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うたたね「出家の決意」原文と現代語訳・解説・問題|日記紀行文学

撫子
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「うたたね」は鎌倉時代中期に書かれた日記紀行文学で、作者は阿仏尼(あぶつに)です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくるうたたねの中から「出家の決意」について詳しく解説していきます。

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うたたね「出家の決意」の解説

うたたねでも有名な、「出家の決意」について解説していきます。

うたたね「出家の決意」の原文

もの思ふことの慰むにはあらねども、寝ぬ夜の友とならひにける月の光、待ち出でぬれば、例の妻戸押し開けて、ただ一人見出したる。

荒れたる庭の秋の露、かこち顔なる虫の音も、ものごとに心を痛ましむつるつまとなりければ、心に乱れ落つる涙をおさへて、とばかり来し方行く先を思ひ続くるに、さもあさましくはかなかりける契りのほど、などかくしも思ひ入れけんと、わが心のみぞ、返す返す恨めしかりける。

春ののどやかなるに、何となく積もりにける手習ひの反故など破り返すついでに、かの御文どもを取り出でて見れば、梅が枝の色づきそめし初めより、冬草枯れ果つるまで、折々のあはれ忍びがたき節々を、うちとけて聞こえ交はしけることの積もりにけるほども、今はと見るはあはれ浅からぬ中に、いつぞや、常よりも目とどまりぬらんかしとおぼゆるほどに、こなたのあるじ、

「今宵はいとさびしくもの恐ろしき心地するに、ここに臥し給へ。」

とて、わが方へも帰らずなりぬ。
あなむつかしとおぼゆれど、せめて心の鬼も恐ろしければ、

「帰りなん。」

とも言はで臥しぬ。

人はみな何心なく寝入りぬるほどに、やをら滑り出でづれば、灯火の残りて心細き光なるに、人やおどろかんとゆゆしく恐ろしけれど、ただ障子一重を隔てたる居所なれば、昼より用意しつる鋏、箱の蓋などの、ほどなく手にさはるもいとうれしくて、髪を引き分くるほどぞ、さすがそぞろ恐ろしかりける。

削ぎ落しぬれば、この蓋にうち入れて、書き置きつる文なども取り具して置かんとするほど、出でつる障子口より、火の光のなほほのかに見ゆるに、文書きつくる硯の、蓋もせでありけるが、かたはらに見ゆるを引き寄せて、削ぎ落したる髪をおし包みたる陸奥国紙のかたはらに、ただうち思ふことを書きつくれど、外なる灯火の光なれば、筆の立ち所も見えず。

なげきつつみを早き瀬のそことだに 知らず迷はん跡ぞかなしき

身をも投げてんと思ひけるにや。

ただ今も出でぬべき心地して、やをら端を開けたければ、晦日ごろの月なき空に雨雲さへ立ち重なりて、いともの恐ろしう暗きに、夜もまだ深きに、宿直人さへ折しもうち声づくろふもむつかしと聞きゐぬたるに、かくても人にや見つけられんとそら恐ろしければ、もとのやうに入りて臥しぬれど、かたはらなる人(*)、うち身じろぎだにせず。

先々も宿直人の夜深く門を開けて出づるならひなりければ、そのほどを人知れず待つに、今宵しもとく開けて出でぬる音すれば。
さるは、心ざす道もはかばかしくもおぼえず。

ここも都にはあらず、北山の麓といふところなれば、人目しげからず。
木の葉の陰につきて、夢のやうに見置きし山路をただ一人行く心地、いといたくあやふくもの恐ろしかりける。

山人の目にもとがめぬままに、あやしくものぐるほしき姿したるも、すべてうつつのことともおぼえず。
さても、かの所、西山の麓なれば、いとはるかなるに、夜中より降り出でつる雨の、明くるままに、しほしほと濡るるほどになりぬ。

ふるさとより嵯峨のわたりまでは、少しも隔たらずみわたさるるほどの道なれば、さはりなく行き着きぬ。

うたたね「出家の決意」の現代語訳

もの思うことで、心が安まるわけではないが、眠れない夜の友として慣れてしまった月の光が(今夜も)待っていると出てきたので、いつものように妻戸を押し開けてただ一人で外を見ている。

荒れている庭の置く秋の露も、恨めしそうな様子の虫の声も、どのものもそれぞれに私の心を痛ませるきっかけとなるので、心の中に乱れ落ちる涙を押さえてしばらくの間過去のことや行く末のことを考え続けていると、いかにも情けなくはかなかった(あの方との愛の)契りのことを、なぜあの時はあんなに思い込んだのであろうかと、我が心ばかりが、どう考えてみても恨めしいことである。

春ののどかな日に、なんとなくたまってしまった手すさびの使用済みの紙などを破り捨てるついでに、あの方からのお手紙の数々を取り出して眺めると、(去年の早春の)梅の枝につぼみが色づき始めた恋の初めころから、冬草が枯れ果てて(恋も終わって)しまうまで、その折々の抑えきれない思いのあれこれを、うちとけて手紙をかわしたことの積もった間のことも、今は(これが最後)と思って見るのは、感慨が浅くない中で、(この手紙は)いつ(もらったの)だろうか、(どうして今、)ふだんよりも目にとまったのかしらねと思われるが、そのときに、こちら側の部屋の主の女性が、

