讃岐典侍日記(さぬきのすけにっき)は平安時代後期に書かれた日記文学で、作者は讃岐典侍藤原長子です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる讃岐典侍日記の中から「しるしの箱」について詳しく解説していきます。
讃岐典侍日記「しるしの箱」の解説
讃岐典侍日記でも有名な、「しるしの箱」について解説していきます。
讃岐典侍日記「しるしの箱」の原文
おどろかせ給へる御目見など、日ごろの経るままに、弱げに見えさせ給ふ。
大殿籠もりぬる御気色なれど、我は、ただまもり参らせて、おどろかせ給ふらむに、皆寝入りてと思しめさば、もの恐ろしくぞ思しめす、ありつる同じさまにてありけるとも御覧ぜられむと思ひて、見参らすれば、御目弱げにて御覧じ合はせて、
「いかに、かくは寝ぬぞ。」
と仰せらるれば、御覧じ知るなめりと思ふも、堪へがたくあはれににて、
「三位の御もとより、『前々の御心地の折も、御傍らに常に候ふ人の見参らするがよきに、よく見参らせよ。折悪しき心地を病みて参らぬがわびしきなり。』」
と申せど、えぞ続けやらぬ。
「せめて苦しくおぼゆるに、かくして試みむ。休まりやする。」
と仰せられて、御枕上なるしるしの箱を御胸の上に置かせ給ひたれば、まことにいかに堪へさせ給ふらむと見ゆるまで、御胸の揺るぐさまぞ、ことのほかに見えさせ給ふ。
御息も、絶え絶えなるさまにて、聞こゆ。
顔も見苦しからむと思へど、かくおどろかせ給へる折にだに、物参らせ試みむとて、顔に手を紛らはしながら、御枕上に置きたる御粥や蒜などを、もしやと含め参らすれば、少し召し、また大殿籠もりぬ。
讃岐典侍日記「しるしの箱」の現代語訳
(堀河天皇は)お目覚めになった御目元などが、日々の経つにつれて、弱々しく見えなさる。
お眠りになったご様子であるけれど、私は、ただひたすらお見守り申し上げて、お目覚めになる(ようなことがあったらその)時に、皆寝入って(いる)とお思いになったなら、なんとなく恐ろしくお思いになる(であろう)、さっきと同じ様子であったとも御覧になっていただこうと思って、見申し上げたところ、御目を弱々しく見合わせなさって、
「どうして、このように寝ずにいるのか。」
とおっしゃるので、御覧になればおわかりになるようだと思うにつけても、堪えがたくおいたわしくて、
「三位(=姉)の御もとから『以前の御病気の折も、お側にいつもお仕えしている人が(ご様子を)見申し上げるのがよいのだから、よく見申し上げなさい。時期の悪い病気を思って(自身が)参上できないのがやりきれません。』」
と(言って寄こしたと)申しあげるけれど、(涙で)続け(て言い)切ることができない。
「大変苦しく思われるので、このようにして試してみよう。休まりもするだろうか。」
とおっしゃって、御枕元にあるしるしの箱を御簾の上にお置きになったところ、本当にどうやって(苦しさに)お堪えになっていらっしゃるのだろうと見えるまでに、御簾が揺れ動く様子が、予想以上に(私に)見られなさる。
御息も、絶え絶えな様子で、(息づかいが)聞こえる。
(私の)顔も見苦しいであろうと思うが、せめてこのようにお目覚めになっている時にだけでも、物(=お食事)を試しに差し上げてみようと思って、(自分の)顔に手をかざして隠しながら、御枕元に置いた御粥やにんにくなどを、もしやと(お口に)含め申し上げると、少し召しあがり、またおやすみになった。
讃岐典侍日記「しるしの箱」の単語・語句解説
日が経つにつれて。
[弱げに見えさせ給ふ]
弱々しく見えなさる。
[大殿籠もりぬる御気色なれど]
お眠りになったご様子であるけれど。
[ただまもり参らせて]
ただひたすら見守り申し上げて。
[おどろかせ給ふらむに]
ただひたすら見守り申し上げて。
[思しめさば]
お思いになったならば。
[もの恐ろしく]
なんとなく恐ろしく。
[ありつる]
先ほどの。
[御覧ぜられむ]
御覧になっていただこう。
[かくは寝ぬぞ]
このように寝ないでいるのか。
[御覧じ知るなめり]
御覧になればおわかりになるようだ。
[参らぬがわびしきなり]
参上できないのがやりきれません。
[えぞ続けやらぬ]
続け(て言い)切ることができない。
[せめて]
ここでは”非常に”の意味。
[休まりやする]
休まりもするだろうか。
[いかに堪へさせ給ふらむ]
どうやって堪えなさるのだろうか。
[ことのほかに見えさせ給ふ]
予想以上に(苦しそうに、私に)見られなさる。
[顔も見苦しからむと思へど]
(私の)顔も見苦しいであろうと思うが。
[物参らむせ試みむ]
物(=食べ物)を試しに差し上げてみよう。
[もしやと]
もしや少しでも召し上がるかと。
[少し召し]
少し召しあがり。
*「しるしの箱」でテストによく出る問題
○問題:「かくして(*)」とは具体的にどのようなことか。
答え:枕元にあるしるしの箱を、胸の上に置くこと。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は讃岐典侍日記でも有名な、「しるしの箱」についてご紹介しました。
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