伝統工芸品とは?伝統工芸業界の現状と生産高推移、職人後継者について

近年注目が集まる、日本の伝統工芸。
日本が世界に誇る伝統的なものづくりは、職人の高度な技術に支えられています。

では「伝統工芸」とは、一体どういうものを指すのでしょうか?
この記事では、伝統工芸の定義と現状についてまとめています。

【目次】
1.伝統工芸品とは
 1-1.伝統的工芸品の指定要件
 1-2.経済産業大臣の指定を受ける上でのハードル
 1-3.指定は自動的に行われるわけではない
2.伝統工芸品の現状
3.数字で見る伝統工芸品
4.職人という仕事への注目と、後継者問題
5.伝統工芸品の今後

1.伝統工芸品とは

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伝統工芸とは、長年受け継がれてきた技術が用いられる工芸品のことを言います。
全国には伝統工芸とされるものが約1,300種類程あり、いずれも卓越した技術を持つ職人が生産しています。

その伝統工芸品の中でも、経済産業大臣が「伝統的工芸品」として指定する代表的な工芸品が現在225品目あり、産業の振興を目的に制定された法律「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」通称「伝産法」に基づいて更なる振興を図っています。

関連記事:日本全国の伝統的工芸品一覧(都道府県別)

1-1.伝統的工芸品の指定要件

それでは、数多くある工芸品の中から”伝統的工芸品”に指定されるにはなにが必要なのか、指定要件をご紹介します。
指定要件以外の全文は「伝産法とは?伝統的工芸品産業の振興に関する法律の概要とその全文」でご覧頂く事が出来ます。
伝統的工芸品として経済産業大臣の指定を受けるための要件は、伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)の第2条で以下のとおり規定されています。

①主として日常生活の用に供されるものであること。
②その製造過程の主要部分が手工業的であること。
③伝統的な技術又は技法により製造されるものであること。
④伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるものであること。
⑤一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているものであること。

なお、「伝統的」という用語ですが、これは概ね100年以上の歴史を有していることをもって伝統的であると認める解釈がなされています。
各地で独自に行っている工芸品指定制度も伝産法の規定を準用していますが、地域の実情に合わせて微妙にアレンジがなされています。
このため、知事指定は受けているが、経済産業大臣の指定は受けていないという工芸品も少なからずあるところです。

例えば、京都府では、京都を代表する工芸品を「京もの指定工芸品」として指定しており、この要件を「京都府伝統と文化のものづくり産業振興条例」で以下のとおり定めています。

①製造工程の主要部分が手工業的な方法又は手工業的な方法を応用した方法により製造されるものであること。
②伝統的な技術又は技法により製造されるものであること。
③伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、又は伝統的に使用されてきた意匠が用いられ、製造されるものであること。

このとおり伝産法の指定要件よりも若干範囲を広げていることが分かると思います。
まず、「日常生活の用に供される」という要件を緩和しているので、「北山丸太」といった建築材料としての工芸品も指定されています。
また、製造従事者の人数要件もないので、限られた人数で伝統を受け継いでいるような工芸品も指定されています。

1-2.経済産業大臣の指定を受ける上でのハードル

各地で数多くの工芸品が受け継がれていますが、経済産業大臣の指定を受ける上で大きなハードルとなる点が二つあります。
それは、「100年以上の伝統」「少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事している」という点です。

例えば、鹿児島県の工芸品である薩摩切子は、その始まりは安政年間(1854-1860年)と伝えられていますが、西南戦争によって技術は断絶、現在製造されているものは昭和60年代に復元された技術によるものです。
このため、100年以上の伝統を証明することが難しいところです。

そして、「少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事している」とは、概ね10社以上又は従事者30人以上がひとつの目安になっています。
このため、100年以上の伝統は証明できるけれども職人が1人しか残っていないという場合は、指定を受けるのが難しいのです。

1-3.指定は自動的に行われるわけではない

経済産業大臣による伝統的工芸品の指定は、要件を満たすものに自動的に行っているわけではなく、産地から申請することによって審査が始まります。
つまり、産地として伝統的工芸品の指定を受けようという明確な意思が必要となるのです。

