「柿渋」というものを御存知でしょうか?
「渋柿」は知っているけど「柿渋?」と思う人も多いことでしょう。
渋柿から作られる柿渋は、塗料や染料、薬、健康食品などの多彩な面を持つ日本生まれの天然素材です。
三重県の伝統工芸品である伊勢型紙でも、柿渋は重要な役割を担っています。
ここでは、この柿渋に秘められた効果とその歴史をご紹介します。
1.柿渋の歴史
柿渋というとなじみのない言葉に感じる方も多いかもしれません。
おそらく渋柿であれば「あ~それなら知っている」と思う人もいるでしょう。
柿渋とは渋柿の未熟な果実から搾り取った汁液を発酵させ、それを数年間保存して熟成させて作られる赤褐色の液体です。
昔はそのにおいが非常にきつかったと言われていますが、その製法も改良を重ね、現在では無臭の渋柿も作られるようになったそうです。
歴史上、最も古い記録では、平安時代に漆の下塗りに使用されたというもの。
衣類の染色に使用されるようになったのは、この時代に下級侍が着用していた柿衣(柿渋で染めた赤茶色の衣服)が始まりと言われています。
また薬としても利用されていて、火傷やしもやけ、虫刺され、二日酔い、解毒、血圧降下に効き目があるとされていたそうです。
2.柿渋の活躍
柿渋は防腐作用がある上に、強度を増す効果などもあるため、次のような物にも使われてきました。
- 木工品や木材建築の塗装の下塗り
- 手工芸品の染料
- 水中で使用する釣り糸や魚網に防腐剤として用いる
- 即身仏に塗布
- 傘や紙衣、うちわの材料(紙に塗って乾燥させると防水機能も発揮する)
- 日本酒の製造では清澄剤として現在も利用されている(清澄剤とは酒類の混濁を予防し、透明度を向上させる働きがあるもの)
一部の研究者の研究成果にはノロウイルスなどへの抗菌作用が認められるとされています。
また柿渋はシックハウス症候群の対策に有効であることが分かり、近年改めて注目を浴びている素材なのです。
3.柿渋の健康効果
柿渋は、その健康効果にも注目が集まっています。
抗酸化作用を持つ栄養素として有名なポリフェノール。
このポリフェノールが赤ワインに多く含まれていることは御存知ですよね。
しかし柿渋には、何と赤ワインの10倍以上のポリフェノールが含まれているのです。
更にこの柿渋のポリフェノールに含まれているタンニンは、血液中の悪玉コレステロールを減らしてくれる働きがあるので、血液の流れがサラサラになります。
これにより動脈硬化や脳梗塞、脳血栓、高血圧を予防することに繋がるのです。
柿渋の健康効果は、
- がん細胞の抑制
- 生活習慣病の予防
- ウイルスや細菌の増殖を抑制
- 骨粗しょう症の予防
- アレルギー症状の抑制
- 消化機能の促進、消化器管の保護
などが挙げられます。
昔から健康を維持する食品としての効果も認められていた柿渋。
長く愛されてきた理由が良く分かりますよね。
4.伊勢型紙と柿渋
三重県で生産される伝統工芸品、伊勢型紙。
着物等に紋様を染める際に使われる型紙で、現在は様々な用途に用いられてます。
そんな伊勢型紙と柿渋は、切っても切れない関係なのです。
伊勢型紙に用いられるのは、型地紙と呼ばれる紙です。
これは、手漉きの和紙3枚程を柿渋で貼り合わせ、乾燥させたもの。
そうして乾燥させたあと、包丁で紙の表面の柿渋のカスなどを削り取り、完成します。
こうしてできた型地紙は非常に丈夫で、その為彫刻刀で細かい文様を彫り出す事が出来るのです。
伊勢型紙の歴史と特徴
伊勢型紙の歴史は古く、少なくとも14世紀には既に生産されていたと言われています。
現在まで伝統は続き、型紙の産地として最大規模となっています。
伊勢型紙の彫りの種類には「錐彫り」「道具彫り」「突彫り」「縞彫り」の4種類があります。
これらの技法で作られた伊勢型紙は、主に着物の染色の型紙として用いられ、表舞台に出てくることはありませんでした。
しかし、最近ではそのデザイン性に注目が集まり、伊勢型紙そのものを活かした商品作りも行われています。
産地情報
名称 | 伊勢形紙協同組合 |
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住所 | 〒510-0254 三重県鈴鹿市寺家3-10-1 鈴鹿市伝統産業会館内 |
5.改めて注目される柿渋
柿渋は、
- 建築物の内外装の塗装
- 木工製品、手工芸品の塗料
- 健康を維持するための食品
- 防虫、防カビ、防腐、防水効果
など、様々なシーンで活躍しています。
柿渋は何と言っても天然の素材であることがその強み。
敏感肌やアレルギー症状など、デリケートな体質の人が多い現代では、「天然」ということも非常に重要視されるようになりました。
住居や家具、衣類などの身の回りの物に使える柿渋は、健康にも環境にも優しい天然素材として注目を集めています。
平安時代の頃には、既に柿渋のメリットを知っていた私達の祖先。
そしてそれを守り続けて来た日本の文化。
その歴史にとても奥深いものを感じずにはいられません。