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十訓抄「賢人右府」原文と現代語訳・解説・問題|高校古典

フジバカマ
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十訓抄(じっきんしょう)は六波羅二臈左衛門入道こと湯浅宗業が1252年(建長4年)に書いた説話集です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる十訓抄の中から「賢人右府(読み方は”けんじんうふ”)」について詳しく解説していきます。

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十訓抄「賢人右府」の解説

十訓抄でも有名な、「賢人右府」について解説していきます。

十訓抄「賢人右府」の原文

小野宮右大臣とて、世には賢人右府と申す。
若くより思はれけるは、身にすぐれたる才能なければ、何事につけても、その徳あらはれがたし。

まことに賢人を立てて名を得ることをこひねがひて、ひと筋に廉潔の振る舞ひをぞし給ひける。
かかれど、人さらに許さず。

かへりてあざけるたぐひもあるほどに、新しく家を造りて、移徒せられける夜、火鉢なる火の御簾のへりに走りかかりけるが、やがても消えざりけるを、しばし見給ひけるほどに、やうやうくゆりつきて、しだいに燃え上がるを、人あさみて寄りけるを制して、消さざりけり。
火、大きになりけるとき、笛ばかりを取りて、

「車、寄せよ。」

とて、出で給ひにけり。
いささか物をも取り出づることなし。

これより、おのづから賢者の名あらはれて、帝よりはじめ奉りて、ことのほかに感じて、もてなされけり。
かかる(*)につけては、げにも家一つ焼けんこと、かの殿の身には数にもあらざりけんかし。

ある人、のちにそのゆゑを尋ね奉りければ、

「わづかなる走り火の、思はざるに燃え上がる、ただごとにあらず。天の授くる災ひなり。人の力にてこれを競はば、これより大きなる身の大事出で来べし。何によりてか、あながちに家一つを惜しむに足らん。」

とぞ言はれける。
そののち、ことにふれて、かやうの振る舞ひ絶えざりければ、つひに賢人と言はれてやみにけり。
のちざまには鬼神の所変なども見あらはされけるとかや。

[好正直而不廻兮、精誠通於神明。(正直を好みて廻ならずんば、精誠神明に通ず。)]

と、曹大家が東征賊に書ける、今思ひ合はせられていみじ。
かかればとて、いやしからんたぐひ、このまねをすべきにあらねども、ほどほどにつけて、賢の道、ひとしからんことを思へとなり。

この殿、若くより賢人のひと筋のみならず、思慮のことに深く、情け、人にすぐれておはしけり。
円融天皇の御時、頭中将にて、殿上に候ひ給ひけるに、式部丞蔵人藤原貞高といふ人、大盤につきたるが、頓死したりけるを、頭、奉行にて、奏司下部を召して、かき出ださせられけるに、

「いづ方より出づべきぞ。」

と申しければ、

「東の陣より出づべきぞ。」

と行はれけるに、蔵人所の衆、滝口、出納、御倉、女官、主殿寮、下部どもに至るまで、そこらの者ども、これを見んとて、東の陣へ競ひ集まるほどに、

「殿上の畳ながら、西の陣より出だせ。」

とのたまひければ、ひき違へて西より出だしければ、見る者なくて陣の外へ出でたるを、父三位来て、迎へ取りてけり。
そののち、十日ばかりして、頭中将、夢に蔵人、内に参り合ひぬ。

「死の恥を隠させ給ひたる、よにも忘れがたし。東より出でましかば、多くの人に見えなまし。」

と言ひて、手をすりて、泣く泣く喜ぶと見えけり。

十訓抄「賢人右府」の現代語訳

小野宮右大臣(実資)といって、世間では賢人右府と申し上げる。
若いころからお思いになったことは、身に優れている才能がないと、何事につけても、その徳は(世間に)あらわれにくい。

本当に賢人の振る舞いを行って名声を上げることを求め願って、ひたすら清廉潔白の振る舞いをなさった。
こうではあるけれど、人は全く読めない。

かえってあざける者たちもいるうちに、(実資は)新しく家を造って、引っ越しをなさった夜、火鉢の中の火が、御簾のへりに燃え移ったが、(それが)すぐにも消えなかったのを、しばらく御覧になっていたうちに、しだいにくすぶっていって、だんだん燃え上がるので、人が驚いて(火を消そうと)近寄ったのを制止して、消さなかった。
火が、大きくなったとき、笛だけを持って、

「車を寄せろ。」

と言って、(邸を)お出になった。
わずかばかりも物を取り出すことはない。

これ以来、自然と賢者の名声があらわれて、帝をはじめとし申し上げて、格別に感じ入って、(賢人として)処遇なさった。
このようなことにつけては、本当に家一つ焼けるようなことは、あの殿の身にはものの数でもなかったのだろうよ。

ある人が、後になってその理由をお尋ね申し上げたところ、

「少しの走り火が、思いもかけずに燃え上がる(というのは)、ただごとではない。天が授ける災いである。人の力でこれに対抗するならば、これより大きなわが身の一大事が出てくるだろう。どうして、むやみに家一つを惜しむのに値するだろうか。(いや、値しない。)」

とおっしゃった。
その後、折に触れて、このような振る舞いが絶えなかったので、とうとう賢人を言われて一生を終えたのだった。

後には鬼や精霊など、目に見えない不思議な存在が姿を変えてこの世に現れることなども見通されたとかいうことだ。

[素直で偽りのない事を好み、非道な行いをしなければ、誠実な真心は神に通じる物だ。]

と、曹大家が「東征賊」に書いたことが、今自然と思い合わせられてすばらしく立派だ。
このようであるからといって、身分の低いような者たちが、このまねをするべきではないけれども、それぞれの身分に応じて、賢人の道と、同じであるようなことを心がけよということだ。

十訓抄「賢人右府」の単語・語句解説

[火鉢なる火の]
火鉢の中の火が。

[しばし見給ひけるほどに]
しばらく御覧になっていたうちに。

[あさみて]
驚いて。

[数にもあらざりけんかし]
ものの数でもなかったのだろうよ。

[そのゆゑ]
その理由。

[いみじ]
すばらしく立派だ。

[賢の道]
賢人の道。

[殿上の畳ながら]
殿上の畳のまま。

[よにも]
本当に。

*十訓抄「賢人右府」でテストによく出る問題

○問題:「かかる(*)」は何をさすか。
答え:実資は賢者だと評判になり、帝をはじめとして多くの貴族たちが実資は格別な存在だと認めたこと。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は十訓抄でも有名な、「賢人右府」についてご紹介しました。

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

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