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源氏物語「薫と宇治の姫君」原文と現代語訳・解説・問題|橋姫|日本文学史上の最高傑作

ほおずき|秋に咲く花
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日本文学史上の最高傑作とも評される、源氏物語(げんじものがたり)。
平安時代に書かれ、作者は紫式部です。

今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる源氏物語の中から「薫と宇治の姫君(かおるとうじのひめぎみ)」について詳しく解説していきます。

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源氏物語「薫と宇治の姫君」の解説

源氏物語でも有名な、「薫と宇治の姫君」について解説していきます。

源氏物語「薫と宇治の姫君」の原文

近くなるほどに、その琴とも聞きわかれぬものの音ども、いとすごげに聞こゆ。

常にかく遊び給ふと聞くを、ついでなくて、親王の御琴の音の名高きも、え聞かぬぞかし、よき折なるべしと、思ひつつ入り給へば、琵琶の声の響きなりけり。
黄銅調に調べて、世の常のかきあはせなれど、所からにや、耳慣れぬ心地して、かき返す撥の音も、もの清げにおもしろし。

筝の琴、あはれになまめいたる声して、絶え絶え聞こゆ。
しばし聞かまほしきに、忍び給へど、御けはひしるく聞きつけて、宿直人めく男、なまかたくなしき、出で来たり。

「しかしかなむ、籠りおはします。御消息をこそ聞こえさせめ。」

と申す。

「何か。しか限りある御行ひのほどを紛らはし聞こえさせむに、あいなし。かく濡れ濡れ参りて、いたづらに帰らむ憂へを、姫君の御方に聞こえて、あはれとのたまはせばなむ、慰むべき。」

とのたまへば、みにくき顔うち笑みて、

「申させ侍らむ。」

とて立つを

「しばしや。」

と召し寄せて、

「年ごろ人づてにのみ聞きて、ゆかしく思ふ御琴の音どもを、うれしき折かな、しばし、少し立ち隠れて聞くべき、もののくまありや。
つきなくさし過ぎて参り寄らむほど、みなことやめ給ひては、いと本意なからむ。」

とのたまふ。
御けはひ、顔かたちの、さるなほなほしき心地にも、いとめでたくかたじけなくおぼゆれば、

「人聞かぬときは、明け暮れかくなむ遊ばせど、下人にても、都の方より参り、立ち交じる人侍るときは、音もせさせ給はず。
おほかた、かくて女たちおはしますことをば、隠させ給ひ、なべての人に知らせ奉らじと、おぼしのたまはするなり。」

と申せば、うち笑ひて、

「あぢきなき御もの隠しなり。しか忍び給ふなれど、みな人、ありがたき世のためしに、聞き出づべかめるを。」

とのたまひて、

「なほしるべせよ。我はすきずきしき心などなき人ぞ。かくておはしますらむ御ありさまの、あやしく、げになべてにおぼえ給はぬなり。」

と、こまやかにのたまへば、

「あなかしこ。心なきやうに、のちの聞こえや侍らむ。」

とて、あなたの御前は、竹の透垣しこめて、みな隔て異なるを、教へ寄せ奉れり。
御供の人は西の廊に呼び据ゑて、この宿直人あひしらふ。

あなたに通ふべかめる透垣の戸を少し押し開けて見給へば、月をかしきほどに霧りわたれるをながめて、簾を短く巻き上げて、人々ゐたり。
簀子に、いと寒げに、身細く、萎えばめる童一人、同じさまなる大人などゐたり。

