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徒然草の原文内容と現代語訳|兼好法師の生涯

秋のすすき
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第137段|花は盛りに②

[要約]
恋も始めと終わりが味わい深い

原文

よろづの事も、始め終りこそをかしけれ。

男女の情(なさけ)も、ひとへに逢ひ見るをばいふものかは。逢はでやみにし憂さを思ひ、あだなる契りをかこち、長き夜をひとり明し、遠き雲居を思ひやり、淺茅が宿に昔を忍ぶこそ、色好むとはいはめ。

望月の隈なきを、千里(ちさと)の外まで眺めたるよりも、暁近くなりて待ちいでたるが、いと心ぶかう、青みたるやうにて、深き山の杉の梢に見えたる木の間の影、うちしぐれたるむら雲がくれのほど、またなくあはれなり。

椎柴・白樫などの濡れたるやうなる葉の上にきらめきたるこそ、身にしみて、心あらむ友もがなと、都こひしうおぼゆれ。

現代語訳

何事においても、最盛そのものではなく、最盛に向う始めと最盛を過ぎた終わりとが味わい深いものなのだ。

男女の恋愛においても、ただただ相思相愛で結ばれる仲だけが最高といえるだろうか。
そんな仲だけではなく、相手と結ばれずに終わった辛さに悩んだり、相手の変心から婚約が破棄された事を嘆き、長い夜をひとり寝で明かし、遠い雲の下にいる相手に思いをはせ、荒れ果てた住まいに相手と過ごした当時をしのんだりする態度こそ恋の真味を知るものといえよう。

一点の曇りもなく輝きわたる満月を遥かに遠い天空のかなたに眺めるのよりも、明け方近くになって、待ちに待ってようやく出てきた月が、心を揺さぶるような青みがかった弱い光を放ちながら、深い山の杉の梢にかかって見えるさま、あるいは樹間から漏れるその月の光や、時折時雨を降らせる一群の雲に隠れている月の様子などは最高に心に深くしみるものだ。

また、椎柴や白樫などの、濡れたように艶のある木の葉の上に反射して、きらきら輝く月の光りは体の奥までしみこむように感じられて、今ここにこの月の風情をわかる友がいたらなぁと、友のいる都が恋しくなってくる。

第155段|世に従はむ人

[要約]
躊躇してはいけない。タイミングが大事。

原文

世に従はむ人は、まづ機嫌を知るべし。
ついで悪しき事は、人の耳にも逆ひ、心にも違ひて、その事成らず、さやうの折節を心得べきなり。

ただし、病をうけ、子うみ、死ぬる事のみ、機嫌をはからず。ついであしとて止む事なし。
生・住・異・滅の移り変はるまことの大事は、猛(たけ)き河のみなぎり流るるが如し。
しばしも滞らず、直ちに行ひゆくものなり。

されば、真俗につけて、かならず果し遂げむとおもはむことは、機嫌をいふべからず。
とかくの用意なく、足を踏みとどむまじきなり。

現代語訳

世の中の動きにうまく合わせようとするなら、何といっても時機を見逃さないことだ。
事の順序が悪いと他人も耳を貸さないし、気持ちがかみ合わないので、やることがうまくいかない。
何事にもふさわしい時機というものがあることを、心得ておく必要がある。

ただし、発病や出産や死亡だけは時機を予測できず、事の順序が悪いからといって中止となるものでもない。
この世は、万物が生じ、存続し、変化し、やがて滅びる、という四つの現象が絶えず移り変わるが、この真の大事はまるであふれんばかりの激流のようだ。
一瞬もやむことはなく、この大事は実現・直進してゆく。

