無名抄「深川の里」原文と現代語訳・解説・問題|鴨長明の歌論書

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無名抄(むみょうしょう)は鎌倉時代に鴨長明(かものちょうめい)が書いた歌論書です。
約80段からなり、長明が何歳の時に成立したかはわかっていません。

今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる無名抄の中から「深川の里」について詳しく解説していきます。

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無名抄「深川の里」の解説

無名抄でも有名な、「深川の里」について解説していきます。

無名抄「深川の里」の原文

俊恵いはく、

「五条三位入道のもとに詣でたりしついでに、

『御詠の中には、いづれをか優れたりと思す。
よその人さまざまに定め侍れど、それをば用ゐ侍るべからず。
まさしく承らんと思ふ。』

と聞こえしかば、

『夕されば野辺の秋風身にしみて うづら鳴くなり深草の里

これをなん、身にとりてはおもて歌と思い給ふる。』

と言はれしを、俊恵またいはく、

『世にあまねく人の申し侍るは、

面影に花の姿を先立てて 幾重越え来ぬ峰の白雲

これを優れたるように申し侍るはいかに。』

と聞こゆれば、

『いさ。よそにはさもや定め侍るらん。知り給へず。なほみづからは、先の歌には言ひ比ぶべからず。』

とぞ侍りし。」

と語りて、これをうちうちに申ししは、

「かの歌は、『身にしみて』という腰の句いみじう無念におぼゆるなり。
これほどになりぬる歌は、景気を言ひ流して、ただ空に身にしみけんかしと思はせたるこそ、心にくくも優にも侍れ。
いみじう言ひもてゆきて、歌の詮とすべきふしを、さはと言ひ表したれば、むげにこと浅くなりぬる。」

とて、そのついでに、

「わが歌の中には、

み吉野の山かき曇り雪降れば 麓の里はうち時雨つつ

これをなん、かのたぐひ(*)にせんと思う給ふる。
もし世の末に、おぼつかなく言ふ人もあらば、『かくこそ言ひしか。』と語り給へ。」とぞ。

無名抄「深川の里」の現代語訳

俊恵が言うことには、

「(私が)五条三位入道のところに参上した機会に、

『あなたがお詠みになったお歌の中では、どの歌が優れているとお思いになりますか。
他の人はいろいろ論じておりますが、(私は)それを取り上げようとは思いません。
(あなたから)確かにうかがいたいと思う。』

と申しあげると、

『夕暮れがくると、野原を渡る秋風がしみじみと身にしみて、うずらが鳴いているようだよ、この深草の里では。

この歌を、私としては代表的な和歌と思っております。』

と(三位入道は)おっしゃいましたので、俊恵がまた言うことには、

「世間で広く人が申しておりますことは、

美しい桜の姿を目に浮かべて、いったい幾つ峰を越えてきただろうか、麓からは峰の白雲のように見えたこの桜を訪ねて。

この歌を優れているように申しておりますが、どうですか。』

と申しあげると、

『さあ。他の人はそのように論じているのでしょうか。
存じません。
やはり私としては、先の(「夕されば」の)歌には言い比べることはできません。』

と(お言葉が)ございました。」

と(俊恵は)語って、これを(私に)内密に申したことは、

「あの歌は、『身にしみて』という第三句がとても残念に思われるのです。
これほどに完成した歌は、具体的な景色をさらりと詠み表わして、ただ余情として身にしみただろうなと(読む者に)感じさせるほうが、奥ゆかしくも優美でもあります。
(『身にしみて』と)はっきりと言葉で表現して、和歌における眼目となるはずのことを、そうであると表現しているので、ひどく情趣が浅くなってしまった。」

と言って、その機会に、
「私(=俊恵)の歌の中では、

吉野の山が雲で覆われて雪が降ると、麓の里は冷たい時雨が降っていることだ。

この歌を、私の代表的な和歌にしようと思っています。
もし後世、不審なことだと言う人があったならば、(私が)

『このように言った。』とお話ください。」と(言われた)。

無名抄「深川の里」の単語・語句解説

[いはく]
言うことには。

[詣でたりしついでに]
参上した機会に。

[定め侍れど]
論じておりますが。

[まさしく承らん]
確かにうかがいたい。

[思ひ給ふる]
思っております。

[世にあまねく]
世間で広く。

[心にくくも優にも侍れ]
奥ゆかしくも優美でもあります。

[いみじう言ひもてゆきて]
はっきりと言葉で表現して。

[むげにこと浅くなりぬる]
ひどく情趣が浅くなってしまった。

*無名抄「深川の里」でテストによく出る問題

○問題:「かのたぐひ(*)」とは何を指しているか。
答え:おもて歌(=代表的な和歌)。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は無名抄でも有名な、「深川の里(ふかがわのさと)」についてご紹介しました。

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

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