当サイトはアフィリエイト広告を使用しています。

大鏡「雲林院の菩提講」原文と現代語訳・解説・問題|四鏡の一つ

フクジュソウの写真|冬に咲く花
Sponsored

大鏡(おおかがみ)は平安時代後期頃に成立した紀伝体による歴史物語で、作者などは詳しくわかっていません。
序・帝紀(本紀)・大臣列伝・藤原氏物語・雑々物語(昔物語)の五部から構成されています。

今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる大鏡の中から「雲林院の菩提講(うりんいんのぼだいこう)」について詳しく解説していきます。

Sponsored

大鏡「雲林院の菩提講」の解説

大鏡でも有名な、「雲林院の菩提講」」について解説していきます。

「雲林院の菩提講」の原文

先つころ、雲林院の菩提講に詣でて侍りしかば、例人よりはこよなう年老い、うたてげなる翁二人、嫗と行き会ひて、同じ所に居ぬめり。

「あはれに、同じやうなるもののさまかな。」

と見侍りしに、これらうち笑ひ、見かはして言ふやう、

「年ごろ、昔の人に対面して、いかで世の中の見聞くことをも聞こえ合はせむ、このただ今の入道殿下の御ありさまをも申し合はせばやと思ふに、あはれに嬉しくも会ひ申したるかな。
今ぞ心やすく黄泉路もまかるべき。思(おぼ)しき事(*)言はぬは、げにぞ腹ふくるる心地しける。
かかればこそ、昔の人はもの言はまほしくなれば、穴を掘りては言ひ入れ侍りけめとおぼえ侍り。
かへすがへす嬉しく対面したるかな。さてもいくつにかなり給ひぬる。」

と言へば、いま一人の翁、

「いくつといふこと、さらにおぼえ侍らず。
ただし、己は、故太政大臣貞信公、蔵人少将と申しし折の小舎人童、大犬丸ぞかし。
ぬしは、その御時の母后の宮の御方の召し使ひ、高名の大宅世継とぞ言ひ侍りしかしな。
されば、ぬしの御年は、己にはこよなくまさり給へらむかし。
自らが小童にてありし時、ぬしは二十五、六ばかりの男にてこそはいませしか。」

と言ふめれば、世継、

「しかしか、さ侍りしことなり。さてもぬしの御名はいかにぞや。」

と言ふめれば、

「太政大臣殿にて元服つかまつりし時、『きむぢが姓はなにぞ。』と仰せられしかば、『夏山となむ申す。』と申ししを、やがて、繁樹となむつけさせ給へりし。」

など言ふに、いとあさましうなりぬ。

誰も少しよろしき者どもは、見おこせ、居寄りなどしけり。
年三十ばかりなる侍めきたる者の、せちに近く寄りて、

「いで、いと興あること言ふ老者たちかな。さらにこそ信ぜられね。」

と言へば、翁二人見かはしてあざ笑ふ。

「雲林院の菩提講」の現代語訳

先ごろ、(私が)雲林院の菩提講に参詣しましたところ、普通の人よりは格別に年をとり、異様な感じのする老人二人と、老女(一人)とが来合わせて、同じ場所に座っていたようです。

「本当にまあ、同じような老人たちだなあ。」

と見ておりましたところ、この老人たちが笑って、顔を見合わせて(そのうちの一人、大宅世継が)言うことには、

「長年、(私は)昔なじみの人と会って、なんとかして世の中の見聞きしたことを(互いに)お話し合い申したい、(また)現在の入道殿下(=藤原道長)のご様子をも(互いに)お話し合い申したいと思っていたところ、本当にうれしくもお会い申しあげたことだなあ。
今こそ安心して死後の世界への道にも参ることができます。
思っていることを言わないのは、本当に(ことわざにあるように)腹がふくれるような気持ちがするものだなあ。
このようであるから、古人は何か言いたくなると、穴を掘っては(言いたいことをその中に)言い入れたのであろうと思われます。
本当にうれしくもお会いしたものだなあ。
ところで(あなたは)幾つにおなりになったのですか。」

と言うと、もう一人の老人(=夏山繁樹)が、

「幾つということは、全く覚えておりません。
しかし、私は、故太政大臣貞信公(=藤原忠平)が、(まだ)蔵人の少将と申しあげた頃の小舎人童(であった)、大犬丸であるよ。
あなたは、その(宇多天皇の)御代の母后の宮(=皇太后)様の召し使いで、有名な大宅世継と言いましたなあ。
そうすると、あなたのお年は、私よりはこの上なく上でいらっしゃるでしょうよ。
私が(まだほんの)子どもであった時、あなたは二十五、六歳くらいの(一人前の)男でいらっしゃいました。」

と言うと、世継は、

「そうそう、そうでございました。
ところであなたのお名前はなんとおっしゃいましたか。」

と言うと、(繁樹は)

「太政大臣のお屋敷で元服いたしました時、(貞信公が)『おまえの姓はなんと言うか。』とおっしゃいましたので、『夏山と申します。』と申しあげたところ、そのまま、(夏山にちなんで)繁樹とおつけになられました。」

などと言うので、(私はあまりに古い話に)たいそう驚きあきれてしまった。

(参会者の中の)誰でも、少しは身分もあり教養もある者たちは、(老人たちの方を)見たり、にじり寄ったりなどした。
(その中の)年は三十歳くらいの侍らしく見える者が、しきりに近くに寄って、

「さあ、たいそうおもしろいことを言う老人たちですなあ。
全く信じることができない。」

と言うと、老人
二人は(お互いの)顔を見合わせて大声で笑う。

「雲林院の菩提講」の単語・語句解説

[うたてげなる翁]
異様な感じのする老人。

[聞こえ合はせむ]
お話し合い申したい。

[まかるべき]
参ることができます。「まかる」は「行く」の謙譲語。

[さらにおぼえ侍らず]
全く覚えておりません。

[言ひ侍りしかしな]
言いましたなあ。

[いませしか]
いらっしゃいました。

[しかしか]
相槌に用いる感動詞。

[つけさせ給へりし]
おつけになられました。

[少しよろしき者ども]
少しは身分もあり教養のある者たち。

[居寄り]
にじり寄ったり。

*「雲林院の菩提講」でテストによく出る問題

○問題:(*)の「思しきこと」とはどのような事を指すか。
答え:入道殿下(=藤原道長)の栄華と、その周辺の事柄。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は大鏡(おおかがみ)でも有名な、「雲林院の菩提講(うりんいんのぼだいこう)」についてご紹介しました。

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

参考/おすすめ書籍


古典
Sponsored
シェアする
四季の美をフォローする
Sponsored

関連