1.人と灯り
人々が火を灯りとして使い始めたのは、古墳時代から飛鳥時代のことと考えられています。
松明や庭火のほか、燃料として動植物の油も使われるようになりました。
しかし、まだ火は宗教的な意味合いが強く、主に寺院や神事で使われ、日常生活に灯りを持ち込むことはありませんでした。
平安時代になると油を燃やした皿を台に置く燈台が、貴族の邸宅の室内照明として用いられるようになり、室町時代には瓦用の土製の瓦灯(かとう)や行灯が作られ始めます。
江戸時代には行灯のほかに、提灯や、ロウソクを使ったぼんぼりなど様々な灯りが登場します。
街灯の役割をする辻行灯や、石灯籠など、都市部には夜間照明も現れ、灯り文化は江戸時代に一つの完成を迎えたと言えます。
2.江戸の灯り 行灯
江戸時代の室内の灯りでポピュラーなものと言えば行灯です。
行灯は、箱型の木枠に和紙を貼って中に油を入れた皿を置き、灯心に火を灯す構造になっています。
床や机上に置いて使う置き行灯や、天井から吊るす八間行灯、柱にかけるタイプの掛け行灯、旅人が持ち歩き、枕にもなる枕行灯などがありました。
就寝時の常夜灯として使われていたのが、有明行灯です。
有明とは空にまだ月が残っていながら夜明けを迎えた状態のこと。
その名のとおり、明け方まで火がもち、黒漆の箱型の蔽(おお)いに三日月や満月が施された大変雅な灯具です。
3.有明行灯の特徴
【夜具YAGU展 開催中!】日没後の必需品である灯火具には知恵と工夫が満載。中でも枕元に置く有明行灯(ありあけあんどん)は美と用を兼ね備えた明かりです。満月や三日月の形に窓を開けたカバーに火袋を収め、向きによって光量を調節しました。
今日は十五夜。展示室での「お月見」をお楽しみ下さい。 pic.twitter.com/70LhDG7UPJ— ICU湯浅八郎記念館 (@ICU_museum) September 13, 2019
有明行灯の特徴は、何と言っても、油皿を置く火袋の部分と、外箱が取り外せること。
外箱は、台と蔽いの役割があり、台として使えば普通の行灯のような形になります。
外箱の中に火袋をしまうと、小型化して持ち運べるだけでなく、明かりが外箱の透かし模様に限定され、就寝の邪魔になりません。
和紙が貼られているので、光はとても柔らかくなり、目に優しくなります。
これは透光性に優れた日本の和紙ならではの効果です。
さらに外箱の上部に丸穴が施されているものなら、天井に満月が映し出されます。
寝ながらにしてお月見を楽しめるなんて、作り手の粋な遊び心が感じられますよね。
一方、明るくしたい時は、扉を開けたり、蔽いの上に置いて、直接照明として使うことができます。
ひとつで二役をこなす、なんとも日本らしい工夫が施されているのです。
4.有明行灯を楽しむには
有明行灯は現代の職人さんの手によって復刻生産されています。
オンラインショップで購入できるほか、下記のお店で受注販売しています。
そのほか、博物館などで目にすることができます。
名称 | 都行燈株式会社 |
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住所 | 東京都荒川区東日暮里4-26-10 |
名称 | 江戸民具街道 |
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住所 | 神奈川県足柄上郡中井町久所418 |
公開 | 10:00~17:00 |
休業 | 月 月曜が祝日の場合は開館 |
名称 | 日本のあかり博物館 |
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住所 | 長野県上高井群小布施町973 |
*お出かけの際は開館時間等ご確認ください。
5.江戸の暮らしと灯り
江戸時代の灯具に用いられていたのは主に菜種油です。
それまで使われていたエゴマよりは低価格ですが米よりも高い高級品で、庶民はよくイワシの油で代用しました。
行灯の明るさは豆電球程度と言われています。
日没後に仕事をするわけではないので、十分な明るさだったのでしょう。
灯心には古い麻布などが用いられたということですから、どこまでも無駄のないエコ社会だったんですね。
現代ではスイッチ式の電気が至る所に行き渡り、闇とは無縁の生活になっています。
その分私たちは夜遅くまで働くようになりました。
たまには電気を消して、優しい灯りを楽しんでみませんか?
暗いからこそ見える景色があるかも知れません。