とりかへばや物語「父大納言の苦悩」原文と現代語訳・解説・問題|高校古典

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とりかへばや物語は平安時代後期に書かれた2人のきょうだいの物語で、作者は不詳となっています。
新海誠監督の映画「君の名は。」は、この物語の影響を受けて製作された事でも知られています。

今回はそんな高校古典の教科書にも出てくるとりかへばや物語の中から「父大納言の苦悩」について詳しく解説していきます。

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とりかへばや物語「父大納言の苦悩」の解説

とりかへばや物語でも有名な、「父大納言の苦悩」について解説していきます。

とりかへばや物語「父大納言の苦悩」の原文

春のつれづれ、御物忌みにてのどやかなる昼つ方、姫君の御方に渡り給へれば、例の御帳のうちに、箏の琴を忍びやかに弾きすさび給ふなり。
女房などここかしこに群れゐつつ、碁・双六など打ちて、いとつれつれげなり。
御几帳押しやりて、

「などかくのみ埋れては。盛りなる花のにほひも御覧ぜよかし。御達などあまりいぶせく、ものすさまじげに思ひて侍るはや。」

とて、床に押しかかりてゐ給へば、御髪は丈に七、八寸ばかり余りたれば、花薄の穂に出でたる秋のけしきおぼえて、裾つきのなよなよとなびきかかりつつ、物語に扇を広げたるなど、こちたく言ひたるほどにはあらで、

「これこそなつかしかりけれ。いにしへのかぐや姫も、け近くめでたき方はかくしもやあらざりけん。」

と見給ふにつけては、目もくれつつ、近く寄り給ひて、

「こは、いかでかくのみはなり果て給ふにか。」

と、涙を一目浮けて、御髪をかきやり給へば、いと恥づかしげにおぼし入りたる御けしき、汗になりて、御顔の色は紅梅の咲き出でたるやうににほひつつ、涙も落ちぬべく見ゆる御まみの、いと心苦しげなるに、いとど我もこぼれて、つくづくとことごとなくあはれに見奉り給ふ。

さるは、かたはらいたければ、つくろひ化粧じ給はねど、わざともいとよくしたる色合ひなり。
御額髪も汗にまろがれて、わざとひねりかけたるやうにこぼれかかりつつ、らうたく愛敬づきたり。

「白くおびたたしくしたてたるは、いとけうとかりけり。かくてこそ見るべかりけれ。」

と見ゆ。
十二におはすれど、かたなりに遅れたるところもなく、人柄のそびやかにてなまめかしきさまぞ、限りなきや。
桜の御衣のなよよかなる六つばかりに、葡萄染めの織物の袿、あはひにぎははしからぬを着なし給へる、人柄にもてはやされて、袖口・裾の褄までをかしげなり。

「いで、あさましや。尼などにて、ひとへにその方の営み(*)にてやかしづき持たらまし。」

と見給ふも、くちをしく、涙ぞかきくらされ給ふ。

いかなりし昔の罪と思ふにも この世にいとどものぞ悲しき

西の対に渡り給ふに、横笛の声すごく吹き澄ましたなり。
空に響き上りて聞こゆるに、わが心地もそぞろはしく、

「めづらかなり。これもさななり。」

と聞き給ふに、また心地もかき乱るやうなれど、さりげなくもてなして、若君の御方をのぞき給へば、うちかしこまりて笛はさし置きつ。

桜・山吹など、これは色々なるに、萌黄の織物の狩衣、葡萄染めの織物の指貫着て、顔はいとふくらかに色あはひいみじうきよらにて、まみらうらうじう、いづことなくあざやかににほひ満ちて、愛敬は指貫の裾までこぼれ落ちたるやうなり。
見まほしく目もおどろかるるをうち見るには、落つる涙もものの嘆かしさも忘られてうち笑まるる御さまを、

「あないみじ。これももとの女にてかしづき立てたらんに、いかばかりめでたくうつくしからん。」

と胸つぶれて、御髪もこれは長さこそ劣りたれ、裾などは扇を広げたらんやうにて、丈に少しはづれたるほどにこぼれかかれる様体、頭つきなど、見るごとに笑まれながらぞ、心のうちはくらさるるや。
いと高き人の子供などあまたゐて、碁・双六打ち、はなやかに笑ひののしり、鞠・小弓など遊ぶも、いとさま異にめづらかなり。

とりかへばや物語「父大納言の苦悩」の現代語訳

春の所在ないある日、(父である大納言は)御物忌みでのんびりと過ごす昼ごろ、姫君(実は若君)のところにお渡りになると、例の御帳の内にこもって箏の琴をひっそりと弾いて遊んでいらっしゃるようである。
女房たちがあちらこちらに集って、碁や双六などを打って、たうそうひまそうにしている。
(殿は)御几帳を押しやって、

「どうしてこのように閉じこもってばかりいるのですか。満開の桜の美しさも御覧なさいよ。女房達もたいそう気づまりで、ひどくつまらなさそうにしているではありませんか。」

