大鏡(おおかがみ)は平安時代後期に書かれた歴史物語で、作者はわかっていません。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる大鏡の中から「師輔(もろすけ)の夢ー世継の語り(右大臣師輔)」について詳しく解説していきます。
大鏡「師輔の夢ー世継の語り」の解説
大鏡でも有名な、「世継の語り」について解説していきます。
大鏡「師輔の夢ー世継の語り」の原文
おほかた、この九条殿、いとただ人ににはおはしまさぬにや、思しめし寄る行く末のことなども、かなはぬはなくぞおはしましける。
口惜しかりけることは、まだいと若くおはしましける時、
「夢に、朱雀門の前に、左右の足を西東の大宮にさしやりて、北向きにて内裏を抱きて立てりとなむ見えつる。」
と仰せられけるを、御前になまさかしき女房の候ひけるが、
「いかに御股痛くおはしましつらむ。」
と申したりけるに、御夢違ひて、かく子孫は栄えさせ給へど、摂政・関白、えしおはしまさずなりにしなり。
また、御末に、思はずなることのうち交じり、帥殿の御ことなども、かれ(*)が違ひたるゆゑに侍るめり。
「いみじき吉相の夢も、悪しざまに合はせつれば、違ふ。」
と、昔より申し伝へて侍ることなり。
荒涼して、心知らざらむ人の前に、夢語り、な、この聞かせ給ふ人々、しおはしまされそ。
今行く末も、九条殿の御末のみこそ、とにかくにつけて広ごり栄えさせ給はめ。
大鏡「師輔の夢ー世継の語り」の現代語訳
いったい、この九条殿(師輔)は、本当にただ者ではいらっしゃらないのであろうか、(ご自分の心に)お思いになる将来のことなども、成就しないことはなくていらっしゃった。
残念だったことは、(師輔公が)まだたいそう若くていらっしゃった時、
「夢の中に、朱雀門の前で、左右の足を西と東の大宮大路に広げまたがって、北向きになって内裏を抱きかかえて立っているというのが見えたよ。」
とおっしゃったところ、(師輔公の)御前にこざかしい女房が控えていた、その女房が、
「どれほどお股が痛くていらっしゃることでしょうか。」
と申し上げたので、(師輔公の)夢がはずれて、このように子孫は栄えていらっしゃるのに(師輔公は)摂政・関白(の職)を、なさることができずに終わったのです。
また、ご子孫に、意外な不幸が交じ(って起こ)り、師輔(=藤原伊周)の(太宰権師の左遷の)ことなども、この夢が外れたためだったようです。
「いいことがある前兆のたいへんすばらしい夢も、悪いように占ってしまうと、はずれる。」
と、昔から申し伝えていることです。
油断して、物の道理をわきまえないような人の前で、見た夢の話を、ここにいる(この話を)聞いていらっしゃる方々よ、なさってはいけませんよ。
現在も将来も、九条殿(師輔)のご子孫だけが、何かにつけてご繁栄なさることでしょう。
大鏡「師輔の夢ー世継の語り」の単語・語句解説
いったい。だいたい。そもそも。
[ただ人]
普通の人。常人。
[おはしまさぬにや]
いらっしゃらないのでしょうか。
[思しめし寄る行く末のこと]
あれこれとお思いになる将来のこと。
[かなはぬはなく]
成就しないことはなく。
[口惜しかりけることは]
残念であったことは。
[なまさかしき女房の候ひけるが]
こざかしい女房がお仕えしていたのが。
[いかに御股痛くおはしましつらむ]
どんなにか股が痛くていらっしゃることでしょうか。
[摂政]
天皇が幼少、または女性である時に天皇に代わり政治を行う職の名称。
[関白]
天皇を助け政治を執り行った最高の官職。
[えしおはしまさず]
なさることができない。
[思はずなることのうち交じり]
思ってもいなかった不幸なことが次々起こって。
[悪しざまに]
悪いように。
[心知らざらむ人]
物の道理をわきまえないような人。
[しおはしまされそ]
なさってはいけませんよ。
[広ごり栄えさせ給はめ]
繁栄なさるでしょう。
*大鏡「師輔の夢ー世継の語り」でテストによく出る問題
○問題:「かれ(*)」とは何をさしているか。
答え:「この夢」のこと。若き日に師輔が見た夢。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は大鏡でも有名な、「師輔の夢ー世継の語り(右大臣師輔)」についてご紹介しました。
その他については下記の関連記事をご覧下さい。
[関連記事]
古典作品一覧|日本を代表する主な古典文学まとめ