三冊子(さんぞうし)は江戸時代中期に書かれた俳諧論書で、作者は服部土芳です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる服部土芳の「三冊子」について詳しく解説していきます。
(読み方は”さんぞうし”)
服部土芳「三冊子」の解説
服部土芳の「三冊子」について解説していきます。
服部土芳「三冊子」の原文
師の風雅に万代不易あり、一時の変化あり。
この二つにきはまり、その本一つなり。
その一といふは風雅の誠なり。
不易を知らざれば、まことに知れるにあらず。
不易といふは新古によらず、変化流行にもかかはらず、誠によく立ちたる姿なり。
代々の歌人の歌を見るに、代々その変化あり。
また、新古にもわたらず、今見るところ昔見しに変はらず、あはれなる歌多し。
これまづ不易と心得べし。
また、千変万化するものは、自然の理なり。
変化にうつらざれば、風あらたまらず。
これに押うつらずといふは、一端の流行に口つき時を得たるばかりにて、その誠を責めざるゆゑなり。
責めず心をこらさざる者、誠の変化を知ると計いふことなし。
ただ人にあやかりてゆくのみなり。
責むる者はその地に足を据ゑがたく、一歩自然に進む理なり。
行く末いく千変万化するとも、誠の変化はみな師の俳諧なり。
「かりにも古人のよだれをなむる事なかれ。四時の押しうつるごとくものあらたまる、みなかくのごとし。」
とも言へり。
師末期の枕に、門人、こののちの風雅を問ふ。
師のいはく、
「この道の我にでて百変百化す。しかれどもその境・真・草・行を離れず。その三つの中にいまだ一、二をも尽くさず。」
となり。
生前をりをりの戯れに、
「俳諧いまだ俵口をとかず(*)。」
とも言ひ出られしことたびたびなり。
服部土芳「三冊子」の現代語訳
先生(芭蕉)の俳諧には、永遠に(価値の)変わらない面と、時代によって変化する面とがある。
この二つのいずれかに尽きるのであるが、その根本は一つである。
その一つというのは俳諧における本質のことである。
不易ということを知らなければ、本当に(俳諧を)知っているということにはならない。
不易ということは、新しいとか古いとかに関係なく、変化し流行するということにも関わりがなく、(風雅の)本質にしっかりと立脚した(俳諧の)姿のことである。
代々の歌人の歌を見ると、時代時代(によって)作風に変化がある。
また、(時代の)新しいとか古いとかに関係なく、今見るところは昔の人が見たこと(感じたこと)と変わらず、趣深い歌が多い。
これ(=趣深い歌)をまず不易と心得るがよい。
また、全てのものがさまざまに移り変わっていくのが自然の法則である。
(俳諧も)変化して移り変わらなければ、作風が新たにならない。
これ(=俳諧)が変化し移り変わらないということは、一時的な流行に詠みぶりがうまく乗って世にもてはやされているだけであって、その(=風雅)本質を追求しないからである。
(風雅の本質を)追求せず、心をそれに集中しない者は、ほんとうの変化を知っているとはいえないのである。
ただ人のまねをしてゆくばかりである。
(風雅の本質を)追求する者は、今の場所にとどまっていることができず、一歩自然と前進する道理である。
これから先(俳諧が)どんなに変化しても、本当の変化はみな先生の俳諧(につながるもの)である。
「かりにも先人のまねをするようなことはあってはならない。四季が移り変わるように全てのものは新たになっていくが、(俳諧が変化していくのも)みなこのようなものである。」
とも言った。
先生臨終の枕もとで、門人は、先生亡きあとの俳句について尋ねた。
先生が言うには、
「この道(蕉風俳諧)が自分に始まってから、多くの変化を重ねてきた。そうではあるけれど、その(変化した)範囲は、(書道における)真・草・行(の範囲)を出ていない。その三つの中でもまだ一、二をも尽くしていない。」
ということである。
(先生は)生前時々冗談で、
「俳諧はまだ米俵の口を解かない(程度のものだ。)」
ともおっしゃったことが、たびたびであった。
服部土芳「三冊子」の単語・語句解説
尽き。
[その本一つなり]
万代不易と一時の変化が生まれる根本は一つである。
[新古によらず]
作品が新しいとか古いとかに関わらず。
[あはれなる歌]
ここでは”趣く人の心に感銘を与える”という意味。
[心をこらさざる者]
心を集中しない者。
[あやかりて]
人のまねをして。
[据ゑがたく]
とどめがたく。
[いく千変万化するとも]
たとえどんなに変化しても。
[みなかくのごとし]
みなこのようなものである。
[枕]
枕元。
[百変百化す]
何度も変化する。
[しかれども]
多くの変化を重ねてきたけれど。
[戯れに]
冗談で、ふざけて。
[言ひ出られしこと]
おっしゃったこと。
*服部土芳「三冊子」でテストによく出る問題
○問題:「俳諧いまだ俵口をとかず(*)」とはどのようなことか。
答え:まだ入り口にも達していない、ということ。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は服部土芳の「三冊子」についてご紹介しました。
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