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平家物語「能登殿の最期・壇ノ浦の合戦」原文と現代語訳・解説・問題

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平家物語(へいけものがたり)は鎌倉時代に書かれた軍記物語で、平家の興亡が描かれています。

今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる平家物語の中から「能登殿の最期」について詳しく解説していきます。
(教科書によっては「壇ノ浦の合戦」というものもあり。)

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平家物語「能登殿の最期」朗読動画

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平家物語「能登殿の最期」の解説

平家物語でも有名な、「能登殿の最期」について解説していきます。

平家物語「能登殿の最期」の原文

およそ能登守教経の矢先に回る者こそなかりけれ。

矢だねのあるほど射尽くして、今日を最後とや思はれけん、赤地の錦の直垂に、唐綾縅の鎧着て、厳物作りの大太刀抜き、白柄の大長刀の鞘をはづし、左右に持つてなぎ周り給ふに、面を合はする者ぞなき。

多くの者ども討たれにけり。
新中納言使者を立てて、

「能登殿、いたう罪な作り給ひそ。さりとてよき敵か。」

とのたまひければ、

「さては大将軍に組めごさんなれ。」

と心得て、打ち物茎短に取つて、源氏の舟に乗り移り、乗り移り、をめき叫んで攻め戦ふ。
判官を見知り給はねば、物具のよき武者をば判官かと目をかけて、馳せ回る。

判官も先に心得(*1)て、面に立つやうにはしけれども、とかく違ひて、能登殿には組まれず。
されどもいかがしたりけん、判官の舟に乗り当たつて、あはやと目をかけてとんでかかるに、判官かなはじとや思はれけん、長刀脇にかい挟み、味方の船の二丈ばかりのいたりけるに、ゆらりと飛び乗りたまひぬ。

能登殿は、早業や劣られたりけん、やがて続いても飛び給はず。
今はかうと思はれければ、太刀・長刀海へ投げ入れ、甲も脱いで捨てられけり。
鎧の草摺かなぐり捨て、胴ばかり着て、大童になり、大手を広げて立たれたり。
およそあたりをはらつてぞ見えたりける。

恐ろしなんどもおろかなり。
能登殿、大音声を挙げて、

「我と思はん者どもは、寄つて教経に組んで生け捕りにせよ。鎌倉へ下つて、頼朝に会うて、もの一言言はんと思ふぞ。寄れや、寄れ。」

とのたまへども、寄る者一人もなかりけり。
ここに土佐国の住人、安芸の郷を知行しける安芸大領実康(あきのだいりょうさねやす)が子に、安芸太郎実光(あきのたろうさねみつ)とて、三十人が力持つたる、大力の剛の者あり。

我にちつとも劣らぬ郎等一人、弟の次郎も普通には優れたるしたたか者なり。
安芸太郎、能登殿を見奉つて申しけるは、

「いかに猛うましますとも、我ら三人取りついたらんに、たとひ丈十丈の鬼なりとも、などか従へざるべき。」

とて、主従三人小舟に乗つて、能登殿の船に押し並べ、

「えい。」

と言ひて乗り移り、甲の錣(しころ)を傾け、太刀を抜いて一面に討つてかかる。
能登殿のちつとも騒ぎ給はず、まつ先に進んだる安芸太郎が郎等を、裾を合はせて海へどうど蹴入れ給ふ。
続いて寄る安芸太郎を弓手の脇に取つて挟み、弟の次郎をば馬手の脇にかい挟み、ひと締め締めて、

「いざうれ、さらばおのれら、死途の山の供せよ。」

とて、生年二十六にて海へつつとぞ入り給ふ。
新中納言、

「見るべきほどのことは見つ。今は自害せん。」

とて、乳母子の伊賀平内左衛門家長を召して、

「いかに、約束(*2)は違ふまじきか。」

とのたまへば、

「子細にや及び候ふ。」

と、中納言に鎧二領着せ奉り、わが身も鎧二領着て、手を取り組んで海へぞ入りにける。
これを見て、侍ども二十余人後れ奉らじと、手に手を取り組んで、一所に沈みけり。

その中に越中次郎兵衛・上総五郎兵衛・悪七兵衛・飛騨四郎兵衛は、なにとしてか逃れたりけん、そこをもまた落ちにけり。

海上には赤旗、赤印投げ捨て、かなぐり捨てたりければ、竜田川の紅葉葉を嵐の吹き散らしたるがごとし。

汀に寄する白波も、薄紅にぞなりにける。
主もなきむなしき舟は、潮に引かれ、風に従つて、いづくをさすともなく揺られ行くこそ悲しけれ。

平家物語「能登殿の最期」の現代語訳

概して能登守教経の矢面に立ち向かう者はいなかった。

手持ちの矢のある限りを射尽くして、今日を最後とお思いになったのであろうか、(能登守は)赤池の錦の直垂に、唐綾縅の鎧を着て、いかめかしく立派に見えるように造った太刀を抜き、白木の柄の大長刀の鞘をはずして、(それを)左右(の手)に持って(敵を)横ざまになで切ってお回りになると、正面きって立ち向かう者はいない。

多くの者たちが(能登殿に)討たれてしまった。
新中納言が使者を出して、

「能登殿、あまり罪をお作りなさるな。そんなことをしても(今戦っているのは)ふさわしい相手か(、いや、そうではあるまい)。」

とおっしゃったので、

(能登殿は)「それでは大将軍(=源義経)に頼めというのだな。」

と理解して、太刀、長刀の柄を短めに持って、源氏の舟に乗り移り、乗り移り(しながら)、大声で叫んで攻め戦う。
(能登殿は)判官をご存知にならないので、(鎧や甲などの)武具の立派な武者を判官かと目をつけて、(舟から舟へ)走り回る。