と言って床に寄りかかるようにお座りになると、(姫君の)御髪は居丈より七、八寸ほどながくて、まるで花薄の穂がでている秋の風景のようで、裾の辺りがやわらかくなびきかかりながら、物語に(あるように)扇を広げたようなどと、大げさに言うほどでもなく、

「こんな髪こそ美しいのだ。昔のかぐや姫も、親しみやすくてすばらしいという点では、これほどではなかったのではないだろうか。」

と御覧になるにつけては、涙にくれながら近くにお寄りになって、

「これはまぁ、どうしてすっかりこんなことになってしまわれたのだろうか。」

と、涙を目にいっぱい浮かべて御髪をかき上げなさると、(姫君は)たいそう恥ずかしそうに思われているご様子で、こぼれそうに見える目もとが、とてもつらそうなので、ますます大納言も涙がこぼれて、しみじみほかのことをすべて忘れていとおしく見つめ申し上げていらっしゃる。

そうはいっても、(姫君は男だから)気恥ずかしいので、とりたてて化粧をなさっていないのだが、わざわざ念入りに化粧をしたようなお顔の色である。
額や髪も汗でもつれて丸くなって、わざとひねりかけたように顔にかかっていて、愛らしく魅力的である。

「(おしろいを)真っ白に塗っているのは、たいそう興ざめなものだ。このように(素顔で)見るのがよいのだ。」

と思われる。
十二歳でいらっしゃるが、未熟で発育が不十分なところもなく、体つきがすらりとして優美な様子はこの上ない。
桜襲の袿で、柔らかに着慣らしたのを六枚ほど重ねて、葡萄染めの織物の袿を表着として、色合いが派手でないものを着ていらっしゃるのだが、人となりに引き立てられて、袖口やら裾の褄まで風情がある。

「ああ、情けないことだ。尼などにしてもっぱら仏に仕えさせてお世話をしていくのがよいだろうか。」

と御覧になるにつけても残念で、涙で悲しみにくれていらっしゃる。

どのような前世の罪業なのかとおもうにつけても、この世にあってますます悲しくてならない。

(大納言が)西の対にお渡りになると、横笛をすばらしく澄んだ音に吹いている(のが聞こえる)ようだ。
空に響き渡るように聞こえるので大納言の気持ちもなんとなく落ちつかず、

「珍しいことだ。これもあの子が吹いているんだろうなぁ。」

と聞いていらっしゃると、また心が乱れそうになるが、さりげない風をよそおって、若君(実は姫君)のお部屋をおのぞきになると、(若君は)かしこまって笛を置いた。

桜襲、山吹襲など、こちらは色とりどりで萌黄の織物の狩衣、葡萄染めの織物の指貫を着て、顔はたいそうふっくらとして顔色もとても清らかで、目もとが利発そうで、どことなくきわ立って美しさに満ちて愛らしさは指貫の裾までこぼれ落ちているようである。

いつまでも見ていたいような目を見張るばかりであるのを、見るにつけ落ちる涙も嘆かわしいことも忘れて、自然に笑みが浮かんでくるようなお姿を、

「あぁ、悲しい。これも本来の女として大切に育てられたら、どれほどすばらしくかわいいことだろう。」

と胸のつぶれる思いで、御髪も、若君のは(姫君の髪に)長さこそ劣っているが、裾のほうは扇を広げたようで座った時の丈に少し足りない程度にかかった(髪の)ありさま、頭の形など見るたびに自然に笑みがこぼれながらも、心の中は暗く落ち込んでいらっしゃるのであるよ。

たいそう身分の高い人の子供などがたくさんいて碁や双六を打ち、にぎやかに笑ったり、蹴鞠や小弓などで遊んでいるのも、たいそう風変わりで珍しい。

とりかへばや物語「父大納言の苦悩」の単語・語句解説

[御物忌み]
神事などのため、一定期間行動を慎み、心身を清めて家にこもること。

[弾きすさび]
きままに弾いて遊んで。

[にほひ]
美しさ。

[目もくれつつ]
涙くれながら。

[御まみ]
お目もと。

[さるは、かたはらいたければ]
そうは言っても気恥ずかしいので。

[いとよくしたる]
念入りに化粧をした。

[らうたく]
愛らしく。

[かくてこそ見るべかりけれ]
このように見るのがよいのだ。

[人柄にもてはやされて]
人となり引き立てられて。

[さりげなくもてなして]
さりげない風をよそおって。

[らうらうじう]
利発そうで。

[あないみじ]
ああ、悲しい。

[くらさるるや]
暗く落ち込んでいらっしゃるのであるよ。

[ののしり]
騒いで。

*とりかへばや物語「父大納言の苦悩」でテストによく出る問題

○問題:「その方の営み(*)」とは何をさしているか。
答え:仏門に入って仏に仕えること。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回はとりかへばや物語でも有名な、「父大納言の苦悩」についてご紹介しました。

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

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