大和物語(やまとものがたり)は平安時代中期に書かれた物語で、作者はわかっていません。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる大和物語の中から「苔の衣(こけのころも)」について詳しく解説していきます。
大和物語「苔の衣」の解説
大和物語でも有名な、「苔の衣」について解説していきます。
大和物語「苔の衣」の原文
深草の帝と申しける御時、良少将といふ人、いみじき時(*)にてありけり。
いと色好みになむありける。
世にもらうある者におぼえ、つかうまつる帝、限りなくおぼされてあるほどに、この帝失せ給ひぬ。
御葬りの夜、御供にみな人つかうまつりける中に、その夜より、この良少将失せにけり。
小野小町といふ人、正月に清水に詣でにけり。
行ひなどして聞くに、あやしう尊き法師の声にて、読経し、陀羅尼読む。
この小野小町あやしがりて、つれなきやうにて人をやりて見せければ、
「蓑一つを着たる法師、腰に火打笥など結ひつけたるなむ、隅にゐたる。」
と言ひけり。
かくてなほ聞くに、声いと尊くめでたう聞こゆれば、
「ただなる人にはよにあらじ。もし少将大徳にやあらむ。」と思ひにけり。
「いかが言ふ。」とて、
「この御寺になむ侍る。いと寒きに、御衣一つしばし貸し給へ。」とて、
と言ひやりたりける返り事に、
と言ひたるに、
「さらに少将なりけり。」と思ひて、ただにも語らひし仲なれば、
「会ひてものも言はむ。」と思ひて行きたれば、かい消つやうに失せにけり。
一寺求めさすれど、さらに逃げて失せにけり。
大和物語「苔の衣」の現代語訳
深草の帝と申し上げた帝の御代は、良少将という人がたいそう時めいている時であった。
(少将は)たいそう色好みであった。
世間からも教養が深く、才知に富む人物と思われ、お仕え申し上げる帝もこの上なく(すばらしい者と)お思いになられていたのが、この帝が崩御あそばされた。
御大葬の夜、お供にすべての人が奉仕しているうちに、その夜から、この良少将はいなくなってしまったのだった。
小野小町という人が、正月に清水寺に参詣した。
不思議に尊く思われる声で、法師が読経をし、陀羅尼を読んでいる。
この小野小町は不思議に思って、なにげないふりをして人をやって見させたところ、
「蓑一つを着た法師で、腰に火打ち筒などを結びつけた人が隅におりました。」と言った。
こうしてさらに聞いていると声がたいそう尊く心ひかれるように聞こえたので、
「よもや普通の人ではあるまい。もしや少将大徳であろうか。」と思ったのだった。
「どう返事をするだろうか。」と思って、
「この寺におります者でございます。たいそう寒いので、御衣を一枚、しばらくお貸しくださいますように。」と言って、
言ってやった返事に、
と言ったので、
「いっそう確実に、少将だったのだ。」と思って、普段にも話し合ったことのある間柄であるので、
「会って話もしてみよう。」と思って行ったところ、かき消すようにいなくなってしまった。
寺じゅうを探させたが、逃げ隠れて、全く行方がわからなくなってしまった。
大和物語「苔の衣」の単語・語句解説
その天皇の治めておられる時代。治世。
[色好みになむありける]
色好みであった。
[おぼえ]
思われて。
[つかうまつる]
お仕え申し上げる。
[限りなくおぼされて]
このうえもなく(すばらしい者と)お思いになって。
[失せにけり]
いなくなってしまったのだった。
[詣でにけり]
参詣した。
[行ひ]
勤行。
[ただなる人にはよにあらじ]
よもや普通の人ではあるまい。
[いかが言ふ]
どう返事をするだろうか。
[この御寺になむ侍る]
このお寺におります者でございます。
[世を背く]
俗世間を離れて。出家して。
[かい消つやうに失せにけり]
かき消すようにいなくなってしまった。
*大和物語「苔の衣」でテストによく出る問題
○問題:「いみじき時(*)」とはどのような意味か。
答え:たいそう時めいている時。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は大和物語でも有名な、「苔の衣」についてご紹介しました。
その他については下記の関連記事をご覧下さい。
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