だから、仏道でも俗世でも必ずやり遂げたい事がある場合は、時機をとやかく言う暇はない。
あれこれと準備時間を取ったり、途中で休んだりすることは禁物である。

第172段|若き時は

[要約]
若者は血気盛んだが、壊れやすい。老人は冷静だが、気力も衰えている。

原文

若き時は、血気内(うち)に余り、心、物に動きて、情欲おほし。
身を危(あやぶ)めて砕け易きこと、珠を走らしむるに似たり。
美麗を好みて宝を費し、これを捨てて苔のたもとにやつれ、勇める心盛りにして、物と争ひ、心に恥ぢ羨み、好む所日々に定まらず。
色に耽り情にめで、行ひを潔くして百年の身を誤り、命を失へたるためし願はしくして、身の全く久しからんことをば思はず。
好けるかたに心ひきて、ながき世語りともなる。
身を誤つことは、若き時のしわざなり。

老いぬる人は、精神衰へ、淡くおろそかにして、感じ動くところなし。
心おのづから静かなれば、無益のわざをなさず。
身を助けて愁(うれ)へなく、人の煩ひなからむことを思ふ。老いて智の若き時にまされること、若くして、貌(かたち)の老いたるにまされるが如し。

現代語訳

若い時は血気が体内に有り余り、心は物に接すると高ぶり、欲望が激しいものだ。
身を危険にさらして破滅しやすいさまは、砕けやすい玉をころがすのに似ている。
美麗なものに心奪われ、有り金を注ぎ込んだかと思うと、突然これらを捨てて独り出家してしまう。
また、闘志満々で人と争っていたかと思うと、自己嫌悪に陥り他人を羨ましがる。
目標が毎日変わって一定しない。
色欲に溺れ情にほだされ、思い切りのよい行動をして先の長い将来を台無しにし、命を失ったような例に憬れて、我が身の安全や長命は頭にない。
そうして、好きな事にのめり込んだあげく、長く世間の噂の種になってしまうのだ。
身の破滅は、まさしく若気の至りである。

年老いた人間は、気力が衰え何事にもあっさりと、こだわりがなく物に接しても欲望にかられない。
心が自然で平静だから、無益なことは慎む。
我が身を大切にして心配事がなく、他人に迷惑をかけないようにと考える。老人の判断力が若者よりも勝っているのは、ちょうど若者の容貌が老人よりも勝っているのと同じだ。

第175段|世には心得ぬこと①

[要約]
酒で人に迷惑をかける人間は地獄に落ちる

原文

この世にては過ち多く、財を失ひ、病をまうく。
百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそ起れ。憂へを忘るといへど、酔ひたる人ぞ、過ぎにし憂さをも思ひ出でて泣くめる。

後の世は、人の知恵を失ひ、善根を焼く事火の如くして、悪を増し、よろづの戒を破りて、地獄に墮つべし。

現代語訳

この現世では飲酒が原因の失敗が多く、財産をなくしたり病気になったりする。
酒は百薬の長というが、酒が原因の病気はいっぱいある。酒はつらいことを忘れさせるというけれど、酔っぱらいというのは、今どころか古い昔のつらい事まで思い出して泣くものらしい。

飲酒によって人間の理性を失い、善事のもとである人間愛を、まるで火のごとく焼き滅ぼして悪事を増やし、あらゆる戒律を破るのだから、来世では地獄に堕ちること間違いなしだ。

第175段|世には心得ぬこと②

[要約]
少しのお酒は、風情があって良い。

原文

かく疎ましと思ふものなれど、おのづから捨て難き折もあるべし。
月の夜、雪の朝、花のもとにても、心のどかに物語して、杯いだしたる、よろづの興を添ふるわざなり。
つれづれなる日、思ひの外に友の入り來て、取り行ひたるも、心慰む。

なれなれしからぬあたりの御簾のうちより、御果物、御酒(みき)など、よきやうなるけはひしてさし出されたる、いとよし。
冬、せばき所にて、火にて物煎りなどして、隔てなきどちさし向ひて、多く飮みたる、いとをかし。

旅の假屋、野山などにて、「御肴(みさかな)何」などいひて、芝の上にて飮みたるもをかし。
いたういたむ人の、強ひられて少し飲みたるも、いとよし。
よき人の、とりわきて、「今一つ、上すくなし」など、のたまはせたるも嬉し。
近づかまほしき人の、上戸にて、ひしひしと馴れぬる、また嬉し。

