和泉式部日記「夢よりもはかなき世の中を・薫る香に」原文と現代語訳・解説・問題

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和泉式部日記(いずみしきぶにっき)は、歌人の和泉式部が平安時代に書いた日記です。
三人称で書かれている為、作者は和泉式部ではないという説もあります。

内容は贈答歌147首を中心とした歌日記で、情熱的な恋が率直に書かれています。

今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる和泉式部日記の中から「夢よりもはかなき世の中を」について詳しく解説していきます。
(教科書によっては「薫る香に」という題名のものもあり。)

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和泉式部日記「夢よりもはかなき世の中を」の解説

和泉式部日記でも有名な、「夢よりもはかなき世の中を」について解説していきます。

「夢よりもはかなき世の中を」の原文

夢よりもはかなき世の中を、嘆きわびつつ明かし暮らすほどに、四月十余日(うづきじふよひ)にもなりぬれば、木の下暗がりもてゆく(*)。

築地(ついひぢ)の上の草青やかなるも、人はことに目もとどめぬを、あはれと眺むるほどに、近き透垣(すいがひ)のもとに人のけはひすれば、誰ならむと思ふほどに、故宮(こみや)に候(さぶら)ひし小舎人童(こどねりわらは)なりけり。

あはれにもののおぼゆるほどに来たれば、

「などか久しう見えざりつる。遠ざかる昔の名残にも思ふを。」

など言はすれば、

「そのことと候はでは、なれなれしきさまにやと、つつましう候ふうちに、日ごろは山寺にまかり歩(あり)きてなむ。
いと頼りなく、つれづれに思ひ給うらるれば、御代(おんか)はりにも見奉らむとてなむ、帥宮(そちのみや)に参りて候ふ。」

と語る。

「いとよきことにこそあなれ。その宮は、いとあてにけけしうおはしますなるは。昔のやうにはえしもあらじ。」

など言へば、

「しかおはしませど、いとけぢかくおはしまして、『常に参るや。』と問はせおはしまして、『参り侍り。』と申し候ひつれば、『これ持て参りて、いかが見給ふとて奉らせよ。』とのたまはせつる。」

とて、橘(たちばな)の花をとり出でたれば、「昔の人の」と言はれて、

「さらば参りなむ。いかが聞こえさすべき。」

と言へば、言葉にて聞こえさせむもかたはらいたくて、なにかは、あだあだしくもまだ聞こえ給はぬを、はかなきことをもと思ひて、

[薫る香によそふるよりはほとどぎす 聞かばや同じ声やしたると]

と聞こえさせたり。

まだ端におはしましけるに、この童隠れの方に気色ばみけるけはひを、御覧じつけて、

「いかに。」

と問はせ給ふに、御文(ふみ)をさし出でたれば、御覧じて、

[同じ枝(え)に鳴きつつをりしほととぎす 声は変わらぬものと知らずや]

と書かせ給ひて、賜(たま)ふとて、

「かかること、ゆめ人に言ふな。好きがましきやうなり。」

とて、入らせ給ひぬ。

もて来たれば、をかしと見れど、常はとて御返り聞こえさせず。
賜はせそめては、また、

[うち出ででもありにしものをなかなかに 苦しきまでも嘆く今日かな]

と、のたまはせたり。
もともと心深からぬ人にて、ならはぬつれづれのわりなくおぼゆるに、はかなきことも目とどまりて、御返り、

[今日のまの心にかへて思ひやれ 長めつつのみ過ぐす心を]

「夢よりもはかなき世の中を」の現代語訳

夢よりもはかない故宮との恋を、悲嘆に暮れながら日々を過ごすうちに、四月十日過ぎにもなったので、木陰がしだいに暗くなっていく。

土を固めて作った塀の上の草が青々と鮮やかなのも、人はとりわけ目にもとめないけれど、しみじみともの思いにふけって見ているうちに、近くの垣根の辺りで人の気配がするので、誰だろうと思っているうちに、(姿を現したのは)故宮にお仕えしていた小舎人童であった。

しみじみともの思いのされる時に来たので、(女は)

「どうして長い間姿を見せなかったのか。
遠ざかっていく昔の面影(=故宮との思い出)とも(あなたのことを)思っているのに。」

などと(取り次ぎの侍女に)言わせたところ、(童は)

「これといった用事がございませんでは、(伺うのは)なれなれしいようで(あろうか)と、遠慮しておりますうちに、近頃は山寺(詣で)に出歩いておりました。
(宮様が亡くなられた後は)全く頼るものがなく、やるせなく寂しく思われますので、(故宮の)御代わりとしてお世話申しあげようと(思いまして)、(弟宮である)帥宮様の所にお仕えしております。」