このため、要件を満たしているように考えられるものの経済産業大臣から指定を受けていないという工芸品も少なからずあります。
例えば、栃木県の日光彫は、東照宮建築で集められた彫物大工によって考案されたと伝えられており、300年以上の歴史を有しています。日光彫協同組合という製造者団体もあることから伝統的工芸品の指定要件をすべて満たしているとも考えられるのですが、いまだに指定を受けていません。

栃木県の日光彫

「栃木県の日光彫」写真提供:日光市観光協会

また、長野県の飯田水引工芸も元禄末期が起源と長い歴史を有しており、飯田水引協同組合という製造者団体も一定の規模で残っているのですが、同じく伝統的工芸品の指定を受けていないところです。

長野県の飯田水引工芸

「長野県の飯田水引工芸」写真提供:長野県観光機構

産地ごとにブランド戦略がありますし、あるいは伝統的工芸品という称号がなくても十分に販路を維持できているということも考えられます。
伝統的工芸品の指定を受けているか否かで一律に評価するのではなく、工芸品そのものの持ち味を素直に感じ取るのが大事ということかもしれません。

2.伝統工芸品の現状

全国の伝統工芸品は1984年(昭和59年)に生産額がピークを迎えました。
そこからバブル崩壊後の長い経済低迷や安価な海外製品の台頭、ライフスタイルの変化などによって生産額も年々減少し、現在はピーク時に比べ5分の1、約1,000億円程度の生産額になっています。
また、従事者の高齢化も深刻な問題です。
経産省の公表によると、平成21年度の時点で50歳以上の従事者の割合は64%、30歳未満が5.6%となっています。
このような数字を見ても、技術継承に残された時間は多くない事がわかります。
下記に経産省指定伝統的工芸品の年間生産高、企業数、従事者数の推移をグラフにしましたので、ご覧下さい。

伝統工芸の生産高、従事者数、企業数推移グラフ画像

数値出典:(財)伝統的工芸品産業振興協会 ※平成18年度以降の企業数不明

上記グラフのように、年々規模が縮小してきた伝統工芸業界。

しかし近年、伝統工芸には追い風が吹き始めています。
2020年の東京オリンピック開催に向けて自国の文化を見直す動きが加速しており、テレビや雑誌、行政からも伝統工芸への注目度は増しています。

関連記事:伝統工芸好きは必見!工芸品を取り扱うテレビ番組4選

また、伝統工芸とアニメのコラボによって若年層からも新鮮なものとして受け止められ、新たな顧客層も獲得しつつあります。

2016年の伝統工芸×アニメの例

・映画「シン・ゴジラ」に秋田県の工芸品が登場
作中に登場する日本の首相が秋田県出身という設定から、執務室の背景に秋田県の工芸品が多数飾られており、話題になりました。


・映画「君の名は」に伊賀くみひもが登場し、くみひもの売り切れが続出
作中の重要なアイテムとして伊賀くみひもが登場し、作品のファンがくみひも体験に多数訪れたり、京くみひも店など多くの組紐店で売り切れが続出。公式グッズとしてくみひもが販売されると注文が殺到し、予定納期が遅れ最大4カ月待ちに。

3.数字で見る伝統工芸品

ここでは、伝統工芸品にまつわる様々な数字をご紹介したいと思います。
まずは、平成25年度の経産省指定伝統的工芸品の業種別生産高です。

伝統工芸品産業の業種別生産高の推移グラフ

数値出展:(財)伝統的工芸品産業振興協会

ご覧の通り、一番生産高が大きいのが織物で約250億円です。
次に染色、陶芸、漆器、金工品と続きます。

そして伝統的工芸品の生産高の推移は「2.伝統工芸品の現状」でご紹介しましたが、多くの業種はグラフのような下降線を辿っています。
その中でも特筆すべきは、繊維産業です。

