十訓抄(じっきんしょう)は1252年(建長4年)に書かれた説話集で、作者は六波羅二臈左衛門入道こと湯浅宗業です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる十訓抄の中から「成方の笛(なりかたのふえ)」について詳しく解説していきます。
(成方と名笛・成方といふ笛吹き・笛吹成方の大丸という題名の教科書もあり。)
十訓抄「成方の笛」の解説
十訓抄でも有名な、「成方の笛」について解説していきます。
十訓抄「成方の笛」の原文
成方といふ笛吹きありけり。
御堂入道殿より大丸といふ笛を給はりて、吹きけり。
めでたきものなれば、伏見修理大夫俊綱朝臣ほしがりて、
「千石に買はん。」
とありけるを、売らざりければ、たばかりて、使ひをやりて、
「売るべきのよし言ひけり。」
とそらごとを言ひつけて、成方を召して、
「笛得させんと言ひける、本意なり。」
と喜びて、
「価は乞ふによるべし。」
とて、
「ただ買ひに買はん。」
と言ひければ、成方色を失ひて、
「さること(*)申さず。」
と言ふ。
この使ひを召し迎へて、尋ねらるるに、
「まさしく申し候ふ。」
と言ふほどに、俊綱大きに怒りて、
「人をあざむき、すかすは、その咎、軽からぬことなり。」
とて、雑色所へ下して、木馬に乗せんとする間、成方いはく、
「身のいとまを給はりて、この笛を持ちて参るべし。」
と言ひければ、人をつけてつかはす。
帰り来て、腰より笛を抜き出でて言ふやう、
「このゆゑにこそ、かかる目は見れ。情けなき笛なり。」
とて、軒のもとに下りて、石を取りて、灰のごとくに打ち砕きつ。
大夫、笛を取らんと思ふ心の深さにこそ、さまざま構へけれ、今は言ふかひなければ、戒むるに及ばずして、追ひ放ちにけり。のちに聞けば、あらぬ笛を大丸とて打ち砕きて、もとの大丸はささいなく吹きゆきければ、大夫のをこにてやみにけり。
始めはゆゆしくはやりごちたりけれど、つひに出だし抜かれにけり。
十訓抄「成方の笛」の現代語訳
成方という笛吹がいた。
御堂入道殿から大丸という笛を頂いて吹いていた。
(その笛が)立派なものなので、伏見修理大夫俊綱網朝臣がほしがって、
「(米)千石で買おう。」
と言ったのに、(成方が)売らなかったので、(大夫は)たくらんで、使いの者をやって、(成方が)
「売ろうということを言った。」
とうその答えをするように言いつけておいて、成方を呼び寄せ、
「笛を(私に)与えようと言ったとのこと、本望である。」
と喜んで、
「代価は、望みに任せよう。」
と言って、
「ぜひとも買おう。」
と言ったので、
成方は、血の気をなくして、
「そのようなことは申しません。」
と言う。
(そこで大夫は)先ほどの使いのものを呼び迎えて、お尋ねになると、
「(成方殿は)確かに申しました。」
と言うので、大いに怒り、
「人をあざむきだますとは、その罪軽くはないことだ。」
雑色所へ下ろして、木馬に乗せ(て拷問にかけ)ようとするので、成方が言うことには、
「見のお暇を頂き、この笛をもって戻ってまいりましょう。」
と言ったので、人を付き添わせてやった。
(成方が家に)帰ってきて、腰から笛を抜き出して言うには、
「この(笛の)せいで、このような目にあうのだ。薄情な笛だ。」
と言って、軒下に下がり、石を取って、灰のように(粉々に)打ち砕いてしまった。
大夫は、笛を手に入れようと思う気持ちが強いがために、いろいろとたくらんだのであったが、今となっては言っても仕方がないので(成方を)罰する必要もなくて、放免してしまった。
後で聞いたところでは、別の笛を、大丸だといって打ち砕いて、本物の大丸はさしさわりなく吹き続けていたので、大夫の愚かなこととしてそのままになってしまった。
初めははなはだしく勢い込んでいたが、最後には(成方に)出し抜かれてしまったということだ。
十訓抄「成方の笛」の単語・語句解説
たくらんで。
[そらごとを言ひつけて]
うその答えをするように命じて。
[本意]
本来の意志。
[乞ふによるべし]
望みに任せよう。
[買ひに買はん]
ぜひとも買おう。
[色を失ひて]
血の気をなくして。
[咎]
罪科。あやまち。
[する間]
するので。
[参るべし]
戻って参りましょう。
[構へけれ]
たくらんだのであったが。
[言ふかひなければ]
言っても仕方がないので。
[及ばずして]
〜するまでもなくて。〜の必要がなくて。
[あらぬ笛]
別の笛。
[をこにて]
愚かなことということで。
[ゆゆしく]
ひどく。
*十訓抄「成方の笛」」でテストによく出る問題
○問題:「さること(*)」とは何を指しているか。
答え:「笛を売ろう」と言ったこと。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は十訓抄でも有名な、「成方の笛」についてご紹介しました。
その他については下記の関連記事をご覧下さい。
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