と語る。

「とてもよいことである。
その宮様は、たいそう高貴で親しみにくくていらっしゃるそうですね。
昔の(亡き宮様の)ようには必ずしもできないでしょう。」

などと言うと、

(小舎人童は)「(評判では)そのようでいらっしゃいますけれど、(実際は)たいそう親しみやすくていらっしゃって、『いつも(あなた様のもとへ)伺うのか。』とお尋ねなさいまして、(私が)『お伺いいたします。』と申しあげましたところ、(帥宮様は)『これを持って参って、どうご覧になりますかと言って差しあげなさい。』とおっしゃいました。」

と言って、橘の花を取り出したので、(女は)「昔の人の」と(いう古歌の一節が)自然と口をついて出て、(童は)

「それでは(帥宮様の所には)どのように申しあげられたらよいですか。」

と言うので、文章でご返事申しあげるようなのもきまりが悪くて、なんの構わない、(帥宮様が)浮気っぽいともまだ評判になっていらっしゃらないので、とりとめのない和歌でも(お返ししておけばよい)と思って、

[橘の香りにことよせ(て亡き宮様をおしのびす)るよりは、ホトトギス(=あなた)のお声を聞きたいものです。
(亡き宮様と)同じお声をしているかどうかと。]

と(ご返事を)申しあげさせた。

(帥宮が)まだ緑先にいらっしゃった時に、この童が物陰からそれとなく合図して帰ってきたことを知らせる様子を、お見つけなさって、

「どう(いう様子)であったか。」

とお尋ねなさるので、(童が)お手紙を差し出したところ、(宮は)ご覧になって、

[私と兄(故宮)は、同じ一つの枝に泣き続けていたホトトギスのような兄弟です。
(私と兄の)声は変わらない(=あなたに対する気持ちも変わらない)と、あなたは知らないのでしょうか(、いや、知っているでしょう)。]

とお書きになって、(童に)お渡しなさる時に、

「このようなことを、決して他人に言うな。色好みであるように見られる(から)。」

と言って、(奥に)お入りになった。

(童が宮の歌を)持って来たので、(女は)興味はひかれたけれど、いつも(返事をするの)はどうかと思ってご返事を差し上げない。
(帥宮が女に)歌を初めてお贈りになってから、再び、

[私の気持ちを歌に詠み表さなくてもよかったのに、なまじっか言ってしまったばかりに、苦しいほど嘆き焦がれる今日の思いであるなあ。]

と、おっしゃっ(てき)た。
(女は)もともと思慮の深くない性格なので、慣れない所在ない暮らしをつらく思っていたところなので、こんななんということもない歌が目にとまって、ご返事(は)、

[(苦しいほど嘆き焦がれる)今日とおっしゃいますが、(私を思ってくださる)気持ちの代わりに想像してください。毎日もの思いにふけってばかりで過ごしている私の心を。]

「夢よりもはかなき世の中を」の単語・語句解説

[眺むるほどに]
もの思いにふけって見ているうちに。

[故宮に候ひし]
故宮にお仕えしていた。

[そのことと候はでは]
これといった用事がございませんでは。

[まかり歩きて]
出歩いておりまして。

[つれづれに]
やるせなく寂しく。

[見奉らむ]
お世話申しあげよう。

[えしもあらじ]
必ずしもできないでしょう。

[参り侍り]
お伺いいたします。

[奉らせよ]
差し上げなさい。

[かたはらいたくて]
きまりが悪くて。

[あだあだしくも]
浮気っぽいとも。

[聞こえ給はぬを]
評判になっていらっしゃらないので。

[気色ばみけるけはひ]
それとなく知らせる様子。

[御覧じつけて]
お見つけなさって。

[ゆめ人に言ふな]
決して人に言うな。

[好きがましきやうなり]
色好みであるように見られる。

[賜はせそめて]
歌を初めてお贈りになって。

[うち出ででも]
詠み表さないでも。

[なかなかに]
なまじっか。

[ならはぬ]
慣れない。

[わりなくおぼゆるに]
つらいと思っていたので。

[眺めつつのみ]
もの思いにふけってばかりで。

*「夢よりもはかなき世の中を」でテストによく出る問題

○問題:(*)の「木の下暗がりもてゆく」とはどういうことか。
答え:木の葉がうっそうと茂り、木陰が徐々に暗くなっていくということ。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は和泉式部日記でも有名な、「夢よりもはかなき世の中を」についてご紹介しました。
(教科書によっては「薫る香に」という題名のものもあり。)

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

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