鋳物の街として有名な、富山県高岡市。
日本で作られる仏具の90%以上は、この高岡市で生産されています。
その高岡市で1897年に創業した真鍮の鋳物メーカー「二上(ふたがみ)」では今、若手の職人が増えつつあります。
伝統工芸の産地では職人の高齢化が深刻化している中、なぜ二上では人材育成が上手くいっているのか、また自社ブランドのFUTAGAMIは何故人気なのか、代表の二上社長と社員の井上さんにお話を伺い、秘密を探ってきました。
自社ブランドの開発
株式会社二上では元々、伝統的な仏具製造を担っていました。
しかし日本人のライフスタイルの変化で仏具の需要は年々減少し、二上も厳しい時代を迎えます。
そんな時に出会ったのが、デザイナーの大治将典さんでした。
大治さんは鋳物をあえてピカピカに研磨せず、素材の持ち味を活かした製品づくりを二上に提案します。
それまでの常識からは外れた製法に最初は驚きますが、大治さんと共に試行錯誤しながらもなんとか展示会へ出品。
そこで注目を集め、徐々に自社ブランド「FUTAGAMI」の製品が口コミで広がっていきます。
営業活動はしない
FUTAGAMIは大々的な宣伝をする訳でも広告を展開する訳でもなく、少しずつ口コミによって認知されていきました。
「営業活動をする余裕も無かった」と笑顔で話す二上社長ですが、今では多くのセレクトショップなどでも扱われる人気ブランドとなっています。
ではなぜ営業をしないのに、広まっていったのか。
そこにはものづくりに対する熱い想いがありました。
ヒットには飛びつかない
二上社長は「売れそうなもの、キャッチーなものばかりを考えてたら、今は無かった」と言います。
ヒットはあくまで一時的なものなので、とにかく自分たちが信じるもの、やりたい事を考え抜く。
「自分たちが欲しいものや使いたいもの、使ってもらいたいものを作る」として製品づくりには一切妥協せずに歩んできた結果が信頼を集め、FUTAGAMI製品のファンを増やす事に繋がっていったのです。
製品が人材を呼び寄せる
二上に若い職人が増え始めたのも、自社ブランドを始めた頃からだといいます。
今では社員数も20人を超え、最も多いのが20代、30代の若手の職人です。
女性職人も多くおり、現在は14人の女性職人が働いているといいます。
遠方から移住して働いているという方もいて、FUTAGAMIの人気の高さが伺えます。
(ちなみに、応募者の多くは四季の美を見てくる、との事でした!)
二上流の人材育成
二上には「鋳造」「仕上げ」「流通」の3部門があります。
まずはそれぞれの部門で先輩に仕事を学び、しっかりと身に付けてから自分の感性を加えていく事になります。
最終的な良し悪しは完成品で判断され、「ダメなものはダメ、良いものは取り入れる」と言います。
勿論、会社としては作業にかかる時間や効率も重要になってきます。
そのように決して楽ではない職人の仕事ですが、二上社長に”職人に向いている人”について伺うと、「地味な作業や仕事が多いですが、その中で自分なりのやりがいを見つける事が出来る人が向いているのでは」との事でした。
先を読む
”営業活動をしない”といっても、ただ製品づくりをしているだけでは中々売れません。
「時代を1歩だけでなく、2歩も3歩も先を考える事も重要」だと言います。
実際、2009年に自社ブランドを立ち上げたのも、この先の仏具需要低下を見越しての事でした。
2015年には建築金物のセミオーダーが出来るMATUREWARE(マチュアウェア)という新ラインを立ち上げます。
FUTAGAMIの販売先も、当初は実店舗中心だったものが、そこにインターネット販売も加わってきます。
そしてMATUREWAREのウェブ受注が増えてくるタイミングに合わせ、工場2階にショールームをオープン。
そんな二上社長の「伝統を途絶えさせないように守っていくだけではなく、進化させて次に伝えていくことが大切」だという言葉には、熱い想いが込められていました。
未来へ繋ぐ
二上社長は、同業の仏具製造会社に「廃業するから経営を引き継いでくれないか」と頼まれ、その依頼を受けたそうです。
伝統工芸の工房は職人の高齢化など厳しい状況の所が多くありますが、二上社長はそれらを「出来るだけ引き継いで残していきたい」と言います。
今では自社ブランドの売上が大半を占め、新たな挑戦をし続ける二上ですが、高岡の伝統に対する想いはとても熱いものがありました。