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伊勢根付職人・梶浦明日香さんインタビュー|伝統を繋ぐ人々

伊勢根付職人/梶浦明日香さん

伊勢根付職人/梶浦明日香さん

【プロフィール】
梶浦 明日香(かじうらあすか)
伊勢根付職人

根付の粋な遊び心、細かな彫りの美しさだけでなく、一生現役・一生成長という職人の生き方、仲間と助け合い自然とともに暮らす師匠の生き方に憧れを抱き、2010年、取材を通じて出会った中川忠峰氏に弟子入りし、根付職人となる。
また次世代の若手職人の活動の幅を広げるべく、様々な伝統工芸を担う若手職人のグループ『常若』を結成。各地で展示会やワークショップを開くなど、新たな担い手の育成にも力を注ぐ。

元NHK名古屋放送局・津放送局キャスター
NHK時代に『東海の技」というコーナーを担当し、様々な職人を取材。伝統工芸の素晴らしさやそこに込められた思いに感銘を受けるとともに、このままでは多くの伝統工芸が後継者不足のため失われてしまうと危機感を感じ職人の世界へ。

2014年 パラミタミュージアムにて高円宮家所蔵の根付展と併せて開催された根付展へ出品
2016年『飛騨高山現代木彫根付公募展』 優秀賞
2016年 伊勢志摩サミット会場のホテルにて展示

2012年『ゆかたキレイコンテスト』全国グランプリ受賞
着物の文化が牽引してきた日本の伝統工芸も多くあることから、『ゆかたキレイコンテスト』に根付をつけて出場し、全国グランプリに。日本の着物文化の素晴らしさをつたえるため、日本の国際文化交流親善大使として国内外で着物のショーに出演するなど、着物文化の広報活動にも力を入れている。

Q1. 工芸品について教えてください。

伊勢根付の職人をしております。

根付とは江戸時代から続く伝統工芸で、着物の帯に巾着や印籠などを提げるための留め具として使われました。
現代のストラップのようなものです。

現在ではその彫刻の繊細さや美しさ、その粋な遊び心が評価され、日本だけでなく海外からも評価の高い伝統工芸です。

根付の画像

Q2. 職人になろうと思ったきっかけとこれまでの歩みを教えてください。

元は、NHKのキャスターでした。

『東海の技』というものづくりの職人を紹介する番組を担当していました。
様々な伝統工芸の職人さんを取材していく中で、当時取材させていただいたほとんどの職人さんに後継者がおらず、このままでは日本の伝統工芸は失われてしまうと危機感を持ち、誰かが当事者として、職人ってこんなに素敵な職業だよと伝えられたら、未来は変わるかもしれないのにと思ったのがきっかけでした。

取材を通じて知り合った今の師匠の根付の可愛らしさや温かさ、遊び心に感激し、また師匠の職人としての生き方に感銘を受け、弟子入りを決意しました。

Q3. 職人として一人前になるにはどういったことが必要ですか。

私にもまだわかりません。
まだまだですが、目の前の注文頂いた作品を精一杯、今できる全てを注ぎ込んで作ることで、いつか一人前の職人になれると信じて、コツコツ作り続けています。

梶浦さんの伊勢根付画像1

Q4. お仕事の流れを教えてください。

まちまちです。
週に一回、師匠に指導を仰ぎに行っています。

あとは自宅で、注文が立て込めば朝から夜中の2時くらいまで彫ることもありますし、全く根付に携わらない日もあります。

外へ営業のような形で出ることも少なくありません。
私は問屋などを通しているわけではないので、自分で売ることも仕事です。

決まった時間的拘束がほとんどないことが職人の大きな魅力の一つなんだと思います。

梶浦さんの伊勢根付画像2

Q5. 職人の仕事でつらい点、良かったと思う点を教えてください。

あえてつらいことを挙げるとすれば、収入面が安定しないことです。
でも、自分の都合に合わせて時間の融通も効きやすいですし、行きたい時に行きたいところへ行けるし、やる気のない時には一日遊んでしまうこともできます。
全て自分次第で調整できるというのが一番の良い点だと思います。

