大鏡(おおかがみ)は紀伝体による歴史物語で、平安時代に書かれました。
藤原氏の繁栄と政権争奪等を描き、鏡物と呼ばれる四つの歴史書である四鏡(他に今鏡、水鏡、増鏡)の一つでもあります。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる大鏡の中から「宣耀殿の女御(せんようでんのにょうご)」について詳しく解説していきます。
大鏡「宣耀殿の女御」の解説
大鏡でも有名な、「宣耀殿の女御」について解説していきます。
大鏡「宣耀殿の女御」の原文
御女、村上の御時の宣耀殿の女御、容貌をかしげにうつくしうおはしけり。
内裏へ参り給ふとて、御車に奉り給ひければ、わが御身は乗り給ひけれど、御髪の裾は、母屋の柱のもとにぞおはしける。
一筋を陸奥紙に置きたるに、いかにも隙見えずとぞ申し伝へためる。
御目の尻の少し下がり給へるが、いとどらうたくおはするを、帝、いとかしこく時めかさせ給ひて、かく仰せられけるとか。
御返し、女御、
『古今』浮かべ給へりと聞かせ給ひて、帝、試みに本を隠して、女御には見せさせ給はで、「やまと歌は」とあるをはじめにて、先づの句の言葉を仰せられつつ問はせ給ひけるに、言ひ違へ給ふこと、詞にても歌にてもなかりけり。
かかること(*)なむと、父大臣は聞き給ひて、御装束して、手洗ひなどして、ところどころに誦経などし、念じ入りてぞおはしける。
帝、箏の琴をめでたく遊ばしけるも、御心に入れて教へなど、限りなく時めき給ふに、冷泉院の御母后失せ給ひてこそ、なかなかこよなくおぼえ劣り給へりとは聞こえ給ひしか。
「故宮の、いみじうめざましく、安からぬものに思したりしかば、思ひ出づるに、いとほしく悔しきなり。」
とぞ仰せられける。
大鏡「宣耀殿の女御」の現代語訳
(藤原師尹の)ご息女は、村上天皇の御代の宣耀殿の女御で、顔立ちが美しくかわいらしくいらっしゃいました。
宮中へ参内なさろうとして、お車にお乗りなさいましたところ、自分のお体は(お車に)お乗りなさいましたけれど、お髪の毛の先は、(まだ)母屋の柱のもとにおありでした。
(また、このお方の髪の)一筋を檀紙に置いたところ、(紙全体が真っ黒になって)少しも隙間が見えなかったと申し伝えているようです。
お目尻が少し下がっていらっしゃるのが、いっそうかわいらしくていらっしゃるのを、帝は、たいそう深くご寵愛なさって、このようにおっしゃったとか。
(その)お返し(の歌として)、女御が、
(この女御が)『古今和歌集』を暗記していらっしゃるとお聞きになって、(ある時)帝が、試しに(『古今和歌集』の)本を隠して、女御にはお見せにならないで、(仮名序の)「やまと歌は」とあるのを初めとして、和歌の初句の言葉をおっしゃっては(以下の句の言葉を)お尋ねになったところ、(女御が)言い間違えなさることは、詞書でも歌でもなかった。
(宮中において)こういうことが(行われている)と、父の大臣(=師尹)はお聞きになって、正装して手を洗い清めなどして、あちらこちらの寺々に読経などを依頼し、(ご自分でも)心をこめて祈っていらっしゃった。
帝は、十三絃の琴を見事にお弾きなさいましたが、(それもこの女御に)ご熱心に教えるなど、(女御は)この上なくご寵愛をお受けになりましたが、冷泉天皇の御母后(=中宮安子)がお亡くなりになってからは、かえって格段に寵愛が衰えなさったとおうわさになりなさいました。
(帝は)「故宮(=中宮安子)が、(この女御を)非常に気にくわなく不愉快な者に思っていらっしゃったから、(そのことを)思い出すと、(中宮が)ふびんで(女御をあれほど愛したことが)悔やまれるのだ。」
とおっしゃいました。
大鏡「宣耀殿の女御」の単語・語句解説
お聞きになって。
[見せさせ給はで]
お見せにならないで。
[はじめにて]
初めとして。
[仰せられつつ]
おっしゃっては。
[かかることなむ]
このようである。
[御心に入れて教へなど]
ご熱心に教えるなど。
[失せ給ひて]
お亡くなりになって。
[なかなかこよなく]
かえって格段に。
[おぼえ劣り給へり]
寵愛が衰えなさった。
[聞こえ給ひしか]
おうわさになりなさいました。
[いみじうめざましく]
非常に気にくわなく。
[いとほしく悔しきなり]
ふびんで悔やまれるのだ。
*大鏡「宣耀殿の女御」でテストによく出る問題
○問題:「かかること(*)」とはどういうことか。
答え:帝が女御に「古今和歌集」の歌をどれくらい覚えているのか試していること。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は大鏡(おおかがみ)でも有名な、「宣耀殿の女御(せんようでんのにょうご)」についてご紹介しました。
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