伝統工芸の繊維、陶磁器、漆器の生産高推移グラフ

他の業種に比べ、急激な下降線を描いています。
矢野経済研究所「きもの年鑑」によると、呉服の小売金額自体も昭和56年には約1.8兆円あったものが平成25年には3,010億円と6分の1まで減少しているとあります。
着物を着る機会が激減し、それによって関わりの深い伝統工芸の繊維産業も減少しているのです。
しかし最近は京都などの観光地でレンタル着物で街歩きする女性が増えるなど、若者が着物と接する機会は増えています。
また、売上減少の危機感から呉服業界でも様々な取り組みが行われており、今後の活性化が期待されます。

4.職人という仕事への注目と、後継者問題

伝統工芸の女性職人の手
伝統産業の後継者問題はいまだ深刻な状況です。
伝統工芸は一度途絶えると復活する事が困難なうえに、多くは材料の確保や製造工程など分業で行っているところが多い為、どこか一つでも無くなってしまうと全体に影響が出てしまいます。

伝統工芸青山スクエアでは、「伝統的工芸品の材料、製造用具等の不足情報」を公開し、情報を募っています。

しかし一方で、職人という仕事に対しては注目度が増してきています。
終身雇用という神話が崩壊し、またお金よりもやりがいを求める若者が増えたことから、職人になりたいという人が増えてきているのです。

ちなみに”後継者問題”と一口に言っても、後継者が見つからないという問題だけではありません。
「後継者になりたい」という人が居たとしても、売上の減少から雇う余裕が無いという事業所も多いのが現状です。

しかし、近年の伝統産業への追い風に乗って、また未来へ伝統を繋ぐために求人募集を出す事業所も少しずつ増えています。

また行政のバックアップや、産地組合として後継者を育成するなど、新しい取り組みも始まっています。
以下に一例をご紹介します。

地域おこし協力隊

地域おこし協力隊

地域おこし協力隊とは、地方を活性化させる為に外部から人材を集め、様々な取り組みを行う制度です。
総務省によって制度化された地域おこし協力隊ですが、伝統工芸のPR活動や後継者育成などにも活用されています。
四季の美でも、伝統産業に関連する募集情報を掲載していますので、興味のある方はチェックしてみて下さい。

関連記事:伝統工芸職人の後継者の募集、求人情報

伝統産業関係の学校&後継者養成施設

日本各地には、伝統産業を学ぶ事が出来る学校がいくつかあります。
関連記事:伝統工芸を学ぶことが出来る専門学校、大学一覧

また、学校以外でも各事業所や産地組合、行政が運営する後継者育成施設もあります。
関連記事:職人を養成する施設、事業一覧

5.伝統工芸品の今後

この記事でご覧頂いた通り、伝統工芸には追い風が吹き始めています。
一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会の平成27年度事業計画書冒頭には、下記の文章が冒頭に記されています。

平成25年度の産地実勢調査によれば、伝統的工芸品産業の従事者数は減少傾向が止まっていない。
しかし、世代年齢構成では20~40歳代が微増に転じ、50歳代以上が減少している。
若い世代の微増傾向が、伝統的工芸品に関心を持つ層の拡大かどうかは未知数だが、就業動機として、「やりがい」「個性」「モノづくり」へ関心が向き始めたことも一因と期待する。
但し、50~60歳代の技術・技法の中核を担う層が減少していることは、技術継承が喫緊の課題であることを示す。
一方、生産額は2~3の業種では、わずかに上向き傾向が見られている。
指定伝統的工芸品産地の全体生産額では平成23年度に、伝統的工芸品生産額では平成24年度に、底を打ったと思われる数値となった。
現在、国を挙げた「JAPAN」の世界発信や日本製品に対する基本的な信頼感等から、海外からの関心も、日本の産業から生活文化・風習へと広がり、伝統的工芸品にも関心が寄せられつつある。
これらを受け、クリエイター、プロデューサー、バイヤー、消費者が伝統的工芸品を手に取り、その確かな技術に新しい感性を加えた「現代日本のものづくり」に目を向け始めた兆しと言えるなら明るい材料である。

上記の文章にもある通り、伝統工芸品の生産高の減少は既に底を打ったとしているのです。
売上の減少、職人の高齢化によって疲弊してしまった産地もある中、今後数年の動きが重要です。

伝統とはそもそも、常に時代に合わせて変化し、最先端を走ることで何世代も受け継がれてきたのです。


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