日本には古くから書道が伝わっており、その歴史は今も伝わっています。
そこで今回は、書道の歴史と、筆や硯で伝統工芸品に指定されているものを一覧でご紹介したいと思います。
1.書道の歴史
飛鳥時代から奈良時代「漢字の伝来から写経体へ」
平安時代「国風文化の隆盛とかな文字」
鎌倉時代から江戸時代「唐様と和様の成立」
近代以降
2.筆、硯の伝統工芸品一覧
雄勝硯
豊橋筆
鈴鹿墨
奈良筆
熊野筆
川尻筆
赤間硯
奈良墨
3.まとめ
1.書道の歴史
墨と毛筆で書を綴り、鑑賞する書道。現在でも小学校から授業に取り入れられていますね。
その起源はどこにあるのでしょうか?
日本で書道が発展した経緯、歴史を大まかに紹介します。
1-1.飛鳥時代から奈良時代「漢字の伝来から写経体へ」
書道にはまず文字の発達が欠かせません。
中国から日本に漢字が伝わったのは弥生時代でしたが、文字として使われるようになったのは5世紀ごろになります。
きっかけは仏教伝来。
文字と書道は仏教とともに一気に広まっていきます。
その理由は、飛鳥時代の聖徳太子や奈良時代の聖武天皇によって写経が盛んに推奨されたから。
全国に写経所ができ、分業で経文を書き写しました。
当時は遣隋使や遣唐使によって中国の文化がもたらされ、中国で書道の黄金期を迎えていた唐代の影響を強く受けました。
日本でも晋唐の書風が流行したといわれます。
1-2.平安時代「国風文化の隆盛とかな文字」
平安時代初期、書道に優れた「三筆」と呼ばれる嵯峨天皇、空海、橘逸勢が登場します。
この三筆は唐の書風を模倣するにとどまらず、日本独自の書風を確立しようと試みました。
さらに平安中期になると唐が衰退をはじめていたため遣唐使が中止になり、中国の真似ではなく日本独自の文化が一斉に花開きます。
これが「国風文化」です。
国風文化はあらゆる分野に及びました。
建築では「寝殿造」、屏風絵や襖絵は「大和絵」、工芸では「蒔絵」、彫刻は「寄木造」。
そして書道は「かな文字」の発達により大きく様相を変えます。
かな文字と漢字を組み合せ、調和をとった「和様書道」が完成。
平和な時代であったことも後押しして、日本書道の黄金期を迎えました。
1-3.鎌倉時代から江戸時代「唐様と和様の成立」
鎌倉時代になると武家と僧侶が台頭していきます。
書道は貴族だけでなく、武士や僧侶のたしなみとして重要視されました。
さらに中国から禅僧が来日したのも鎌倉時代。
禅様(墨跡)と呼ばれる書風が取り入れられ、広まったといわれます。
その後、室町時代から戦国時代は世が乱れ、書道は一時的に衰退します。
一方で茶の湯の普及により、茶室を古筆(平安時代から鎌倉時代に書かれた、かな文字の名筆)で装飾する文化が生まれました。
古筆の真贋や優劣を見極める鑑定家もいたそうです。
書道が建築や茶の湯とのかかわりがうかがえます。
再び書道が隆盛を迎えるのは、太平の江戸時代。
中国式の書風は「唐様」として儒教とともに普及します。一方で鎖国により、日本独自の和様も発展。
江戸時代の大きな特徴は、上流階級だけでなく庶民にも書道が広まった点です。
寺子屋では和様の1つ、御家流を教授していました。
儒教者や文人の間では唐様が使われ、貴族や武家、庶民の多くは和様が主流だったようです。
1-4.近代以降
明治政府の中心だった太政官の文書課で唐様が多く使われていたことから、官製の文書が唐様で記されるようになります。
また唐様、和様の粋を超えて芸術としての書道が自由に追求されました。
大正時代から昭和初期には大規模な書道団体の結成、書道刊行物の発行、展覧会が盛んにおこなわれます。
戦後は、書道が二科展に参加するなど芸術の1つとして認知されています。
「前衛書道」というジャンルも現れ、国内外で広く活動。
日本のアートで大きな位置を占めています。
日本の書道の発展には仏教と国の対外政策が寄与していたといえるでしょう。
書道が栄えた時代は平穏であった点も興味深いです。
2.筆、硯の伝統工芸品一覧
書道に関係の深い筆と硯の伝統工芸品を一覧でご紹介します。
なお、書道用紙にも用いられる和紙の工芸品一覧は「和紙の魅力とその種類。日本の和紙産地別の特徴と洋紙との違い比較」をご覧下さい。
2-1.雄勝硯
雄勝硯とは宮城県(仙台市、石巻市)で主に生産される伝統的工芸品です。
美しい黒と光沢が人気の硯です。
雄勝硯は16世紀頃から生産が始まっており、その品質の高さは伊達政宗も賞賛するほどでした。
その後は伊達藩のお抱えの産業となり、手厚い保護を受け発展していきました。
黒色硬質粘板岩である雄勝硯は、その美しい光沢と黒さ、丈夫さが人気となっています。
産地情報
名称 | 雄勝硯生産販売協同組合 |
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住所 | 〒986-1333 宮城県石巻市雄勝町雄勝53-1 雄勝町インフォメーションセンター内 |