現代語訳

このように、飲酒はいやなものだと思うが、時と場合によっては捨てがたい風情がある。
秋の明月の夜、冬の雪の朝、また春の桜の花の下でも、ゆったりと落ち着いて会話を楽しみながら盃を交わす時、様々な感興がわいてくる。
用事がなく暇な日に、ひょっこり友人がやってきて、一杯やるのも気分が良い。

また、遠慮の多い高貴な方が御簾の中から上品な声音で果物や酒を差し出しているのも、何か親近感がわいて、素晴らしく感じられる。
冬、狭い部屋で火をおこして煮物をし、心おきない者同士が向かい合って大いに飲むのは、じつに愉快なものだ。

また、旅行中の仮の宿屋とか行楽時の野山などで、「酒の肴に何か欲しいな」と言いながら芝草の上に座って飲んでいるのも、面白い。
全くの下戸が無理強いされて、仕方なしに少し口をつけるのも、中々良いものだ。
身分も教養も高い紳士が特別の好意を示して、「もう一杯いかが。盃の酒が減ってませんな」などと言って勧めるのは、嬉しいものだ。
また、親しく付き合いたいと願っていた人が、とてもいける口で差しつ差されつしているうちに、すっかり意気投合してしまったのは、これまたじつに嬉しい。

第188段|ある者、子を法師に

[要約]
目標は一つに定めた方が良い。それ以外はすべて捨てろ。

原文

若きほどは、諸事につけて、身をたて、大きなる道をも成し、能をもつき、学問をもせんと、行末久しくあらます事ども、心にはかけながら、世をのどかに思ひてうち怠りつつ、まづさしあたりたる目の前の事にのみまぎれて月日を送れば、事毎になすことなくして、身は老いぬ。
つひに、ものの上手にもならず、思ひしやうに身をも持たず、悔ゆれどもとり返さるる齡ならねば、走りて坂をくだる輪の如くに衰へゆく。

されば一生のうち、むねとあらまほしからむことの中に、いづれか勝ると、よく思ひくらべて、第一の事を案じ定めて、その外は思ひすてて、一事を励むべし。
一日の中、一時の中にも、あまたのことの來らむなかに、少しも益のまさらむことを益みて、その外をばうち捨てて、大事をいそぐべきなり。
いづかたをも捨てじと心にとりもちては、一事も成るべからず。

現代語訳

若い間は、あらゆる分野に関して一人前になり、その道で大成し、また芸能も習得し学問もしようなどと、将来にわたる遠大な計画を心に抱いているものだ。
ところが、その一方で自分の人生は先が長いとのんきに考えて、やるべきことを怠り、目の前の雑事にばかりとらわれて月日を送ってしまう。
だから、何一つ達成出来たもののないまま年老いてしまう。
結局、何の専門家にもなれず計画通りに出世も出来ず、後悔しても年齢は取り返せないから、走って坂を急降下する車輪のようにみるみる老衰していくのだ。

こんなわけで、一生の間に、大事な人生目標のうちで、それらの重要性をよく比較・検討し第一の目標を決定したら、それ以外の目標は破棄して、ただ一事だけに専念しなければならない。
一日の間にも一時の間にも、やることはたくさんあるが、それらの中から少しでも意義のあることを選び、それに全身全霊をささげ、それ以外は全て切り捨てて何よりもこの大事を急がなければならない。
どこもこれも捨てがたいと執着するならば、間違いなく一事も達成できなくなるのだ。

第217段|ある大福長者

[要約]
お金持ちになるには心構えが大切。

原文

ある大福長者の曰く、
「人はよろづをさしおきて、一向(ひたぶる)に徳をつくべきなり。貧しくては生けるかひなし。
富めるのみを人とす。徳をつかむと思はば、すべからくまづその心づかひを修行すべし。
その心といふは、他の事にあらず。
人間常住の思ひに住して、かりにも無常を観ずる事なかれ。これ第一の用心なり。

