古今著聞集(ここんちょもんじゅう)は橘成季が書いた世俗説話集で、1254年に成立しました。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる古今著聞集の中から「能は歌詠み」について詳しく解説していきます。
古今著聞集「能は歌詠み」の解説
古今著聞集でも有名な、「能は歌詠み」について解説していきます。
古今著聞集「能は歌詠み」の原文
花園の左大臣の家に初めて参りたりける侍の、名簿の端書きに、「能は歌詠み」と書きたりけり。
大臣、秋の初めに、南殿に出でて、はたおりの鳴くを愛しておはしましけるに、暮れければ、
「下格子に、人参れ。」
と仰せられけるに、
「蔵人五位違ひて、人も候はぬ。」
と申して、この侍参りたるに、
「ただ、さらば、汝下ろせ。」
と仰せられければ、参りたるに、
「汝は歌詠みな。」
とありければ、かしこまりて、御格子下ろしさして候ふに、
「このはたおりをば聞くや。一首仕うまつれ。」
と仰せられければ、「青柳の」と、初めの句を申し出だしたるを、候ひける女房たち、折に合はず(*)と思ひたりげにて、笑ひ出だしたりければ、
「ものを聞き果てずして笑ふやうやある。」
と仰せられて、
「疾く仕うまつれ。」
とありければ、
と詠みたりければ、大臣、感じ給ひて、萩織りたる御直垂を、押し出だして賜はせけり。
寛平の歌合に、初雁を友則、
と詠める、左方にてありけるに、五文字を詠みたりける時、右方の人、声々に笑ひけり。
さて、次の句に、「かすみて住にし」と言ひけるとにこそ、音もせずなりにけれ。
同じことにや。
古今著聞集「能は歌詠み」の現代語訳
花園の左大臣の家に初めて参上した従者が、名簿のはしがきに「得意なことは歌を詠むこと」と書いた。
大臣は、秋の初めに、寝殿にお出になって、きりぎりすが鳴く声を愛でていらっしゃるときに、日が暮れたので、
「格子を下ろすために、誰か参れ。」
とおっしゃったところ、
「蔵人五位のものは(予想に)そむいて(仕えていないし)、誰も控えておりません。」
と申し上げて、この従者が参上したところ、
「よし、それならば、お前が(格子を)下ろせ。」
と(大臣が)おっしゃったので、参上すると、
「お前は歌詠みか。」
と(大臣のお言葉が)あったので、かしこまって、御格子を途中まで下ろして控えていたところ、
「このきりぎりす(の声)を聞いたか。一首詠んでみよ。」
と(大臣が)おっしゃったので、「青柳の」と初めの句を申し出したのを、仕えていた女房たちが、季節に合わないと思った様子で、笑い出したので、
「もの(=歌)を(最後まで)聞き終えずに笑うことがあるか。」
と(大臣が)おっしゃったので、
「早く(最後まで)詠んでしまえ。」
と(お言葉が)あったので、
と詠んだので、大臣は、感動なさって、萩の模様を織り出した直垂を、(従者に)押し出してお与えになった。
寛平の歌合に、初雁(という歌題)を、紀友則が、
と詠んだが、(歌合の)左方であったため、五文字を詠み出したとき、右方の人々は、めいめいに笑った。
そして次の句で、「かすみて往にし」と言ったときには、声もしなくなったのだ。
同じことであろう。
古今著聞集「能は歌詠み」の単語・語句解説
自分の得意なことは、歌を詠むことである。
[おはしましける]
いらっしゃった。
[おおせられけるに]
おっしゃったところ
[ただ、さらば、汝下ろせ]
ともかく、それならばお前が下ろせ。
[歌詠みな]
歌詠みなのか。
[かしこまりて]
恐れうやまって。
[下ろしさして]
途中まで下ろして。
[仕うまつれ]
詠んでみよ。
[思ひたりげ]
思っている様子。
[笑ふやうやある]
笑うことがあるか(、いやない)。
[疾く仕うまつれ]
早く詠んでしまえ。
[賜はせけり]
お与えになった。
[鳴くなる]
「なる」は断定の助動詞「なり」の連体形で、係助詞「ぞ」の結び。
[音もせずなりにけれ]
声も出なくなってしまった。
[同じことにや]
同じことであろう。
*古今著聞集「能は歌詠み」でテストによく出る問題
○問題:何が「折に合はず(*)」なのか。
答え:「青柳の」という従者の和歌の歌い出しが春の題材なので、「はたおり」という秋の歌題に合っていないという事。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は古今著聞集でも有名な、「能は歌詠み」についてご紹介しました。
その他については下記の関連記事をご覧下さい。
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