2-2.豊橋筆
豊橋筆とは愛知県(豊橋市、豊川市、蒲郡市、新城市、田原市)で主に生産される伝統的工芸品です。
書き味の滑らかさで高い評価を得ている筆です。
豊橋筆は19世紀の初め、京都の職人だった鈴木甚左衛門を招いて製造を始めたのが起源とされています。
豊橋筆の特徴として墨の吸収性が高さと滑らかな書き味が挙げられます。
製作技法に「練り混ぜ」という技法があり、異なる性質と長さの毛を水で混ぜ合わせる工程を経ることで滑らかな書き味となります。
産地情報
名称 | 豊橋筆振興協同組合 |
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住所 | 〒440-0838 愛知県豊橋市三ノ輪町5-13 |
2-3.鈴鹿墨
鈴鹿墨とは三重県(鈴鹿市)で主に生産される伝統的工芸品です。
上品な色味が特徴の、長い歴史を持つ墨です。
鈴鹿墨の歴史は古く、9世紀頃に周囲の山で採取した松を用いて生産を始めたのが起源とされています。
鈴鹿墨は上品な色味を持つ為、プロの書道家にも愛用されています。
産地情報
名称 | 鈴鹿製墨協同組合 |
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住所 | 〒510-0254 三重県鈴鹿市寺家5-5-15 |
2-4.奈良筆
奈良筆とは奈良県(奈良市、大和郡山市)で主に生産される伝統的工芸品です。
練り混ぜ法で製作される高級筆です。
奈良筆は9世紀頃、空海によって伝えられたといわれています。
様々な毛(羊、鹿、馬、イタチ、狸など)を用い、「練り混ぜ」という技術を用いて製作します。
産地情報
名称 | 奈良毛筆協同組合 |
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住所 | 〒630-8016 奈良県奈良市南新町78-1 (株)あかしや内 |
2-5.熊野筆
熊野筆とは広島県(安芸郡熊野町)で主に生産される伝統的工芸品です。
肌触りの良さに定評のある筆です。
熊野筆は江戸時代の終わり頃、奈良へ出稼ぎに行った際に筆の仕入れを行うと共に技術を習得し、帰郷後に生産を始めたのが起源と言われています。
熊野筆は肌触りの良さに最大の特徴があり、これは毛先を切ることなく揃える技術により生まれます。
産地情報
名称 | 熊野筆事業協同組合 |
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住所 | 〒731-4214 広島県安芸郡熊野町中溝3-13-19 |
2-6.川尻筆
川尻筆とは広島県(呉市)で主に生産される伝統的工芸品です。
しなやかでやわらかい毛先を持つ筆です。
川尻筆は江戸時代の終わり頃、上野八重吉という人物が生産を始めたのが起源とされています。
毛先がしなやかな為、細かい文字や絵を描くのに適しています。
練り混ぜ技法で毛を混ぜる為、川尻筆は高品質な筆としてプロにも愛用されます。
産地情報
名称 | 川尻毛筆事業協同組合 |
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住所 | 〒737-2603 広島県呉市川尻町西1-2-2-401 |
2-7.赤間硯
赤間硯とは山口県(下関市、宇部市)で主に生産される伝統的工芸品です。
美しく丈夫な硯として人気となっています。
赤間硯の歴史は古く、12世紀頃に生産が始まったとされています。
原料に赤間石という石質が緻密な石を用いており、非常に丈夫で美しく深い色を持ちます。
産地情報
名称 | 山口県赤間硯生産協同組合 |
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住所 | 〒757-0214 山口県宇部市西万倉793 日枝様方 |
2-8.奈良墨
奈良墨は奈良県奈良市で作られる伝統工芸品で、平成30年11月に国指定の伝統的工芸品にも指定されました。
奈良墨の歴史は古く、806年(大同元年)に遣唐使として唐へ渡った空海が墨の製法を持ち帰った事がルーツとされています。
その後、400年以上の歴史を持つ奈良墨の老舗「古梅園」の始祖・松井道珍が奈良墨を広め、今となっては奈良墨が全国シェア約90%を誇るまでになっています。
産地情報
名称 | 奈良製墨組合 |
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住所 | 奈良県奈良市南京終町7-576 株式会社呉竹 総務部内 |
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は書道の歴史と関連する伝統工芸品について一覧でまとめてご紹介しました。
その他については下記の関連記事をご覧下さい。
関連記事:茶道華道だけじゃない!今始めたい日本の伝統和文化の習い事