「今宵はたいそう寂しく、なんとなく恐ろしい気がするから、(あなたも一緒に)ここにおやすみなさいな。」

と言うので、自分の部屋にも戻らないでしまった。

あぁ、厄介なことになってしまった、と思われるけれど、(出家のことを心に決めている身に)ひどく気がとがめるので、

「(自分の部屋に)戻りましょう。」

とも言わないで、そこに横になった。

同室の人がみんな無心に寝入ってしまったころにそっと部屋を出ると、灯火が消え残っていて、心細い光であるが、だれか目を覚ましはしないかとひどく恐ろしいが、ただ唐紙一枚を隔てた自分の部屋なので、(そこに)昼から用意しておいた鋏や、箱のふたなどがすぐに探り当てられるのもたいそううれしく、(いよいよ髪を切ろうと手で)髪を引き分けたときは、やはりなんとなく恐ろしかった。

髪を削ぎ落してしまったので、この箱のふたに髪を入れて、書いて置いた手紙などをそれに取り添えて置こうとするとき先刻出てきた襖の口から、灯火の光が依然としてほのかに見えるので、手紙を書きつけた硯がふたもしないであったのがそばに見えるのを引き寄せて、そぎ落した髪を包んだ陸奥国紙の端に、ただちょっと思ったことを書きつけたが、外の灯火の光なので、(暗くて)自分の書いた字も見えない。

嘆きながらわが身を川の早瀬の底に沈めたとしてもそこがどことさえわからず、魂が迷うことになるだろうと思えば、死後のことまでも悲しい。

(そのときの私は)身を投げてしまおうと思っていたのであろうか。

今すぐにでも家を出てしまいたい気がして、そっと縁側にある妻戸を開けたところ、月の終わりごろの月のない空に、雨雲までも幾重にも重なって、ひどく気味が悪いように暗く(そのうえ)、夜もまだ深い折から、宿直の人までもがちょうどその折に夜回りの改まった声をあげたりするのもわずらわしく聞いているうち、これでは人に見つけられるかもしれないと(気がとがめて)なんとなく恐ろしいので、もとのように部屋に入って横になったが、そばにいる朋輩は身じろぎさえもしない。

以前から宿直の人は夜遅くに門を開けて帰宅するのが常であったから、その時刻をひそかに待っていると、今夜に限って早く戸を開けて出て行った音がするので(私もその夜、邸を出たのであった)。

それにしても、目的地への道もはっきりとはわからなかった。
ここも都のうちではなく、北山の麓というところなので、人目も多くない。

木の下陰を伝って、かすかに見覚えていた山路を、たった一人で歩いていく心地は、とてもひどく危なっかしくそら恐ろしかった。
山里の人の目にもあやしまれないままに、異様で何かに憑かれたような姿をして(歩いて)いる(自分の姿)も、全く現実のこととも思われない。

そうであっても、目ざす尼寺は、京の西方の山の麓であるから、とても遠くはるかな先であるうえに、夜中から降り出した雨が、(夜が)明けるにつれてしっとりと衣も濡れるほどになった。

住み慣れた北山の麓から嵯峨のあたりまでは、少しもさえぎるものもなく見渡すことができるほどの道であるから、何の支障もなく行き着いた。

うたたね「出家の決意」の単語・語句解説

[ただ一人見出したる]
ただ一人で外を見ている。

[心を痛ましむるつまとりなければ]
私の心を痛ませるきっかけとなるので。

[手習ひの反故]
手すさびの使用済みの紙。

[梅が枝の色づきそめしより、冬草枯れ果つるまで]
(去年の早春の)梅の枝につぼみが色づき始めた恋の初めのころから、冬草が枯れ果てて恋も終わってしまうまで。

[聞こえ交はしける]
手紙をかわし申し上げた。

[今は]
今は限りと。

[もの恐ろしき心地するに]
なんとなく恐ろしい気がするので。

[帰りなん]
(自分の部屋に)戻りましょう。

[やをら滑り出づれば]
そっと部屋を出ると

[人やおどろかん]
誰か目を覚ましはしないか。

[さすがそぞろ恐ろしかりける]
やはりなんとなく恐ろしかった。

[蓋もせでありけるが]
ふたもしないであったのが。

[そことだに知らず迷はん]
(死んだ後)そこがどことさえわからず、魂が迷うことになるだろう。

[晦日]
月の終わり。

[雨雲さへ立ち重なりて]
雨雲までも幾重にも重なって。

[むつかしと聞きゐたるに]
わずらわしく聞いているうち。

[かくても人にや見つけられん]
これでは人に見つけられるかもしれない。

[先々も]
以前から。

[今宵しも]
今夜に限って。

[人目しげからず]
人目も多くない(わずらわしくない)。

[すべてうつつのことともおぼえず]
全く現実のこととも思われない。

*うたたね「出家の決意」でテストによく出る問題

○問題:「かたはらなる人(*)」とは誰か。
答え:この部屋の主を含む、自分の傍にいる朋輩。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回はうたたねでも有名な、「出家の決意」についてご紹介しました。

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

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