源氏物語「形見の文」原文と現代語訳・解説・問題

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源氏物語(げんじものがたり)といえば世界最古の長編小説として有名で、作者は紫式部(むらさきしきぶ)です。
寛弘五年(1008年)に書かれました
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる源氏物語の中から「形見の文」について詳しく解説していきます。

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源氏物語「形見の文」の解説

源氏物語でも有名な、「形見の文」について解説していきます。

源氏物語「形見の文」の原文

今年をばかくて忍び過ぐしつれば、今はと世を去り給ふべきほど近く思しまうくるに、あはれなること尽きせず。
やうやうさるべきことども、御心の中に思しつづけて、候ふ人々にも、ほどほどにつけて物賜ひなど、おどろおどろしく、今なむ限りとしなし給はねど、近く候ふ人々は、御本意遂げ給ふべき気色と見奉るままに、年の暮れゆくも心細くかなしきこと限りなし。

落ちとまりてかたはなるべき人の御文ども、

「破れば惜し。」

と思されけるにや、少しづつ残し給へりけるを、もののついでに御覧じつけて、破らせ給ひなどするに、かの須磨のほろほひ、ところどころより奉(*)り給ひけるもある中に、かの御手なるは、ことに結ひあはせてぞありける。
自らしおき給ひけることなれど、久しうなりにける世のことと思すに、ただ今のやうなる墨つきなど、げに千年の形見にしつべかりけるを、見ずなりぬべきよと思せば、かひなくて、疎からぬ人々二人、三人ばかり、御前にて破らせ給ふ。

いと、かからぬほどのことにてだに、過ぎにし人の跡と見るはあはれなるを、ましていとどかきくらし、それとも見分かれぬまで降り落つる御涙の水茎に流れそふを、人もあまり心弱しと見奉るべきがかたはらいたうはしたなければ、押しやり給ひて、

[死出の山越えにし人を慕ふとて 跡を見つつもなほ惑ふかな]

候ふ人々も、まほにはえ引き広げねど、それとほのぼの見ゆるに、心惑ひどもおろかならず。
この世ながら遠からぬ御別れのほどを、いみじと思しけるままに書い給へる言の葉、げにその折よりも関あへぬかなしさやらむ方なし。

いとうたて、いま一際の御心惑ひも、女々しく人わろくなりぬべければ、よくも見給はで、こまやかに書き給へるかたはらに、

[かきつめて見るもかひなし藻塩草 おなじ雲居の煙とをなれ]

と書きつけて、みな焼かせ給ひつ。

源氏物語「形見の文」の現代語訳

今年一年をこのように(紫の上の死の悲しみを)耐え忍んで過ごしたので、今はもうこれまでと出家をなさるだろう時期が近いとあらかじめ考えて準備なさると、感慨深いことは尽きない。
だんだん出家の前にするべきさまざまな準備を、お心の中にお思い続けになって、お仕えする人々(=女房たち)にも、身分に応じて(形見の)品物をお与えになるなど、大げさに、これが最後だとはなさらないけれど、近くでお仕えする人々(=女房たち)は、(光源氏が出家の)お望みをお遂げになるだろう(と思われる)様子と見申しあげるにつれて、年が暮れていくのも心細く悲しいことこの上ない。

死んだあとに残って体裁が悪いだろう人(=女性たち)からのお手紙なども、

(光源氏は)「破ると惜しい。」

とお思いになったのであろうか、少しずつ残していらっしゃったのを、何か他の事をする折にお見つけになって、破らせなさるなどすると、あの光源氏が失脚して須磨に退去していたころ、あちこちの女性たちから差し上げなさった手紙もある中に、紫の上の御筆跡であるものは、特別に結わえ合わせてあった。
(光源氏自身が)ご自分でなさっておかれた事であるけれど、長い時間がたってしまった時分のこととお思いになると、(その手紙の)たった今書いたような墨の付き具合など、本当に千年の後にも伝える形見の品にきっとすることができたけれど、(出家したら)きっと見なくなってしまうに違いないよとお思いになるので、(残しておく)価値もなくて、親しい人々(=女房たち)二人、三人程に、(光源氏の)おそば近くで破らせなさる。

本当に、このようでない程度(の人)のことでさえ、亡くなった人の筆跡と思うのはしみじみと悲しいのに、なおさら(紫の上の手紙の場合には)いっそう心を暗くし、それとも見分けることができないほど降り落ちるお涙が筆跡にそって流れるのを、人(=女房)もあまりに気が弱いと見申しあげるだろうことがきまり悪くミットもないので、(その手紙を)押しやりなさって、

[死出の山を越えていってしまったあの人(=紫の上)の後を慕おうとして足跡をたどるように、筆跡を見ながらも、やはり私の心は乱れる事だなぁ。]

お仕えしている人々(=女房たち)も、(紫の上の手紙を)きちんと引き広げることはできないが、それ(=紫の上のご筆跡)と僅かに見えるので、(さまざまに)心が惑い乱れることも並ひととおりではない。
同じこの世のことではあるが、遠くはなかった(都と須磨の)別れの距離を、たいそう悲しいとお思いになった(その心の)ままにお書きになった言葉(を見るにつけ)、本当にその時よりもこらえきれない悲しさをどうしようもない。

たいそう情けなく、もういっそうのお心の乱れも、未練がましくきっとみっともなくなってしまうに違いないので、(お手紙を)よくもご覧にならないで、(紫の上が)心をこめてお書きになった脇に、

[かき集めて見ても価値もないこの紫の上の手紙は、(かつて紫の上を火葬した時と)同じ雲の上の煙と慣なれ。]

と書きつけて、全て焼かせなさった。

源氏物語「形見の文」の単語・語句解説

[思しまうくる]
あらかじめ考えて準備なさる。

[おどろおどろしく]
大げさに。

[本意]
ここでは”本来の意思”や”かねてからの望み”という意味。

[御覧じつけて]
お見つけになって。

[疎からぬ人々]
親しい人々(=女房たち)。

[あはれなるを]
しみじみと悲しいのに。

[いとどかきくらし]
いっそう心を暗くし。

[おろかならず]
並ひととおりではない。大変なものである。

[せきあへぬ]
こらえきれない。

[やらむ方なし]
どうしようもない。

[人わろく]
みっともなく。

[見るかひなし]
見ても価値もない。

*源氏物語「形見の文」でテストによく出る問題

○問題:誰に何を「奉(*)」ったのか。
答え:光源氏に手紙を。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は源氏物語でも有名な、「形見の文」についてご紹介しました。

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