十訓抄(じっきんしょう)は1252年(建長4年)に書かれた説話集で、作者は六波羅二臈左衛門入道こと湯浅宗業です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる十訓抄の中から「安養(あんよう)の尼上(あまうえ)の小袖」について詳しく解説していきます。
十訓抄「安養の尼上の小袖」の解説
十訓抄でも有名な、「安養の尼上の小袖」について解説していきます。
十訓抄「安養の尼上の小袖」の原文
横川の恵心僧都の妹、安養の尼上のもとに強盗入りて、あるほどの物具、みな取りて出でければ、尼上は紙衾といふものばかり、ひき着てゐられたりけるに、姉尼のもとに小尼上とてありけるが、走り参りて見れば、小袖を一つ落としたりけるを、
「これ落して侍るなり。奉れ。」
とて、持て来たりければ、
「それを取りてのちは、わが物とこそ思ひつらめ。主(*)の心ゆかぬ物をば、いかが着るべき。いまだ、よも遠くは行かじ。とくとく持ておはして、取らせ給へ。」
とありければ、門戸のかたへ走り出でて、
「やや。」
と呼び返して、
「これ落されにけり。たしかに奉らむ。」
と言ひければ、盗人ども立ち止まりて、しばし案じたる気色にて、
「悪しく参りにけり。」
とて、取りける物どもを、さながら返し置きて帰りにけり。
十訓抄「安養の尼上の小袖」の現代語訳
横川の恵心僧都の妹である、安養の尼上の所に強盗が入って、(そこに)あった物を、全て取って出ていったので、尼上は紙衾というものだけを(頭から)かぶって座っていらっしゃったところ、姉である尼の所に小尼上といった人がいたが、走って参上してみると、小袖を一つ落としてあったのを
「これを落としてございます。お召ください。」
と言って、持って来たところ、
「それを取ったあとは、(盗人は)自分のものと思っているだろう。持ち主の納得がいかない物を、どうして着ることができようか(、いや、できない。)。まだ、まさか遠くには行かないだろう。早く早く持っていらっしゃって、お与えなさい。」
と言ったので、門のほうへ走り出して、
「もしもし。」
と呼び返して、
「これを落としなさった。間違いなく差し上げよう。」
と言ったので、盗人どもは立ち止まって、しばらく考えている様子で、
「具合の悪いところに参上してしまった。」
と言って、取ったものなどを全て返して帰った(ということだ)。
十訓抄「安養の尼上の小袖」の単語・語句解説
紙衾というものだけを。
[ゐられたりける]
座っていらっしゃった。
[走り参りて]
走って参上して。
[これ落して侍るなり]
これを落としてございます。
[奉れ]
お召ください。
[心ゆかぬ物]
納得がいかない物。
[よも遠くは行かじ]
まさか遠くには行かないだろう。
[とくとく]
早く早く。
[取らせ給へ]
お与えなさい。
[案じたる気色にて]
考えている様子で。
[悪しく参りにけり]
具合の悪いところに参上してしまった。
*十訓抄「安養の尼上の小袖」でテストによく出る問題
○問題:「主(*)」とは誰の事か。
答え:盗人。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は十訓抄でも有名な、「安養の尼上の小袖」についてご紹介しました。
その他については下記の関連記事をご覧下さい。
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