日本最古の歌集である、万葉集。
そこには恋愛に関する和歌も数多く詠まれています。
遥か昔から人間にとって恋愛は、片想いでも両思いでも、常に悩みの種でした。
秀歌撰として有名な百人一首でも、実に43首が恋の歌なのです。
そこで今回は、万葉集や古今和歌集など、古代の歌集から恋愛に関する和歌を53首ご紹介したいと思います。
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- ありつつも君をば待たむうち靡く わが黒髪に霜の置くまでに
- 秋の田の穂の上霧らふ朝がすみ 何方の方にわが恋ひやまむ
- 君が行き日長くなりぬ山たづね 迎へか行かむ待ちにか待たむ
- かくばかり恋ひつつあらずは高山の 磐根し枕きて死なましものを
- 我が背子と二人見ませばいくばくか この降る雪の嬉しからまし
- あかねさす紫草野行き標野行き 野守は見ずや君が袖振る
- あしひきの山のしづくに妹待つと 我立ち濡れぬ山のしづくに
- 我を待つと君がぬれけむあしひきの 山のしづくにならましものを
- 古りにし嫗にしてやかくばかり 恋に沈まぬ手童のごと
- 君に恋ひ甚も術なみ楢山の 小松が下に立ち嘆くかも
- 陸奥の真野の草原遠けども 面影にして見ゆとふものを
- 白鳥の飛羽山松の待ちつつぞ わが恋ひわたるこの月のころを
- 我が命の全けむかぎり忘れめや いや日に異には念ひ益すとも
- 朝霧のおほに相見し人ゆえに 命死ぬべく恋ひ渡るかも
- 伊勢の海の磯もとどろに寄する浪 恐き人に恋ひ渡るかも
- なかなかに黙もあらまし何すとか 相見そめけむ遂げざらまくに
- 恋ひ恋ひてあへる時だに愛しき 言つくしてよ長くと思はば
- 思へども験もなしと知るものを なにかここだく吾が恋ひ渡る
- 黒髪に白髪交じり老ゆるまで かかる恋にはいまだあはなくに
- 夏の野の茂みに咲ける姫百合の 知らえぬ恋は苦しきものぞ
- 君が行く道のなが路を繰り畳ね 焼きほろぼさむ天の火もがも
- あしひきの山路越えむとする君を 心に持ちて安けくもなし
- たちかへり泣けども吾は験無み 思ひわぶれて寝る夜しぞ多き
- さつきまつ花橘の香をかけば 昔の人の袖の香ぞする
- ほととぎす鳴くや五月のあやめ草 あやめも知らぬ恋もするかな
- ゆふぐれは雲のはたてにものぞ思ふ 天つ空なる人を恋ふとて
- 思いつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせばさめざらましを
- うたたねに恋しき人をみてしより 夢てふものは頼みそめてき
- いとせめて恋しき時はむば玉の 夜の衣をかへしてぞきる
- うつつにはそもこそあらめ夢にさへ 人目を守るとみるがわびしさ
- 思へどもなほぞあやしき逢ふことの なかりし昔いかでへつらむ
- 昔とも今ともいさや思ほえず おぼつかなさは夢にやあるらむ
- 嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る
- 思ひせく胸のほむらはつれなくて 涙をわかすものにぞありける
- やすらはで寝なましものをさ夜ふけて 傾ぶくまでの月をみしかな
- おぼつかな君知るらめや足曳の 山下水のむすぶこころを
- もの思へば沢の蛍もわが身より あくがれいづる魂かとぞみる
- 亡き人の来る夜ときけど君もなし わが住む里や魂なきの里
- あらざらむこの世のほかの思ひ出に いまひとたびの逢ふこともがな
- 春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそをしけれ
- ながからむ心も知らず黒髪の 乱れてけさはものをこそ思へ
- 思ひ寝の夢になぐさむ恋なれば 逢はねど暮れの空ぞ待たるる
- 恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか
- 忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで
- 逢ひ見てののちの心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり
- 逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし
- 由良の門を渡る舟人かぢを絶え ゆくへも知らぬ恋のみちかな
- 君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな
- 明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな
- 忘れじのゆく末まではかたければ 今日を限りの命ともがな
- 来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ
- 君や来しわれや行きけむおもほえず 夢かうつつか寝てか覚めてか
- ほととぎす夢かうつつか朝露の おきてわかれし暁の声
恋愛に関する和歌一覧
恋愛を題材にした和歌を53首ご紹介します。
なお、恋愛和歌の朗読動画は四季の美Youtubeチャンネルをご覧下さい。
磐之媛命(いわのひめのみこと)
わが黒髪に霜の置くまでに
万葉集
【意味】
このまま私は恋しいあなたを待ちましょう。
私の黒髪に霜がおりるまで、白髪になるまでも。
何方(いづへ)の方にわが恋ひやまむ
万葉集
【意味】
秋の朝、稲穂の上に霞がたなびくように、私の恋心はどこへも行かず、貴方だけを思ってただよっています。
迎へか行かむ待ちにか待たむ
万葉集
【意味】
貴方が私のもとを去って長い日にちが経ちました。貴方のおられる山奥まで訪ねて行きましょうか、お帰りをひたすら待ちましょうか。
磐根し枕(ま)きて死なましものを
万葉集
【意味】
こんなに貴方を恋い慕っている苦しさに耐えているより、高い山の岩のもとで死んだほうが良いくらいです。
光明皇后(こうみょうこうごう)
この降る雪の嬉しからまし
万葉集
【意味】
夫のあなたと一緒に見れば、この美しい雪景色も嬉しいでしょうに。
額田王(ぬかたのおおきみ)
野守は見ずや君が袖振る
万葉集
【意味】
(あかねさす)紫草の咲く野を行き、標を張った野を行って、野守が見ているではないかしら。あなたが袖をお振りになるのを。
大津皇子(おおつのみこ)
我立ち濡れぬ山のしづくに
万葉集
【意味】
私は貴方を待って、あしひきの(枕詞)山の雫に濡れてしまいました。
石川郎女(いしかわのいらつめ)
山のしづくにならましものを
万葉集
【意味】
私を待って濡れたとおっしゃるその雫になって、貴方に寄り添いたかったです。
恋に沈まぬ手童(わらは)のごと
万葉集
【意味】
年老いた私がこんなに深く貴方に恋して、まるで幼児のように恋にうつつをぬかしています。
笠女郎(かさのいらつめ)
小松が下に立ち嘆くかも
万葉集
【意味】
あなたが恋しくてたまらず、なら山の松の木の下に立って嘆き続けました。
面影にして見ゆとふものを
万葉集
【意味】
遠い陸奥の国にあるという真野の草原は、遠くても面影として見えるというのに、近い都にいらっしゃる貴方を見ることはありません。
わが恋ひわたるこの月のころを
万葉集
【意味】
白鳥の飛羽山の松のように、あなたに会えるのをひたすら待っています。
いや日に異には念ひ益すとも
万葉集
【意味】
私の生命がある限り、貴方のことは忘れません。日ごとに想いが増す事はあったとしても。
命死ぬべく恋ひ渡るかも
万葉集
【意味】
朧な朝霧の中でお目にかかったあなたゆえの恋に、死にたいくらい恋しいです。
恐(かしこ)き人に恋ひ渡るかも
万葉集
【意味】
伊勢の海に打ち寄せる怒涛のように、諦めようとしては再び思いを寄せ続けています。
大伴家持(おおとものやかもち)
相見そめけむ遂げざらまくに
万葉集
【意味】
最後まで添い遂げることができないのだったら、かえって恋をしないで黙っていればよかった。