無名抄(むみょうしょう)は鎌倉時代に鴨長明(かものちょうめい)が書いた歌論書です。
約80段からなり、長明が何歳の時に成立したかはわかっていません。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる無名抄の中から「深草の里」について詳しく解説していきます。
(教科書によっては「おもて歌」や「俊成自賛歌のこと」という題名もあり)
無名抄「深草の里」の解説
無名抄でも有名な、「深草の里」について解説していきます。
無名抄「深草の里」の原文
俊恵いはく、
「五条三位入道のもとに詣でたりしついでに、
『御詠の中には、いづれをか優れたりと思す。
よその人さまざまに定め侍れど、それをば用ゐ侍るべからず。
まさしく承らんと思ふ。』
と聞こえしかば、
これをなん、身にとりてはおもて歌と思い給ふる。』
と言はれしを、俊恵またいはく、
『世にあまねく人の申し侍るは、
これを優れたるように申し侍るはいかに。』
と聞こゆれば、
『いさ。よそにはさもや定め侍るらん。知り給へず。なほみづからは、先の歌には言ひ比ぶべからず。』
とぞ侍りし。」
と語りて、これをうちうちに申ししは、
「かの歌は、『身にしみて』という腰の句いみじう無念におぼゆるなり。
これほどになりぬる歌は、景気を言ひ流して、ただ空に身にしみけんかしと思はせたるこそ、心にくくも優にも侍れ。
いみじう言ひもてゆきて、歌の詮とすべきふしを、さはと言ひ表したれば、むげにこと浅くなりぬる。」
とて、そのついでに、
「わが歌の中には、
これをなん、かのたぐひ(*)にせんと思う給ふる。
もし世の末に、おぼつかなく言ふ人もあらば、『かくこそ言ひしか。』と語り給へ。」とぞ。
無名抄「深川の里」の現代語訳
俊恵が言うことには、
「(私が)五条三位入道のところに参上した機会に、
『あなたがお詠みになったお歌の中では、どの歌が優れているとお思いになりますか。
他の人はいろいろ論じておりますが、(私は)それを取り上げようとは思いません。
(あなたから)確かにうかがいたいと思う。』
と申しあげると、
この歌を、私としては代表的な和歌と思っております。』
と(三位入道は)おっしゃいましたので、俊恵がまた言うことには、
「世間で広く人が申しておりますことは、
この歌を優れているように申しておりますが、どうですか。』
と申しあげると、
『さあ。他の人はそのように論じているのでしょうか。
存じません。
やはり私としては、先の(「夕されば」の)歌には言い比べることはできません。』
と(お言葉が)ございました。」
と(俊恵は)語って、これを(私に)内密に申したことは、
「あの歌は、『身にしみて』という第三句がとても残念に思われるのです。
これほどに完成した歌は、具体的な景色をさらりと詠み表わして、ただ余情として身にしみただろうなと(読む者に)感じさせるほうが、奥ゆかしくも優美でもあります。
(『身にしみて』と)はっきりと言葉で表現して、和歌における眼目となるはずのことを、そうであると表現しているので、ひどく情趣が浅くなってしまった。」
と言って、その機会に、
「私(=俊恵)の歌の中では、
この歌を、私の代表的な和歌にしようと思っています。
もし後世、不審なことだと言う人があったならば、(私が)
『このように言った。』とお話ください。」と(言われた)。
無名抄「深草の里」の単語・語句解説
言うことには。
[詣でたりしついでに]
参上した機会に。
[定め侍れど]
論じておりますが。
[まさしく承らん]
確かにうかがいたい。
[思ひ給ふる]
思っております。
[世にあまねく]
世間で広く。
[心にくくも優にも侍れ]
奥ゆかしくも優美でもあります。
[いみじう言ひもてゆきて]
はっきりと言葉で表現して。
[むげにこと浅くなりぬる]
ひどく情趣が浅くなってしまった。
*無名抄「深草の里」でテストによく出る問題
○問題:「かのたぐひ(*)」とは何を指しているか。
答え:おもて歌(=代表的な和歌)。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は無名抄でも有名な、「深草の里(ふかくさのさと)」についてご紹介しました。
(教科書によっては「おもて歌」や「俊成自賛歌のこと」という題名もあり)
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