源氏物語「藤壺の里下がり」原文と現代語訳・解説・問題|紫式部

秋のすすき
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源氏物語(げんじものがたり)は寛弘五年(1008年)に書かれた世界最古の長編小説で、作者は紫式部です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる源氏物語の中から「藤壺の里下がり」について詳しく解説していきます。

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源氏物語「藤壺の里下がり」の解説

源氏物語でも有名な、「藤壺の里下がり」について解説していきます。

源氏物語「藤壺の里下がり」の原文

藤壺宮、なやみ給ふことありて、まかで給へり。
上のおぼつかながり嘆き聞こえ給ふ御気色も、いといとほしう見奉りながら、かかるをりだにと心もあくがれ惑ひて、いづくにもいづくにもまうで給はず、内裏にても里にても、昼はつれづれとながめ暮らして、暮るれば、王命婦を責め歩き給ふ。

いかがたばかりけむ、いとわりなくて見奉るほどさへ、現とはおぼえぬぞわびしきや。
宮もあさましかりしを思し出づるだに、世とともの御もの思ひなるを、さてだにやみなむと深ふ思したるに、いと心憂くて、いみじき御気色なるものから、なつかしうらうたげに、さりとてうちとけず心深う恥づかしげなる御もてなしなどのなほ人に似させ給はぬを、などかなのめなることだにうちまじり給はざりけむと、つらうさへぞ思さるる。

何ごとをかは聞こえつくし給はむ、暗部の山に宿もとらまほしげなれど、あやにくなる短夜にて、あさましうなかなかなり。

[見てもまたあふよまれなる夢の中に やがてまぎるるわが身ともがな]

とむせかへり給ふさまも、さすがにいみじければ、

[世がたりに人や伝へむたぐひなく うき身を醒めぬ夢になしても]

思し乱れたるさまも、いとことわりにかたじけなし。
命婦の君ぞ、御直衣などはかき集めもて来たる。

殿におはして、泣き寝に臥し暮らし給ひつ。
御文なども、例の、御覧じ入れぬよしのみあれば、常のことながらも、つらういみじう思しほれて、内裏へも参らで、二、三日籠りおはすれば、また、いかなるにかと御心動かせ給ふべかめるも、恐ろしうのみおぼえ給ふ。

宮も、なほいと心憂き身なりけりと思し嘆くに、なやましさもまさり給ひて、とく参り給ふべき御使ひしきれど思しも立たず。
まことに御心地例のやうにもおはしまさぬはいかなるにかと、人知れず思すこともありければ、心憂く、いかならむとのみ思し乱る。

暑きほどはいとど起きも上がり給はず。
三月になり給へば、いとしるきほどにて、人々見奉りとがむるに、あさましき御宿世のほど心憂し。

人は、思ひよらぬことなれば、この月まで奏せさせ給はざりけることと驚き聞こゆ。
わが御心ひとつには、しるう思し分くこともありけり。

御湯殿などにも親しう仕うまつりて、何ごとの御気色をもしるく見奉り知れる御乳母子の弁、命婦などぞ、あやしと思へど、かたみに言ひあはすべきにあらねば、なほ逃れがたかりける御宿世をぞ、命婦はあさましと思ふ。
内裏には御物の怪の紛れにて、とみに気色なうおはしましけるやうにぞ奏しけむかし。

見る人もさのみ思ひけり。
いとどあはれに限りなうおぼされて、御使ひなどの隙なきもそら恐ろしう、ものを思すこと隙なし。

中将の君も、おどろおどろしうさま異なる夢を見給ひて、合はする者を召して問はせ給へば、及びなう思しもかけぬ筋のことを合はせけり。

「その中に、違ひ目ありて、つつしませ給ふべきことなむ侍る。」

と言ふに、わづらはしくおぼえて、

「みづからの夢にはあらず、人の御事を語るなり。この夢合ふまで、また人にまねぶな。」

とのたまひて、心の中には、いかなることならむと思しわたるに、この女宮の御事聞き給ひて、もしさるやうもやと思しあはせ(*)給ふに、いとどしくいみじき言の葉尽くし聞こえ給へど、命婦も思ふに、いとむくつけうわづらはしさまさりて、さらにたばかるべき方なし。
はかなき一行の御返りのたまさかなりしも、絶えはてにたり。

源氏物語「藤壺の里下がり」の現代語訳

藤壺宮は、ご病気でお苦しみになることがあって、(宮中から)退出なさった。
桐壺帝が気がかりに思ってお嘆き申しあげなさるご様子も、(光源氏は)とても気の毒だとお見申しあげるけれど、せめてこうした機会だけでも(藤壺宮にお会いしたい)と心もひどく落ち着かず、(女性の所へは)どなたの所へも参上なさらず、宮中においても自邸においても、昼はしみじみともの思いに沈んで暮らして、(日が)暮れると王命婦を(追いかけ回して)藤壺宮のそばに手引きせよと迫り続けなさる。

(命婦は)どのように策を講じたのだろうか、たいそう道理に合わない(無理な)状況で(藤壺宮に)お会い申しあげる間までも、現実とは思われないのが(光源氏には)つらいことであるよ。
(藤壺)宮もかつての二人の意外で嘆かわしいできごとを思い出しなさるのさえ、いつも頭から離れないもの思いの種であるのに、せめてあの事だけで終わりにしようと深くお思いになっていたのに(こうして今また会ってしまったことを)、とても情けなくて、たいそうつらいご様子であるけれども、(藤壺宮は)心がひかれ(るほど)かわいらしく、そうかといって(光源氏に)気をお許しにならず思慮深く(こちらが恥ずかしくなるほど)素晴らしいおふるまいなどがやはり(他の)人とは同じようではいらっしゃらないのを、(光源氏は)どうして平凡なことだけでも混じっていらっしゃらなかったのだろうかと、恨めしいとまで自然とお思いになる。

