素朴な風合い。いかにも頑丈そうなたたずまい。
すべて手作業で作られるあけび蔓細工は、雪深い地域の知恵とぬくもりがつまった伝統工芸品。
こんなすてきなかご、お家にひとつあったら素敵だと思いませんか?
味わい深い魅力で近年人気が高いあけび蔓細工。いったいどのように作られるのでしょうか。
1.あけび蔓細工の歴史と産地
あけび蔓細工が広く作られるようになったのは江戸時代後半から。
しかし、始まりは縄文時代と言われるほど古い歴史があります。
産地としては青森県の津軽地方、秋田県の美郷町、山形県の月山など東北地方のほか、長野県の野沢温泉村が有名です。
雪深いこれらの地域では、冬の農閑期に、あけびの蔓で細工品を作っていました。
元々は農作業や食料品を収納する暮らしの道具でしたが、その美しさが訪れた人の間で評判となり、昭和30年代から50年代には、デパートや民芸品店でこぞって買い求められるになりました。
しかし、ビニールやプラスチック製品が世に出回ると衰退を余儀なくされ、伝統を受け継いだ工房や編み手は、今では貴重な存在となっています。
2.あけび蔓の特徴とは?
あけびは山育ちの方ならなじみ深い植物ではないでしょうか。
日本には古くから自生し、秋には紫色の卵型の果実を実らせます。
あけびの蔓は樹木にもからみつきますが、地面に這うようにまっすぐ長く伸びたものが細工品の材料として使われます。
種類としては、葉が3枚のミツバアケビが最も適していると言われています。
春に生え始めた蔓は、夏の暑さや晩秋の霜を乗り越えてしなやかに強くなります。
地域によって9月頃から、遅くても11月の雪が降り始める前に採集されます。
3.採集されてから細工品になるまで
山から採集された蔓はどのような工程を経て美しい加工品になるのでしょう?
順を追って見ていきましょう。
(1)蔓を一冬以上乾燥させる
なかには3年以上乾燥させる工房も。よく乾かさないとカビが生えてしまいます。
(2)色や太さごとに選別する
この際、小刀や包丁、節取器で節を取り除き滑らかにする作業も行います。
(3)水や熱湯に浸し、柔らかくする
温泉や川の流水を利用することもあります。水の場合は取り替えながら数日浸します。
(4)柔らかくなったら編み始める
カゴの場合は木型を使い、底の部分から胴、上部の縁へと進み、持ち手をつけ、端をきれいに整えて完成です。
とはいえ、蔓の太さや特徴によって縦糸にするか横糸にするか見極め、手ざわりがなめらかになるように編むには熟練の技が必要です。
4.さまざまな編み方と細工品
編み方によってさまざまな種類の細工品が作られます。
- ざる編み
- かごを編むときの定番の編み方で、縦の蔓は一定間隔に、横の蔓はぎっしりと詰めます。
編み目が隙間なく詰まっているため、強度が高いのが特徴。ゴザ目編みとも呼ばれます。 - こだし編み
- 縦の蔓も横の蔓も一定の間隔を開けるため、中が透けて見え、透かし編みとも呼ばれます。
編みながら横の高さを確認し、ずれを修正しながら進めるため大変手間がかかります。 - 網代編み
- 平たい蔓を一本、または細い蔓を数本組み合わせ、隙間なく縦横交互に編む方法です。
目をずらしながら編むので横の蔓の編み目が斜めに移動していきます。根気のいる難しい編み方です。
ほかにも、波編み、みだれ編み、菊底編みなど30種類以上もあり、製品によっては数種類を組み合わせることも。
職人さんの技と工夫で、手提げかごのほか、花かご、果物かご、バスケット、トレー、スリッパ、おもちゃなど細工品もさまざまです。
製品は産地の工房や道の駅のほか、オンラインショップでも手に入れることができます。
オーダーメイドで編み方を指定できるお店もありますよ。
和のテイストはもちろん、洋服やモダンなインテリアとも相性抜群。
人気の製品は納品まで一年かかることもあるのだとか。
5.使うほどになじむ、育つ
あけび蔓細工は使えば使うほどなめらかさと艶が出ます。
耐久性にすぐれ、大切にお手入れをすれば何十年ももち、その分愛着も増すことでしょう。
親から子へ、そして孫へと受け継がれ、役目を終えるとまた土に帰る、自然にもやさしいアイテムです。
藪をかき分け、山で蔓を採集するのは危険な重労働。
細工も力が必要で、編み手は指が痛くなると言います。
あけび蔓細工は職人さんたちの多大な時間と手間のうえに成り立っているのです。
古来より受け継がれてきた美しい蔓細工。
私たちの代で途絶えることのないようにしたいものですね。
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