和泉式部日記(いずみしきぶにっき)は平安時代中期に書かれたもので、敦道親王との恋愛の経過を記した歌物語となっています。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる和泉式部日記の中から「手枕の袖」について詳しく解説していきます。
(読み方は”たまくらのそで”)
和泉式部日記「手枕の袖」の解説
和泉式部日記でも有名な、「手枕の袖」について解説していきます。
和泉式部日記「手枕の袖」の原文
十月十日ほどにおはしたり。
奥は暗くて恐ろしければ、端近くうち臥させ給ひて、あはれなることの限りのたまはするに、かひなくはあらず。
月は、曇り曇り、しぐるるほどなり。
わざとあはれなることの限りを作り出でたるやうなるに、思ひ乱るる心地はいとそぞろ寒き(*)に、宮も御覧じて、
「人の便なげにのみ言ふを、あやしきわざかな、ここにかくてあるよ。」
などおぼす。
あはれにおぼされて、女寝たるやうにて思ひ乱れて臥したるを、おしおどろかさせ給ひて、
[しぐれにも露にもあてで寝たる夜を あやしく濡るる手枕の袖]
とのたまへど、よろづにもののみわりなくおぼえて、御いらへすべき心地もせねば、ものも聞えで、ただ月影に涙の落つるを、あはれと御覧じて、
「などいらへもし給はぬ。はかなきこと聞ゆるも、心づきなげにこそおぼしたれ。いとほしく。」
と、のたまはすれば、
「いかに侍るにか、心地のかき乱る心地のみして。耳にはとまらぬにしも侍らず。よし見給へ、手枕の袖忘れ侍る折や侍る。」
と、たはぶれごとに言ひなして、あはれなりつる夜のけしきも、かくのみ言ふほどにや。
頼もしき人もなきなめりかしと心苦しくおぼして、
「今の間いかが。」
とのたまはせたれば、御返し、
と聞こえたり。
「忘れじ」
と言ひつるを、をかしとおぼして、
和泉式部日記「手枕の袖」の現代語訳
十月十日ごろに(帥の宮が)いらっしゃった。
(建物の)奥は暗くて気味が悪いので、端の近くに横におなりになって、しみじみと愛しいことの限りをおっしゃったので、(話を聞く)かいがないわけではない。
月は雲に隠れがちで、時雨が降るころである。
わざわざしみじみとした風情の限りをつくり出したようなので、思い乱れる(私の)気持ちはたいそううすら寒いが、帥の宮は(その様子を)御覧になって、
「人がけしからぬようにばかり言うけれど、おかしなことだよ、ここに、こうして(思い乱れた様子で)いるよ。」などとお思いなさる。
しみじみといとしくお思いになって、女が眠っているようにして思い乱れて横になっているのを、ゆり起こしなさって、
とおっしゃるけれど、いろいろと物事が耐えがたく思えて、お返事をすることができる気もしないので、何も申し上げずに、ただ月の光の下で涙が落ちている姿を、(帥の宮は)しみじみといとしいとご覧になって、
「どうして返事をなさらないのか。とりとめのないことを申し上げたのを、不愉快な感じにお思いになっているのだね。気の毒に。」
とおっしゃったので、(私は)
「どうしましたのでしょうか、気持ちが乱れる感じばかりがして。耳に入らないのではございません。まあ御覧ください。手枕の袖(という言葉)を忘れますときがございますかどうか。」
と、冗談のようにとりつくろって言って、しみじみと風情があった夜の情景も、こんなことばかり言ううちに(夜も明けたのだろうか)。
頼みにする(交際中の)人もいないようであるよと(帥の宮は)気の毒にお思いになって、
「今の時間はどう(なさっていますか)。」
とおっしゃったので、(私の)お返事は、
と申し上げた。
「忘れまい。」
と(私が昨夜)言ったのを、(帥の宮は)趣があるとお思いになって、
和泉式部日記「手枕の袖」の単語・語句解説
かいがないわけではない。
[人の便なげにのみ言ふを]
人がけしからぬようにばかり言うけれど。
[あやしきわざかな]
おかしなことだよ。
[おしおどろかさせ給ひて]
ゆり起こしなさって。
[あやしく濡るる手枕の袖]
不思議にも濡れる手枕の袖よ。
[わりなく]
耐えがたく。
[月影]
月の光。
[などいらへもし給はぬ]
どうして返事をなさらないのか。
[はかなきこと]
とりとめのないこと。
[心づきなげにこそ]
不愉快な感じに。
[いかに侍るにか]
どうしましたのでしょうか。
[なきなめりかし]
いないようであるよ。
[今は消ぬらむ]
もう消えてしまっているでしょう。
*和泉式部日記「手枕の袖」でテストによく出る問題
○問題:「そぞろ寒き(*)」とはどのような心情をいうのか。
答え:いとしい事の限りを言う帥の宮に対して、うすら寒く思う程の素晴らしさを感じている。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は和泉式部日記でも有名な、「手枕の袖(たまくらのそで)」についてご紹介しました。
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