古今和歌集の夏の歌
昔の人の袖の香ぞする
【意味】
時鳥のやって来る五月を待っている橘の花の香をかぐと、かつて親しくしていた人の懐かしい袖の香がするように思われ、その頃の事がしみじみと思い出される。
かたへ涼しき風や吹くらむ
【意味】
夏と秋とがすれ違う空の通い路は、片側は涼しい秋風が吹いているのだろうか。
渡りはてねば明けぞしにける
【意味】
天の川の浅瀬を知らないので、白波をたどりながら渡りきらないでいると、夜が明けてしまったなぁ。
なほ疎まれぬ思ふものから
【意味】
時鳥よ、お前が訪れて鳴く里は、ここだけではなくてあちこちにあるので、いとしく思うものの、やはり疎ましく思われることだ。
夜深く鳴きていづち行くらむ
【意味】
うっとうしい五月雨の降り続く頃、物思いに耽っていると、時鳥がまだ夜深い空を鳴きながら飛んで行くが、いったいどこに行くのだろう。
鳴く一声に明くるしののめ
【意味】
夏の夜の横たわったと思うのもつかの間、時鳥の鳴く一声にほのぼのと空が白んできたこの明け方よ。
妹と我が寝るとこなつの花
【意味】
咲き始めてから塵一つさえ付けて置くまいと思っている、とにかく妻と私とが共寝をする床という名の常夏の花なのだから。
古今和歌集の秋の歌
鹿の鳴く音に目を覚ましつつ
【意味】
山里は秋が特に寂しいのだ。鹿の鳴く声に、毎晩何度も目を覚ましているよ。
風の音にぞおどろかれぬる
【意味】
秋がやって来た、と目にははっきりと見えないけれども、風の音でそれと気付かされた。
物思ふことの限りなりける
【意味】
物思いは何時というように時節によって違いがあるわけではないが、秋の夜こそは物思いの極みであることだ。
我かと行きていざ訪(とぶら)はむ
【意味】
秋の野に人を待つという松虫の声がする、私を待っているのかと、さあ尋ねて行ってみよう。
尾上の鹿は今や鳴くらむ
【意味】
秋萩の花が咲いた高砂の峰に住む鹿は、今頃鳴いているだろうか。
男山にし立てりと思へば
【意味】
女郎花を気懸かりで何度も見ながら通り過ぎたことだ。とにかく女という名を持ちながら、選りに選って男という名を持つ男山に立っていると思うので。
忘られがたき香に匂ひつつ
【意味】
泊まっていった人の形見の品か、この藤袴という袴は。忘れることができないような懐かしい香で匂い続けている。
穂に出てて招く袖と見ゆらむ
【意味】
秋の野の草の衣の袂なのか、この花薄は。だから穂が出ると、恋の思いをあらわに出して、慕う人を招く袖と見えるのだろう。
秋の木の葉を千ぢに染むらむ
【意味】
白露の色は白一色なのに、どのようにして秋の木の葉を色とりどりに染めるのだろうか。
山の木の葉の千くさなるらめ
【意味】
秋の露が色とりどりに置くからこそ、山の木の葉が様々に色づくのだろう。
柞の黄葉よそにても見む
【意味】
秋霧は今朝は立たないでほしい、佐保山の柞の黄葉を、せめて遠くからでも見ようと思うから。
渡らば錦中や絶えなむ
【意味】
龍田川には紅葉が散り乱れて流れているようだ。川を渡ったならば、紅葉の錦が真中から断ち切れてしまうだろうか。
三室の山に時雨降るらし
【意味】
龍田川に紅葉の葉が流れている、上流の神なびの三室山に時雨が降って、紅葉を散らしているらしい。
秋の木の葉の幣と散るらめ
【意味】
龍田姫が手向けをする神があるからこそ、秋の木の葉が幣となって散るのだろう。
散らぬ影さへ底に見えつつ
【意味】
風が吹くと散り落ちて、池の水面に浮かぶ紅葉の葉、それに水が清く澄んでいるので、まだ散らぬ紅葉が映って、水底にずっと見えている。
声のうちにや秋は暮るらむ
【意味】
ほの暗い小倉山にわびしげに鳴く鹿の声と共に、秋は暮れてゆくのだろうか。
古今和歌集の冬の歌
春に知られぬ花ぞ咲きける
【意味】
雪が降ると、冬籠りをしている草にも木にも、春には知られない花が咲いたことが。
故里寒く成りまさるなり
【意味】
吉野山の白雪が降り積もったらしい、ここ古京奈良では寒さが一段と募っている。
入りにし人のおとづれもせぬ
【意味】
吉野山の白雪を踏み分けて、山奥に入って行ったあの人からは、その後、便り一つとてもない。
雲のあなたは春にやあるらむ
【意味】
冬なのに空から花びらが散ってくるのは、雲のあちら側は春だからだろうか。
雪も我が身もふりまさりつつ
【意味】
一年の終わりになる度に、雪がますます降りながら、私もますます古くなっていくことだなぁ。
いづれを梅と分きて折らまし
【意味】
雪が降ると、どの木にも花が咲いているように見える、どれを梅の花と見分けて折ったらよいのだろうか。
まとめ|おすすめ書籍
いかがでしたでしょうか。
日本の和歌史、そして日本文化としても重要な位置を占める、古今和歌集。
お気に入りの歌が見つかれば幸いです。
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