現代では珍しいSL鉄道に乗り、茶畑を抜けると、新金谷駅に到着。
新金谷駅は静岡県中部、島田市に位置しています。
駅のほど近く、大井川のほとりにある、大井川葛布の工房。
工房の敷地にお邪魔すると、とっても可愛い看板犬がお出迎えしてくれます。
工房の中の一室の壁には、葛布の壁紙が使われていました。
なんでも、一昔前に葛布は壁紙の産地として一時代を築いた歴史があるのだとか。
早速、葛布職人でこの工房の代表である村井さんにお話を伺いました。
「衣食住という言葉がありますが、なぜ”衣”が一番最初なのか。それは、やはり人間にとって”着る”という行為が非常に重要で、これが人間を人間たらしめるものだと思うんですよね」
葛布は日本三大古代布(葛布、しな布、芭蕉布)の一つにも数えられるほど古くから作られており、その光沢は他の素材には見ることが出来ない見事なもの。
布を織り上げるにはまずは糸を作る必要がありますが、その工程にも手間暇がかかります。
「初夏に原料の葛を刈り取り、すぐに煮ます。その後、河原でススキで葛を覆い発酵させます。そうして柔らかくして、大井川の流れで表皮を洗い流すんですね。そのような工程を経て、取り出した繊維を一本一本手作業で結び、ようやく糸が出来るんです。」
葛の糸を見させて頂くと、光り輝いておりとても綺麗。
自然の美しさに、改めて感動。
実際の機織りの作業を、奥様に見せて頂きました。
「機織りはリズムが大事で、音楽を聞きながら作業することもあります。無心になって集中することで、綺麗な布が織り上がるんですよね。」
一定の間隔で鳴り響く機の音は、聞いていて非常に心地が良いもの。
1本の糸から布が出来上がっていくのは、近くで見ていても不思議な気持ちがします。
「うちの工房では体験も行っているのですが、やはり作業をしていると皆さんの顔が生き生きしてくるんですね。やはり、自然の素材から手作業で布を織ってそれを身に纏うということには、古代から受け継がれてきた人間の本質があるような気がします。
だから私は、人生の中で一着でもいいから自分の手で布を作り、それを着て欲しいなと思うんですよね。」
奥様は綿や草木染めにも造形が深く、糸車を使った綿紡ぎも見せて頂きました。
ふわふわの綿から、糸車でくるくると糸が出来ていく様子は、見ていてもとても楽しくなります。
最後に、村井さんに今後についてお話を伺いました。
「葛布に限らず、業界全体の若手を育成していきたいですね。例えば今の若い子達が、運良く織り手になれたとしても、なかなかそれだけで食べていくのは難しい。だから、他のアルバイトなどと掛け持ちをしたりするんですね。結局、それでは続けていくのが厳しいということになってしまう。そういった現状を、一人前に稼げるようになるまで改善していきたいですね」
熱い言葉の通り、今年からプロショップというセミナーを開催し、業界の若手育成に励んでいるとのこと。
(詳細は大井川葛布)
一点一点、丁寧な手仕事で作られた大井川葛布の製品は公式サイトのほか、古代織産地連絡会オンラインショップでもお買い求め頂けます。