癇癖談「当代の流行」原文と現代語訳・解説・問題|上田秋成の小説

アネモネの写真|冬に咲く花
Sponsored

癇癖談(くせものがたり)は上田秋成が書いた小説で、1791年(寛政3)頃に書かれました。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる癇癖談の中から「当代の流行」について詳しく解説していきます。

Sponsored

癇癖談「当代の流行」の解説

癇癖談でも有名な、「当代の流行」について解説していきます。

癇癖談「当代の流行」の原文

世にはやるといふことどもを見聞くに、道々しきにも、芸能にも、よきことのみ行はるるにはあらで、おほかたがなしやすく、学びやすきことの、まづはやるなりけり。
さりとて、また、あしきことのみ行はるると言ふにはあらず。

人のうたてがること、はたよしと言ふにもあらず。
至りてのわざは、まねやすからず、行ひがたしとは、昔々の人の言ひしぞかし。

儒者といへども、昔ありしは、ひたすら実体にて、頼もしかりしを、今はさる師はよにまれにて、詩文はなばなしく作りもて、手(*)など風流に書きすさび、酒をかしく酌み遊ぶもとへは、人あまた集まれり。
仏の道にも、よにありがたき人は、山に籠りて現れず、亭主ぶりよく、疎きをとぶらふ言葉にもうれしと思はせ、もの清く調じて食はせ、今の世の茶の湯もて、呼び呼ばれ、よろづに愛敬づきたらんには、まづ詣づるなり。

翁・姥らとても、さる方にひとたび参りては、若き人の遊所に通ひそめしに等しく、あはれ一日も怠らじと思ひしめるぞかし。
また、男・女の髪の風、櫛の飾り、衣の色合ひこそ、昨日の鶸茶は今日の栗皮色、都のは吾妻に移り、吾妻のは浪華に移し来るも、あら忙しの世にもあるかな。

人の心ばかり頼まれぬものはあらじかし。
白茶、浅葱、鼠などの、眠り目なるをさへ、はなやかなりと見し世も目の当たりなりしを、いつしか、萌黄、瑠璃紺、紅かけ花色の、深きにうつろひゆけり。

古き翁たちの、ひたすら昔を忍ぶげにて、羽織の丈、小袖の仕立て、紋の大きさ、いささかも今に移らじとするも、それはた、おのが若き昔の浮きたるはやりごととは思ひ知らぬぞかし。
また、新曲などとて、糸に合はするも、よき人の心尽くしせしは、

「あな屈したりや。」

など言ひて、人興せず、唱歌続かず。
あまりなるまでざればみて、何の心もなきが、遠き田舎の果て果てまで、歌ひはやせるなりけり。

何事にもあれ、しばしはやりもて騒ぐことの、あさはかならぬはあらじものを。

癇癖談「当代の流行」の現代語訳

世の中に流行しているということを見たり聞いたりすると、学問の方面でも、芸能の方面でもよいものばかりが流行するのではなくて世間一般の人々がしやすく、学びやすいことがまず流行するのであった。
そうはいっても、また、感心しないようなことだけがなされているというのではない。

人のいやがることが、それでもやはりよいというのではない。
最高の技芸はまねをするのは容易でなく、するのが難しいとは、ずっと昔の人が言ったことである。

儒学者といっても、昔の人たちはもっぱら誠実で、頼もしかったが、昨今はそのような師は非常にまれで、漢詩や漢文をはなばなしく作って、文字などを風流に書き興じ、酒を愉快に飲んで遊ぶ人の所へは、人がたくさん集まる物だ。

仏教の方面でも、世にもまれな徳の高い僧は、山奥にこもって姿を現さない。
客扱いがうまく、参詣がとだえがちな人に様子を尋ねる言葉で(来た人に)うれしいと思わせ、食べ物をこぎれいに調理して食べさせ、このごろ流行している茶の湯で、呼んだり呼ばれたり、万事愛想がよいような人には、(信者たちは)まず詣でるのである。

老人・老女たちであってもそのような人に一度お参りするようになると、若い人たちが色里に通いはじめるのと同じで、もう一日も怠らないようにしようといちずに思い込むのである。

また、男女の髪かたち、櫛の飾り、衣服の色合いにしても、昨日は黄味の勝った茶色が流行していたのに、今日は濃い茶色がはやっている。
京都の流行は江戸に移って、江戸の流行が大阪に移ってくる様子からも、全く忙しい世の中であることだなぁ。

人の心くらいあてにならないものはないだろう。
白茶色、水色、青っぽい淡い黒色のような、眠ったようにくすんで目立たない色さえ、はなやかだなぁと思った時代もつい最近だったのに、いつの間にか、もえぎ色、るり紺色、紅かけ花色といった濃い色に(流行が)移ってきた。

昔かたぎの老人たちが、ひたすらに昔をなつかしく思っている様で、羽織の丈やら小袖の仕立て方、紋の大きさなど、少しも当世風に移るまいとしているのも、それはまた、自分自身が若かった昔のうわついた流行だったとは思いもよらないのである。

また、新曲などといっても、三味線に合わせて歌うのだが、立派な人が苦労して作った物は、

「ああ気がめいるなぁ。」

などと言って、人々はおもしろがらず、歌おうとしない。
ひどいと言いたくなるほどふざけて何の意味もないような曲のほうが、遠い田舎のはてまで歌われているのであった。

何事につけても、一時の流行で大騒ぎする様な事は、あさはかでないものはないものだなぁ。

癇癖談「当代の流行」の単語・語句解説

[おほかた]
世間一般の人々。

[うたてがる]
いやがる、いやだと思う。

[はた]
しかしながら、それでもやはり。

[至りてのわざ]
最高の技芸。

[作りもて]
作って、作り続けて。

[茶の湯もて]
茶の湯で。

[髪の風]
髪型。

[目の当たりなり]
つい最近。

[忍ぶげにて]
なつかしく思っている様で。

*癇癖談「当代の流行」でテストによく出る問題

○問題:「手(*)」の意味は何か。
答え:筆跡。文字。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は癇癖談でも有名な、「当代の流行」についてご紹介しました。

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

[関連記事]
古典作品一覧|日本を代表する主な古典文学まとめ

参考/おすすめ書籍


タイトルとURLをコピーしました