石川県金沢市に工房を構える仏師、坂上俊陽(さかがみとしはる)さん。
仏師(ぶっし)とは木造仏像を創る職人の事を指します。
坂上さんが独立したのは、なんと24歳の時でした。
そこから10年程が経ち、今では全国から注文が入る人気仏師となり、アシスタントとお弟子さんを雇用するなど後継者育成にも力を入れています。
今回はそんな坂上さんの人気の秘密についてお話を伺ってきました。
5年で独立
元々ものづくりが好きだった坂上さんは、高校卒業後に木彫刻の徒弟制度のある町で仏師の師匠に弟子入りします。
住み込みで修行を始めた坂上さんは外部の情報もほとんど絶って、技術の習得に努めました。
そして一般的に10年は下積みが必要と言われる中、坂上さんは5年で独立する事になります。
最初の1年は生活に苦労する程でしたが、情報発信にも力を入れ、また周りの人の支えや口コミのおかげもあり、少しずつ注文が入ってくるようになりました。
情報発信
修行時代から「インターネットに力をいれるべきだ」と考えていた坂上さんは、独立してすぐに情報発信を始めます。
しかしサイト制作を外注する費用が無かった為、ウェブサイトも独学で作ったそうです。
同時にYoutubeなどでも情報発信を始め、そこから徐々に認知度が上がっていき、注文が入り始めたのです。
想いを伝える
一言で情報発信と言っても、一体何を発信すれば良いのか?と悩む職人の方は多いと思います。
ただ技術や製品について紹介するだけでは、中々注文が入る所まではいきません。
坂上さんの場合は、「手仕事の良さ」を発信するようにしていたと言います。
機械で作る安価な仏像に比べ、手仕事で創る仏像の値段は数倍以上します。
その違いはどこにあるのか、職人が想いを込めるとはどういう事なのか、坂上さんのウェブサイトでは丁寧に伝えています。
後継者育成
坂上さんに工房には、簡単なお手伝いをしてもらうアシスタントの方と、本格的に技術を学んでもらうお弟子さんがいらっしゃいます。
お弟子さんは刃物の研ぎ方など、一から仕事を学んでいく事になります。
そしてこの坂上さんの工房では、最初から独立に向けて育成を行っているといいます。
仏師の世界ではせっかく独立しても、仕事が無くて廃業してしまう方も多いそうです。
その為、技術の習得と同時に情報発信の仕方や注文の取り方なども学んでいく事になります。
また、現在はYouTubeで工程を共有しリモートワークを取り入れ新しい働き方を積極的に取り入れています。
弟子入りする前に基礎を学ぶ事の出来るオンラインカリキュラムも用意し、基礎を学んだ上で弟子入りが可能となっています。
環境を整える
坂上さんが修行を始めた最初の頃は、まだ仕事が出来る技術が無いので雑用も多くありました。
また、仕事についても学校の様に丁寧に体系立てて教わるものでは無いので、当時一般的だった”見て覚える”という事に少し戸惑った事もあったそうです。
そこで坂上さんは自分が経験した事をそのまま継承するだけではなく、色々な人にアドバイスを貰いながら、働く環境を時代に合わせて変化させていきます。
昔の師弟制度では住み込みで働くのが一般的でしたが、やはりお互いに気を使う部分もある事から、坂上さんの工房では今の時代に合わせて”通い”で働いてもらう様にしています。
そしてきちんと毎月給与を払う、各種保険にも加入するなど、労働環境も整備していきます。
どうすればより弟子の成長を助けられるか、坂上さん自身も県主催の人材育成セミナーへの参加や、書籍による勉強を続けてきました。
人材育成には時間も費用もかかるので最初は赤字ですが、これが出来るのは「個人の直接注文が多く、納期的にも余裕をつくる事が出来るから」だと言います。
「まだ試行錯誤の途中」との事ですが、技術を学びたい側にとっては理想的ともいえる環境を整えつつある坂上さんのこの取り組みは、決して一朝一夕に出来たものではなく、技術を磨き、情報を発信し、試行錯誤を続けた結果出来上がったものなのです。
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