判官も(自分を狙っていることを)先に承知して、(源氏軍の)前面に立つようにはしたけれど、あれやこれやと行き違って能登殿とはお組みにならない。
しかしどうしたのであろうか、(能登殿は)判官の舟に乗り当たって、やあと(判官を)目がけて飛びかかると、判官は(能登殿には)かなわないとお思いになったのであろうか、長刀を脇に挟んで、味方の舟で二丈ほど離れていた舟に、ひらりと飛び乗りなさった。

能登殿は、早業では(判官に)劣っておられたのだろうか、すぐに続いてもお飛びにならない。
今はもうこれまでとお思いになったので、太刀・長刀を海へ投げ入れ、甲も脱いでお捨てになった。

鎧の草摺りを引きちぎって捨てて、胴だけを着て、ばらばらのざんばら髪になり、両手を大きく広げてお立ちになった。
(その姿は)概して威厳があって周りを圧倒するように見えた。

恐ろしいなどという言葉では言い尽くせないほどである。
能登殿は、大声をあげて、

「我こそは(相手になろう)と思うような者どもは、近寄って(この)教経に組みついて生け捕りにせよ。鎌倉へ下って、頼朝に会って、何か一言言おうと思うぞ。(さあ)寄って来い、寄って来い。」

とおっしゃるけれども、近寄る者は一人もいなかった。
そこで土佐の国の住人で、安芸の郷を支配していた安芸実康の子に、安芸太郎実光といって、三十人分の力を持った、大刀の武勇に優れた武士がいた。

自分に少しも劣らない家来が一人(おり)、弟の次郎も普通(の人)よりは優れた力の強い者である。
安芸太郎、能登殿を見申し上げるには、

「どんなに勇猛でいらっしゃっても、我々三人が組みついたとしたら、たとえ丈十丈の鬼であっても、どうして服従させられないことがあるだろうか(、いや、必ず服従させられるはずだ)。」

といって、主従三人が小舟に乗って、能登殿の舟(の横)に押し並べ、

「えいっ。」

と言って乗り移り、甲の錣を傾け、太刀を抜いて一斉に討ってかかる。
能登殿は少しも慌てなさらず、真っ先に進んだ安芸太郎の家来を、裾と裾が合うほど相手を十分に引き寄せて海へどぶんと蹴り入れなさる。

続いて近寄る安芸太郎を左手の脇につかんで挟み、弟の次郎を右手の脇に挟んで、ぐっとひと締め締めあげて、

「さあ、それではお前たち、(私の)死出の山の供をせよ。」

と言って、生年二十六歳で海へさっとお入りになる。
新中納言は、

「見なければならない程度のことは見た。今は自害しよう。」

と言って、乳兄弟の伊賀平内左衛門家長をお呼び寄せになって、

「どうだ、約束は違えまいな。」

とおっしゃると、

「こまごまと申す必要がありましょうか(、いや、ありません)。」

と、新中納言に鎧二領をお着せ申しあげ、自分も鎧を二領着て、手を取り組んで海に入ってしまった。
これを見て、(平家の)侍ども二十余人も(新中納言に)後れ申しあげまいと、手に手を取り組んで、同じ所に沈んだ。

その中で越中次郎兵衛・上総五郎兵衛・悪七兵衛・飛騨四郎兵衛は、どのようにして逃れたのであろうか、そこ(=壇ノ浦)もまた逃げ落ちてしまった。

海上には(平家の)赤旗、赤印が投げ捨て、かなぐり捨ててあったので、(その様子は)竜田川の紅葉の葉を嵐が吹き散らかしたかのようである。
波打ち際に打ち寄せる白波も、薄紅になってしまった。

主人のいない空っぽの舟は、潮に引かれ、風(の吹くの)に従って、どこを目指すということもなく揺られていく(その様子は)なんとも悲しいものである。

平家物語「能登殿の最期」の単語・語句解説

[矢だねのあるほど]
手持ちの矢のある限りを。

[面を合はする者ぞなき]
正面きって立ち向かう者はいない。

[さりとて]
そうであっても。

[よき敵か]
ふさわしい相手か、いや、そうではあるまい。

[のたまひければ]
おっしゃったので。

[をめき叫んで]
大声で叫んで。

[見知り給はねば]
ご存知にならないので。

[とかく違ひて]
あれやこれやと行き違って。

[あはやと目をかけて]
やあと(判官を)目がけて。

[恐ろしなんどもおろかなり]
恐ろしいなどという言葉では言い尽くせないほどである。

[知行しける]
支配していた。

[剛の者]
武勇に優れた武士。

[郎等]
ここでは”従者”や”家来”の意味。

[普通には優れたる]
普通よりは優れている。

[したたか者]
力の強い者。

[などか従へざるべき]
どうして服従させられないことがあろうか、いや、きっと服従させられる。

[後れ奉らじと]
後れ申しあげまいと。

*「能登殿の最期」でテストによく出る問題

○問題:何を「心得(*1)」たのか答えよ。
答え:能登殿が自分を狙っていること。

○問題:「約束(*2)」とはどのようなことか。
答え:死ぬ時には一つの場所で死ぬという事。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は平家物語でも有名な、「能登殿の最期」についてご紹介しました。
(教科書によっては「壇ノ浦の合戦」というものもあり。)

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

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