伊勢物語(いせものがたり)は平安時代に書かれた歌物語で、作者はわかっていません。
主人公についても在原業平ではないかという説がありますが、未だ不詳となっています。
今回は高校古典の教科書にも出てくる伊勢物語の有名な説話「筒井筒(つついづつ)」について詳しく解説していきます。
[関連記事]
古典作品一覧|日本を代表する主な古典文学まとめ
伊勢物語「筒井筒」の解説
伊勢物語(いせものがたり)でも有名な、筒井筒(つついづつ)について解説していきます。
幼馴染の男女が恋心を抱きあうようになった。
成長するにつれてお互い恥ずかしがっていたが、親の勧めの縁談も断り続け、2人は望み通りの結婚を遂げる。
筒井筒の原文
①
昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとにいでて遊びけるを、大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得めと思ふ、女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども聞かでなむありける。
さて、この隣の男のもとより、かくなむ、
女、返し、
など言ひ言ひて、つひに本意のごとくあひにけり。
②
さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、もろともに言ふかひなくてあらむやはとて、河内の国、高安の郡に、行き通ふ所出できにけり。
さりけれど、このもとの女、悪しと思へる気色もなくて、出だしやりければ、男、異心ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて、前栽の中に隠れゐて、河内へ往ぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧じて、うち眺めて、
と詠みけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。
③
まれまれかの高安に来てみれば、初めこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づから飯匙取りて、笥子のうつはものに盛りけるを見て、心憂がりて行かずなりにけり。
さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
と言ひて見出だすに、からうじて、大和人、「来む。」と言へり。
喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
と言ひけれど、男住まずなりにけり。
筒井筒の現代文
①
昔、田舎を回って生計を立てていた人の子どもたちが、井戸の辺りに出て遊んでいたが、大人になったので、男も女も互いに恥ずかしがっていたけれど、男はこの女をぜひ妻にしようと思い、女はこの男を(夫にしたい)といつも思い、親が(他の人と)結婚させようとするけれど承知しないでいたのだった。
さて、この隣の男のもとから、このように(言ってきた)、
女の、返歌、
などと何度も言い合って、とうとうかねての念願どおり結婚した。
②
さて、何年かたつうちに、女は、親が死んで、生活の手段がなくなるにつれて、(男は)夫婦一緒に(貧しくて)惨めな状態でおられようか(、いや、おられない)ということで、河内の国、高安の郡に、通っていく(女の)所ができてしまった。
しかしながら、このもとの女は、不快に思っている素振りもなくて、(男を新しい女のもとへ)送り出してやったので、男は、(女も)別の男の心を寄せていてこのよう(に嫌な顔もしないの)であろうかと疑わしく思って、庭の植え込みの中に隠れて座り、河内へ行ったふりをして見ていると、この女は、たいそう念入りに化粧をして、もの思いにふけってぼんやり遠くを眺めて、
と詠んだのを聞いて、(男は)この上もなくいとしいと思って、河内へも行かなくなってしまった。
③
ごくまれにあの高安(の女の所)に来てみると、初めは奥ゆかしく取り繕っていたけれど、今では気を許して、自分の手でしゃもじを取って、飯を盛る器に盛りつけるのを見て、嫌になって行かなくなってしまった。
そういうわけだった(=男が来なくなった)ので、あの(高安の)女は、大和の方を見やって、
と詠んで外を見やると、ようやく、大和の人(=男)が、「行こう。」と言った。
(高安の女は)喜んで待つが、何度も(訪れのないまま)過ぎてしまったので、
と詠んだけれども、男は行かなくなってしまった。
筒井筒の単語・語句解説
①の解説
お互いに恥ずかしがって。「かはす」は動詞の連用形に付いて”お互いに〜し合う、の意をつくる。
[この女をこそ得め]
この女をぜひ妻にしよう。
[あはすけれども]
結婚させようとするけれど。「あはすれ」は「あはす」の已然形。
[聞かで]
聞かないで。「で」は打消の接続助詞。
[かくなむ]
このように(言ってきた)。
[あひにけり]
結婚した。
②の解説
惨めな状態で。
[さりけれど]
そうではあったが。
[気色]
ここでは(人や心の)ありさま、素振りの意味。
[往ぬる顔(いぬるかお)]
行ったふり。
[かなし]
ここでは”いとしい”の意味。
③の解説
ごくまれに、たまたま。
[心にくく]
奥ゆかしく。
[心憂がりて]
嫌に思って。
[な隠しそ]
隠さないでおくれ。「な〜そ」=副詞「な」は禁止の終助詞「そ」と呼応し、柔らかい禁止を表す。
[見出だす]
外を見る。
[頼まぬものの]
もうあてにしないけれど。
[住まずなりにけり]
行かなくなってしまった。
筒井筒でテストによく出る問題
○問題:次の太字の係助詞の意味を答えよ。
答え:君ならずして誰か上ぐべき→反語
異心ありてかかるにやあらむと→疑問
○問題:「異心」とは誰のどのような気持ちか。
答え:女の、他の男を思う浮気心。
○問題:「あふ」の意味を答えよ。
答え:結婚する。
○問題:「もろともに」の意味を答えよ。
答え:いっしょに。
○問題:「うちながむ」の意味を答えよ。
答え:ぼんやりと物思いにふける。
○問題:「あし」の意味を答えよ。
答え:悪い。つらい。
○問題:「けしき」の意味を答えよ。
答え:態度。様子。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は高校古典の教科書にも出てくる伊勢物語の「筒井筒(つついづつ)」についてご紹介しました。
その他については下記の関連記事をご覧下さい。
伊勢物語「つひにゆく道」
伊勢物語「通ひ路の関守」
伊勢物語「小野の雪」
伊勢物語「狩りの使ひ」
伊勢物語「月やあらぬ」
伊勢物語「あづさ弓」
伊勢物語「さらぬ別れ」
伊勢物語「筒井筒」
伊勢物語「東下り」
伊勢物語「芥川」
古典作品一覧|日本を代表する主な古典文学まとめ