どんなことを(光源氏は)申しあげ尽くしなさるだろうか(、いや、申しあげ尽くせないだろう)、(夜明けの来ない)暗部の山に宿も取りたそうであるけれど、あいにくな(夏の)短い夜であって、嘆かわしくかえって会わないほうがまし(な逢瀬)である。

[お会いしても、また会える夜はめったにない、夢のような逢瀬ですから、いっそこの夢の中にこのまま紛れて消えてしまうわが身であればいいのになあ。]

と(光源氏が)激しくむせび泣いていらっしゃるご様子も、そうはいってもやはりお気の毒なので、

[世の語り草として人々が伝えるのでしょうか。この上もなくつらい身を、いつまでも醒めない夢の中のものとしても。]

思い乱れていらっしゃる(藤壺宮の)ご様子も、まことにもっともで恐れ多い(ことである)。
命婦の君が、(光源氏の)お直衣などがかき集めて(光源氏のもとに)持って来た。

(光源氏は)お邸(=二条院)にいらっしゃって、涙にくれて寝てお暮らしなさった。
光源氏から藤壺宮へのお手紙なども、いつものように、(藤壺宮は)お目をとめてご覧にならない旨だけ(書いて)あるので、いつものことであるけれども、つらくたいそう茫然となさって、宮中へも参上しないで二、三日籠もっていらっしゃるので、また、どういうことであろうかと(帝が)ご心配なさるにちがいないようなのも、恐ろしいとばかりお思いになる。

(藤壺)宮も、やはりとても情けないわが身であったなあと悲しみ嘆きなさるので、気分の悪さも募りなさって、(帝から)早く参内なさりなさいとのご使者がたび重なるけれど(参内する)ご決心もおつきにならない。
本当にご気分がいつもの状態でもいらっしゃらないのはどういうことであろうかと、ひそかにお思いになることもあったので、つらく、どうなるのだろうとばかり(あれこれ)お思い乱れなさる。

暑い頃はますます起き上がりもなさらない。
(妊娠)三か月におなりなので、(懐妊が)とてもはっきりわかる頃であって、人々(=女房たち)がお見申しあげ怪しむので、(藤壺宮は)驚きあきれる前世からのご因縁のほど(=光源氏の子を宿したこと)がつらい。

(他の)人は思いもよらないことであるので、この月(になる)まで奏上なさらなかったことよと(意外なことに)驚き申しあげる。
(藤壺宮は)ご自身ひとりの心には、はっきりご理解なさることもあった。

ご入浴などにも身近にお仕え申しあげて、どんなご様子をもはっきり見申しあげ知っている御乳母子の弁、命婦などは、不審だと思うけれど、お互いに話し合うはずのことではないので、やはり逃れがたかった前世からのご因縁を、命婦は驚きあきれたことだと思う。
帝には御物の怪のとり込みごとによって、すぐに(懐妊の)兆候とおわかりでなくいらっしゃったように奏上したのだろうよ。

(おそばで)世話をする人(=女房たち)もそうとばかり思った。
(帝は)ますますいとおしく限りないものにお思いになられて、帝から藤壺宮へのお見舞いのご使者などが絶え間ないのもそら恐ろしく、(藤壺宮は)お悩みなさること絶え間がない。

中将の君も、仰々しく異様な夢をご覧になって、夢占いをする者をお呼びになってお尋ねになると、あり得ぬようなご想像を絶する内容のことを夢判断した。

「その(夢判断の)中に意に反する事態があって、用心なさらなければならないことがございます。」

と言うので、面倒だと思われて、

「自分の(見た)夢ではない、(他の)人の御事(=ご覧になった夢)を語るのである。この夢が現実になるまで、他の人にそのまま話すな。」

とおっしゃって、心の中では、どのようなことであろうかとお思い続けなさっていると、この女官(=藤壺宮)の御事(=ご懐妊のこと)をおききになって、もしかすると(あの夢は)そういうことでもあろうかと考え合わせなさるので、いっそう並々でな(くせつな)い言葉を尽くし(藤壺宮に)申しあげなさるけれど、(手紙を受け取る)命婦も思いめぐらすと、(この事態が)本当に恐ろしく面倒だという思いがまさって、全く(逢瀬を)取り計らうのによい方法がない。
(藤壺宮からの)ちょっとした一行のお返事がまれにあったのも絶え果ててしまった。

源氏物語「藤壺の里下がり」の単語・語句解説

[おぼつかながり]
気がかりに思って。

[かかるをりだに]
せめてこうした機会だけでも。

[心もあくがれ惑ひて]
心も酷く落ち着かず。

[ながめ暮らして]
もの思いに沈んで暮らして。

[わりなくて]
道理に合わない状況で。無理に。

[いみじき御気色なるものから]
たいそうつらいご様子であるけれども。

[なつかしうらうたげに]
心ひかれ(るほど)かわいらしく。

[恥づかしげなる御もてなし]
すばらしいおふるまい。

[なのめなること]
平凡なこと。

[とらまほしげなれど]
取りたそうであるけれど。

[あやにくなる短夜]
あいにくな短い夜。

[とく参り給ふべき]
早く参内なさりなさい。

[しきれど]
たび重なるけれど。

[とがむるに]
怪しむので。

[また人にまねぶな]
他の人にそのまま話すな。

[思しわたる]
お思い続けなさる。

*源氏物語「藤壺の里下がり」でテストによく出る問題

○問題:何と何とを「思しあはせ(*)」たのか。
答え:夢占いをさせた仰々しく異様な夢と、藤壺宮の懐妊のこと。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は源氏物語でも有名な、「藤壺の里下がり」についてご紹介しました。

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