日本人は古くから、和歌に自分の想いを込めてきました。
万葉集や百人一首など、1000年以上も前の和歌であっても、現代を生きる私たちの心に強く響きます。
今回はそんな和歌・短歌の中から、高校古典の教科書にも出てくる有名な和歌をピックアップしてご紹介します。
教科書に出てくる和歌・短歌一覧
高校古典の教科書にも出てくる和歌・短歌の原文と現代語訳を一覧でまとめてご紹介します。
万葉集
潟なしと 人こそ見らめ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし
潟はなくとも いさなとり 海辺をさして にきたづの 荒磯の上に
か青く生ふる 玉藻沖つ藻 朝羽振る 風こそ寄せめ
夕羽振る 波こそ来寄れ
波のむた か寄りかく寄る 玉藻なす 寄り寝し妹を
露霜の 置きてし来れば この道の 八十隅ごとに
万たび かへり見すれど いや遠に 里は離りぬ
いや高に 山も越え来ぬ
夏草の 思ひしなえて 偲ふらむ 妹が門見む なびけこの山
(巻二・相聞・一三一)
【読み】
石見の海の角の曲がった浦を、よい浦がないと人は見るだろうが、
よい潟がないと見るだろうが、ええ、ままよ、よい浦はたとえなくても、ええ、ままよ、
よい潟はなくても、(鯨を捕り)海辺を指して、にぎたづの荒磯の辺りに、
青々と生えている美しい藻や沖の方の藻は、朝、(鳥が羽ばたくような)風が強く吹きつけるだろう、
夕暮れ時、(鳥が羽ばたくような)波で寄って来るだろう。
その波と共にあちらへ寄ったりこちらへ寄ったりする美しい藻のように、(私に)寄り添って寝た妻を、
露霜のように(里に)置いて来てしまったので、この道の多くの曲がり角ごとに、
とめどなく振り返って見るけれど、いよいよ遠く里は離れてしまった。
ますます高く山も越えて来てしまった。
(夏草がしおれるように)思いしおれて私のことを恋い慕っているだろう妻の家の門を見よう。
(だから)平くなれ、(私と妻を隔てている)この山よ。
反歌二首
我が振る袖を妹見つらむか
(巻二・相聞・一三二)
【読み】
石見のなあ、高角山の木立の間から、私の振る袖を、妻は見ただろうか。
吾は妹思ふ別れ来ぬれば
(巻二・相聞・一三三)
【読み】
笹の葉は、山全体でさやさやと音を立てているけれども、(そんな音にも煩されることなく)私は妻のことを思っている。別れてきてしまったので。
古今和歌集
花なき里にすみやならへる
(巻第一・春歌上・三一)
【読み】
春霞が立って、花咲く季節になったのを見捨てて北国へ飛び立ち帰る雁は、花のない里に住み慣れているのだろうか。
あかでも人にわかれぬるかな
(巻第八・離別歌・四○四)
【読み】
水をすくうと、手からしたたる滴で(すぐに)濁る(ほど浅くて満足するほど飲めない)山の井のように、(私は)もの足りない思いであの人に別れてしまうことだなあ。
あやめも知らぬ恋もするかな
(巻第十一・恋歌一・四六九)
【読み】
ホトトギスが鳴くよ、この五月の節句のあやめ草(=菖蒲)が飾られているけれど、その「あやめ」という名のとおり、分別を失うほどの恋もすることだなあ。
後撰和歌集
みをつくしても逢はむとぞ思ふ
(巻第十三・恋五・九六○)
【読み】
すでに恋に苦しんでいるので、(二人のことが知られても)今はやはり(苦しみは)同じこと。(難波にある澪標の名のように)身を尽くしてもあなたに逢おうと思っている。
拾遺和歌集
花こそ宿の主なりけれ
(巻第十六・雑春・一○一五)
【読み】
春が来て、やっと人も訪ねて来た。(この)山里は(人ではなく)梅の花こそが家の主人であったのだなあ。
人こそ見えね秋は来にけり
(巻第三・秋・一四○)
【読み】
つる草が生い茂っている荒れ果てた家はただでさえ寂しいのに、人の姿は見えないが、秋だけは訪れて来たことだなあ。
後拾遺和歌集
あくがれ出づる魂かとぞ見る
(巻第二十・雑六・一一六二)
【読み】
思い悩んでいると、沢辺を飛ぶ蛍(の光)も、私の身から抜け出してさまよう魂ではないかと(思って)見ることだよ。
千載和歌集
しほたれまさる須磨の浦人
(巻第三・夏歌・一八三)
【読み】
五月雨は、海藻を焼く煙も湿らせて降り、嘆き悲しみ涙でぬれた袖をいっそうぬらす須磨の浦人であるよ。
かひなく立たむ名こそ惜しけれ
(巻第十六・雑歌上・九六四)
【読み】
春の夜のはかない夢のような(戯れの)あなたの手枕ですのに、(うっかりお借りして、恋の)甲斐のない浮き名が立つのが惜しまれることです。
新古今和歌集
峰にわかるる横雲の空
(巻第一・春歌上・三八)
【読み】
春の夜のはかない夢が途切れて、(起き上がって外を見ると)今しも横雲が峰から離れていく、曙の空であることだ。
凍りて出づる有明の月
(巻第六・冬歌・六三九)
【読み】
志賀の浦よ、(岸辺から凍っていって)遠ざかってゆく波間から、凍ったように(冷たい光を放って)出た有明けの月であるよ。
山家集
その如月の望月のころ
(春上・七七)
【読み】
もし願いがかなうのならば、桜の花の下で春死にたい。(釈迦が入滅した)その二月十五日の満月の夜に。
金槐和歌集
沖の小島に波の寄る見ゆ
(巻之下・雑部・五九三)
【読み】
箱根路を私が越えてくると、伊豆の海(が眼前に広がっている)よ、沖の小島に波が寄るのが見えることだ。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は和歌・短歌の中から、高校古典の教科書にも出てくる有名な和歌をピックアップしてご紹介しました。
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