沙石集(しゃせきしゅう/させきしゅう)は鎌倉時代中期に書かれた約130編からなる仏教説話集です。
無住道暁が編纂しました。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる沙石集の中から「いみじき成敗」について詳しく解説していきます。
(教科書によっては「正直の徳」という題名のものもあり。)
沙石集「いみじき成敗」の解説
沙石集でも有名な、「いみじき成敗」について解説していきます。
沙石集「いみじき成敗」の原文
唐土にいやしき夫婦あり。
餅を売りて世を渡りけり。
夫の、道のほとりにして餅を売りけるに、人の袋を落としたりけるを取りて見れば、銀の軟挺(なんてい/なんりょう)六つありけり。
家に持ちて帰りぬ。
妻、心素直に欲なき者にて、
「我らは商うて過ぐれば、ことも欠けず。この主いかばかり嘆き求むらん。いとほしきことなり。主を尋ねて返したまへ。」
と言ひければ、
「まことに。」
とて、あまねく触れけるに、主といふ者出で来て、これを得てあまりにうれしくて、
「三つをば奉らん。」
と言ひて、既に分かつべかりけるとき、思ひ返して、煩ひを出ださんがために、
「七つこそありしに、六つあるこそ不思議なれ。一つは隠されたるにや。」
と言ふ。
「さることなし。もとより六つこそありしか。」
と論ずるほどに、果ては国守のもとにして、これをことわらしむ。
国守、眼さかしくして、この主は不実の者なり、この男は正直の者と見ながら、不審なりければ、かの妻を召して、別の所にて、ことの子細を尋ぬるに、夫が状に少しもたがはず。
この妻はきはめたる正直の者と見て、かの主不実のこと確かなりければ、国守の判に言はく、
「このこと確かの証拠なければ、判じがたし。ただし、共に正直の者と見えたり。夫婦また言葉変はらず、主の言葉も正直に聞こゆれば、七つあらん軟挺を尋ねて取るべし。これは六つあれば、別の人のにこそ。」
とて、六つながら夫婦に給はりけり。
宋朝の人、いみじき成敗とぞ、あまねくほめののし(*)りける。
沙石集「いみじき成敗」の現代語訳
中国に身分の低い夫婦がいる。
餅を売って暮らしを立てていた。
夫が道ばたで餅を売っていた時に、人が袋を落としたがそれを見たところ、銀の軟挺が六つあった。
家に持って帰った。
妻は、心が素直で欲のない者であって、
「私たちは商売をして生活しているので、不自由もない。この(軟挺の)持ち主はどれくらい嘆いて探しているだろう。気の毒なことである。持ち主を探してお返しください。」
と言ったので、
「本当に(その通りだ)。」
と言って、(このことを)広く告げ知らせたところ、持ち主という者が出て来て、これ(=軟挺)を受け取ってあまりに嬉しくて、
「三つを差し上げよう。」
と言って、いよいよ分けようとした時、思い直して、面倒を引き起こすようなことの為に、
「七つあったのに、六つある(=しかない)のは奇妙だ。一つはお隠しになっているのだろうか。」
と言う。
「そんなことはない。もともと六つあった(=しかなかった)。」
と議論するうちに、しまいにはその国を治める長官のもとで、これを判定させる。
その国を治める長官は眼力がそなわっていて、この持ち主は誠実でない者である、この男は正直な者だと思うけれども、はっきりしなかったので、あの妻をお呼びになって、別な場所で、ことの事情を尋ねると、夫の言い分と少しも違わない。
この妻はこの上ない正直な者だと思って、あの持ち主は不誠実であることは間違いなかったので、その国を治める長官の判決で言うことには、
「このことははっきりした証拠がないので、判断しにくい。ただし、どちらも正直な者だと思われる。夫婦もやはり主張が変わらず、持ち主の言葉も正直だと思われるので、七つあるような軟挺を探して受け取るのがよい。これは六つある(=しかない)ので、他の人のものであろう。」
と言って、六つとも夫婦にお与えになった。
宋朝の人は、素晴らしい裁きだと、広くほめ騒いだ。
沙石集「いみじき成敗」の単語・語句解説
中国。
[世を渡り]
生活する。暮らしを立てる。
[ことも欠け]
ものがなくて不自由する。
[返したまへ]
お返しください。”たまへ”は尊敬の補助動詞。
[さること]
そういう・そんな。
[ほど]
ここでは”とき”や”うち”という意味。
[さかしく]
賢くて。優れていて。
[きはめたる]
この上もない。はなはだしい。
[いはく]
言うことには。
*沙石集「いみじき成敗」でテストによく出る問題
○問題:「ほめののし(*)」ったのは何故か。
答え:国守が軟挺の持ち主の不実、そして夫婦の正直を見抜き、六つすべてを正直者の夫婦に与えたから。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は沙石集でも有名な、「いみじき成敗」についてご紹介しました。
(教科書によっては「正直の徳」という題名のものもあり。)
その他については下記の関連記事をご覧下さい。
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