あとは、良くも悪くも自分がやった分だけ結果が返ってくるし、やらないのも自分の責任です。
他の誰かに頼ったり任せたりはできません。
その分、やりがいを感じることができます。

Q6. 情報発信で行っていることはありますか。

ネットを最大限活用して、まずは根付のことを知ってもらう努力をしようと心がけています。
現在私はネットでの販売のみですので、意識して発信しています。

今は昔のように、師匠に丁稚奉公のような形で住み込みでお小遣いをもらいながら修行するのではなく、生活基盤は自分たちでなんとかし、師匠に授業料という形でお金を払いながら学ばせてもらっている状態です。
決して、修行する若い職人にとって恵まれた環境とは言えないと思います。

ただ、今の時代の大きなメリットはインターネットで発信できること。
作品を作るだけでなく、自ら発信することで、直接お客様とやりとりができ、問屋さんへの手数料もかからないので若い職人でもある程度の収入を確保することができるのです。

伊勢根付/梶浦明日香さんのHP

Q7. 今後の展望を教えてください。

まずは、素晴らしい作品を多く作れるようになること。
見た人に喜んでもらえる根付をどんどん作れるようになりたいです。
職人として、ちゃんと技術を磨きたい。

その上で、たくさんの人に伝統工芸って、また職人って素敵だよって思ってもらえるような活動をしていきたいと思っています。

今、私は個人の制作活動と並行して、三重県に住む様々な伝統工芸の若い職人を集めて”常若(とこわか)”というグループを作って活動しています。
展示販売やワークショップ、講演などを通じて、一人では出来ない大きなことにも挑戦しようよ、若手ならではの感性で、現代にあった伝統工芸を模索しようよというグループです。

若い職人がみんなで輝くことで、さらに若い世代の人たちに
「職人ってかっこいいな。」
と思ってもらえたらと活動しています。
職人ってかっこいい、伝統工芸は素晴らしいと思ってもらえたら、失われつつある伝統工芸にも後継者が生まれてくるかもしれない。

若い人が、伝統工芸ってかっこいいねって思えるようになったら、伝統工芸を身近で使う人も増え、もっと世の中の空気は変わってくると思うのです。
だから、私は若い職人たちをもっともっと輝かせて、若手の職人自らが
「職人って素敵な職業だよ。自分たちの作品結構イケてるでしょ。」
と発信できるようにしていきたいです。

梶浦さんの伊勢根付画像3

Q8. 最後に、職人を目指す人へメッセージをお願いします。

収入は少なそうだし、職人さんって怖そうだし。
怪我しそうだし、ネイルとかオシャレできなさそうだし。

と、思っている方。その通り。
きつい 汚い 危険 給料安い の4Kです。

華やかさや楽ができると思って入るのであれば、多分職人は苦しいと思います。

でも、
職人は好きなことをして、夢中になる時間の中で生きることができます。
自分の頑張りがそのまま数字となって売り上げとなって返ってきます。全ては自分次第です。
自分の時間も、自分次第です。昼間遊んで夜仕事をしてもいいし、一ヶ月まるっと休みをとってもいい。
定年もないので、一生続けることだって自分次第。
多少の擦り傷切り傷はありますが、それはすぐに治ります。心の傷よりずっと楽です。
代わりはいません。あなたが受け継いでいかなくちゃ失われてしまうのです。いくらでも代わりはいるという社会の仕組みの中で、伝統工芸の職人は、私じゃなくちゃいけないんだと仕事の中で思えるのです。
ライバルも自分自身です。

いいか悪いかなんて言えません。
伝統工芸なんて、もう廃れちゃうかもしれないんでしょと言われれば、そうかもしれません。
未来なんてわからないし、職人って仕事はおすすめだよなんて無責任なことは言えませんが、
でも、これだけは胸を張って言えます。

「私は、職人になれて、とても幸せです。」

梶浦さんと伊勢根付師匠