次に、万事の用をかなふべからず。
人の世にある、自他につけて所願無量なり。
欲に従ひて志を遂げむと思はば、百万の銭ありといふとも、しばらくも住すべからず。所願は止むときなし。財は尽くる期(ご)あり。
かぎりある財をもちて、かぎりなき願ひに従ふこと、得べからず。
所願心に兆すことあらば、われを亡すべき悪念きたれりと、固く慎みおそれて、小用をもなすべからず。

次に、銭を奴の如くしてつかひ用いるものと知らば、長く貧苦を免るべからず。
君の如く神のごとくおそれ尊みて、従へ用いることなかれ。

次に、恥にのぞむといふとも、怒り恨むる事なかれ。

次に、正直にして、約をかたくすべし。

この義を守りて利をもとめむ人は、富の来ること、火の乾けるに就き、水の下れるに従ふが如くなるべし。
銭つもりて尽きざるときは、宴飲・声色を事とせず、居所をかざらず、所願を成ぜざれども、心とこしなへに安く楽し」と申しき。

現代語訳

ある大富豪は、億万長者になる方法を次のように説いた。
「人間はあらゆる事に優先して、ただ一筋に金持ちを目指すべきだ。貧乏では生きているかいがない。
金持ちだけが人間らしい人間といえる。そこで、金持ちになろうと思うなら、まず心構えを練る必要がある。
その心構えというのはほかでもない。
人間の世界は不変である、という信念に立つ事なのだ。万が一にも、人生は無常だなどと悟ってはならない。
これが心構えの第一である。

第二に、やりたいことを全部完全にやり遂げようと考えてはならない。
この世に生きている以上、自分に関しても他人に関しても、やりたいことは無限にある。
その欲望のままにやり遂げようとすれば、どれほど大金を持っていてもすぐになくなってしまう。人間の欲望は尽きる時がない。しかし財産は尽きる時がある。
財産は有限であるのに、無限の欲望に従っても、その欲望を完全に満たすことは不可能だ。
したがって、何かやりたい気が起こってきたら、自分を破滅させる為に邪悪な考えがやってきた、と厳しく警戒して、どんな小さなことにも金を費やしてはならない。

第三に、金を召使いのように自由に使用出来ると考えるならば、その考えを改めない限り、いつまでも貧乏生活を逃れる事は出来ない。
だから、金を主君のように神様のように大切に敬ってどんな用にも使ってはならないのだ。

第四に、屈辱にあっても怒ったり恨んだりしてはならない。

第五に、うそ偽りなく、約束は固く守れ。

以上の五つの心構えを守った上で、利益を追求するならば、まるで火が乾いた物に燃え移り、水が低い所に流れ落ちるように、富は自然と速やかに訪れるだろう。
その結果、お金がどんどんたまってくる時は宴会や美女などで遊興せず、豪邸に住まず、例えやりたいことがやれなくとも、心はいつも安らかで楽しいものだ。」

第233段|よろづのとがあらじ

[要約]
誠実な人間こそ最高だ。

原文

よろづの科(とが)あらじと思はば、何事にも誠ありて、人を分かずうやうやしく、言葉すくなからんには如かじ。
男女・老少、みなさる人こそよけれども、ことに若くかたちよき人の、言うるはしきは、忘れがたく、思ひつかるるものなり。
よろづのとがは、馴れたるさまに上手めき、所得(ところえ)たるけしきして、人をないがしろにするにあり。

現代語訳

人前でどんな過失もないようにしたい、と思ったら何事にも誠意をもって当たり、人を差別せず礼儀正しく、余計な事は言わないのが良い。
男でも女でも老人でも若者でも、どんな場合にもこういうタイプの人間が最高だ。とりわけ、若くて顔が綺麗で、言葉遣いがきちんとしているのは、いつまでも忘れがたく心ひかれるものだ。
あらゆる過失は、もの慣れた様子でベテランらしく見せ、わがもの顔をして他人を軽くみる態度から生まれる。

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まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は徒然草についてご紹介しました。
鎌倉時代に兼好法師(吉田兼好)が書いた随筆、徒然草の魅力に触れて頂ければ幸いです。

その他については下記の関連記事をご覧下さい。


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