美濃和紙を使った良質な提灯が造られ尾張藩を通して幕府に献上されていました。
1750年ころに岐阜提灯の基本形が完成し、1800年には白無地だった提灯に草花の描かれた提灯が流行し1850年には見栄えを重視した薄い紙と細い骨組みが主流となり現代の繊細で優美な岐阜提灯の形が出来上がりました。
お盆に提灯を灯す理由
最近は提灯も蝋燭ではなく電球を使って灯すことがほとんどです。
蝋燭を使うと消し忘れや目を離したすきに倒れ、火事の原因になってしまうことが多いため今ではほとんど蝋燭を使うことはなくなりました。
そんな提灯ですが、お盆の時になぜ提灯を灯すのか理由をご存じですか?
お盆に提灯を灯すのは、祖先の霊が家に帰ってくる道しるべとなるようにという意味が込められています。
この風習は亡くなった方の魂があの世からこの世に戻り、家族と一緒に過ごすとされるお盆の期間に、迷わず家に戻れるようにと願う心から生まれました。
迎え火と送り火
提灯を灯して先祖を迎え、お盆が終わると送り火を焚いて見送るという一連の流れがあります。
提灯は、先祖が帰る道筋を照らす迎え火の役割を果たし、また送り火としても使われます。
霊を迎えるための供養の象徴
灯火は霊に対する供養の象徴とされ、火の明かりには神聖な意味が込められています。
この明かりが先祖の霊に安らぎを与え、家族と一緒に過ごすことへの感謝や敬意を示すと考えられています。
仏教的な意味合い
仏教では灯火を焚くことが悟りや智慧の象徴とされています。
そのため、お盆に灯す提灯の明かりには、故人の霊が安らかに過ごせるようにという願いも込められています。
提灯を灯す以外にも、地方によっては「精霊馬」というナスときゅうりを使って馬と牛を作り祖先が乗って行き来するための象徴として、お供えする風習と一緒に行われることがあります。
岐阜提灯職人の技
江戸時代初期に発展し始めた岐阜提灯。
今でも職人の手で丁寧に作られ、その技法は代々受け継がれています。
骨組み作り(骨組み・芯)
まず、竹を用いて提灯の骨組みを作ります。
この竹の骨組みは「芯」とも呼ばれ、竹を細く割り、しなやかに加工して形を整えます。
職人は竹の性質や季節の影響を考慮しながら、提灯の大きさや形に合わせた骨組みを作成します。
紙張り
骨組みに和紙を張りつける工程です。
紙は骨組みに沿って丁寧に貼られ、糊の量やなでる強さは提灯の見栄えや強度を左右するため細かな技術が求められます。
和紙を貼り終えたら、乾燥させてしっかりと固定します。
絵付け
提灯が乾燥したら、絵や文字を手書きで描きます。
岐阜提灯には、美しい花柄や風景画、または依頼者の希望に応じた文字や家紋などが描かれます。
特に「手描き絵付け」が岐阜提灯の特徴で、熟練の絵師が一つひとつ丁寧に描き込みます。
近年ではデザインも多様化し、現代的なアレンジも加えられることがあります。
ドウサ引き
材料となる和紙にコシと艶を与えるため、ドウサを使って乾かします。
ドウサはにかわとミョウバンを水で煮込んだものです。
ドウサを無ることで、刷り込みの際の顔料のにじみを防ぐ効果が得られます。
白地に仕上げるもの以外はこの後に地色を塗ります。
摺り込み
絵師が描いた原画の着色部分を、刷り込みの職人が色ごとに伊勢型紙で型を取り、版画の要領で和紙に着色します。
岐阜提灯の特徴の1つにもなっていて、色の重ね方や接する部分などを考慮しながら細かく何回にも分けて色を刷り込みます。
その回数分だけ型紙を作り、多いものは100枚を超えることもあります。
口輪作り・手板作り
提灯の上下に付ける丸い和の部分や、提灯をぶら下げるための板などを作ります。
材料は、スギやヒノキで木地師の仕事で大内行燈の脚部なども作られています。
装飾
木地師が造った口輪や手板、脚などに「蒔絵」や「盛り上げ」と言われる技法で装飾を施します。
「盛り上げ」という技術は白い胡粉を重ねて菊などを描き立体感を出していく技法です。
提灯の型組み・ヒゴ巻き
提灯を形作る工程で、提灯の張り型を組みあわせて原型を作ります。
その張り型につけられた細かい溝に合わせて、竹ひごをらせん状に巻いていきます。
太さ1㎜にも満たない竹ひごを均等の張り具合で巻いていくのは至難の業です。
張り付け
提灯が伸び切らないように、張り型の背の部分に沿って竹ひごに糸をかけていきます。
張られた紙が破れないようにする役割もあり、提灯の上下にそれぞれ竹ひご4,5本分の幅に、腰張りと言われる補強用の薄紙を貼ります。
その後、竹ひごに糊を塗り、模様の継ぎ目を合わせやすくするため、摺り込みを行った紙を張り型の一区画ずつ一枚おきに貼っていきます。
一回りしたら、残りの紙を模様に合わせながら張っていきます。
継ぎ目切り
紙を一枚張るごとに、のりしろ以外の余計な部分を剃刀で慎重に切り取っていきます。
紙と紙の継ぎ目部分が太いと、灯りにもムラができてしまうため、継ぎ目をなるべく細く、1㎜程度になるように細心の注意を払っていきます。
提灯の型抜き
しっかり乾燥させたら、中の張り型を抜きます。
へらで、丁寧に火袋に折り目をつけて注意深くたたんでいきます。
絵付け及び仕上げ
絵付けは刷り込みで行われる技法とは異なり、無地の状態で仕上げられた提灯に手書きで絵を付ける技法です。
日本画の技法が主に用いられますが、灯りを灯したときに透ける色の具合の加減が難しく、同じ柄を寸分違わずに提灯に描かなければならないため、職人の技が必要になってきます。
最後に、口輪や手板、房などを取り付けて完成です。
まとめ
現在はインテリアの1つとしても人気が高い岐阜提灯。
その伝統的な技法から、海外でも高い評価を受けている伝統工芸品の1つです。
使う時期が限られているように感じますが、ランプ型のおしゃれなものも増えていて生活になじみやすいデザインの物も増えています。
皆さんもぜひ、岐阜提灯の魅力に触れてみてはいかがでしょうか?