内なる人、一人は柱に少しゐ隠れて、琵琶を前に置きて、撥をてまさぐりにしつつゐたるに、雲隠れたりつる月の、にはかにいと明かくさし出でたれば、

「扇ならで、これしても、月は招きつべかりけり。」

とて、さしのぞきたる顔、いみじくらうたげに、にほひやかなるべし。
添ひ臥したる人は、琴の上に傾きかかりて、

「入る日を返す撥こそありけれ、さま異にも思ひ及び給ふ御心かな。」

とて、うち笑ひたるけはひ、いま少し重りかによしづきたり。

「及ばずとも、これも月に離るるものかは。」

など、はかなきことを、うちとけのたまひかはしたるけはひども、さらによそに思ひやりしには似ず、いとあはれになつかしうをかし。

昔物語などに語り伝へて、若き女房などの読むをも聞くに、必ずかやうのこと(*)を言ひたる、さしもあらざりけむと、憎く推し量らるるを、げにあはれなるもののくまありぬべき世なりけりと、心移りぬべし。

霧のふかければ、さやかに見ゆべくもあらず。
また月さし出でなむとおぼすほどに、奥の方より、

「人おはす。」

と告げ聞こゆる人やあらむ、簾下ろしてみな入りぬ。
おどろき顔にはあらず、なごやかにもてなして、やをら隠れぬるけはひども、衣の音もせず、いとなよよかに心苦しうて、いみじうあてにみやびかなるを、あはれと思ひ給ふ。

源氏物語「薫と宇治の姫君」の現代語訳

(八の宮の屋敷が)近くなるうちに、何の楽器とも聞き分けられない音楽が、たいそう身にしみて寂しく聞こえる。

いつも(八の宮は姫君たちと)こうして演奏なさるのだと聞くが、機会がなくて、八の宮の琴の音の名高いのも聞くことができないでいる。

(今日は)良い機会であろうと、(薫)は思いながら、(邸内に)お入りになる。
(それは)琵琶の音の響きであった。

黄銅調に調子を整えて、世間で普通の調子を整えるための短い曲であるけれども、(宇治という)場所柄のせいであろうか、聞き慣れない感じがして、(下から上へ)かき返す撥の音もなんとなく澄んでいて興味深い。

筝の琴が、しみじみと優雅な音で、途切れ途切れに聞こえてくる。

しばらくの間聞きたくて人目を避けていらっしゃるが(薫がやって来た)ご様子をはっきりと聞きつけて、夜間の警護をする者らしい男で、どことなくものわかりの悪そうなのが出て来た。

(その男が)「これこれで、(八の宮は山寺に)籠っておいでです。(御来訪を知らせる)お手紙を(山寺に)さし上げましょう。」

と申し上げる。

(薫は)「いやなに(それには及ばない。)そのように日限の決まったおつとめの間を、お邪魔申し上げるようなのは感心できない。
(私が)このように(露に)濡れながら参上したのに、(宮にお目にかかれずに)むだに帰るような嘆きを、姫君のところに申し上げて、『お気の毒に』とおっしゃるならば、(私の)心も晴れるだろう。」

とおっしゃると、(宿直人の)みにくい顔がにっこり笑って、

「(女房に)申させましょう。」

と言って立っていくのを、(薫は)

「ちょっと待てよ。」

とお呼び寄せになって、

「この数年、他人から噂にだけ聞いて、聞きたく思っている(姫君の)お琴の音を、ちょうどうれしい機会であるなぁ、しばらく、ちょっと隠れて聞くことができる物陰はあるか。
(私が)不似合いに出過ぎて(姫君たちのおそばに)近寄ったりする間に、すっかり演奏をやめてしまわれたら、本当に残念であろう。」

とおっしゃる。

(薫の)ご様子やお顔がそうした(宿直人のような)身分の低い者の心にも、たいそうすばらしく、もったいなく思われるので、

「誰も聞いていないときは朝夕こうして演奏なさるけれども、たとえ下人であっても、都のほうから参って、(この邸内に)立ちまじる者がおりますときは、音もお立てになりません。
(八の宮さまは)だいたいこうして姫君たちのいらっしゃることをお隠しになり、一般の人には(姫のことを)お知らせ申すまいとお思いになり、そうおっしゃっておいでです。」

と申すので、(薫は)ほほえんで

「つまらないお隠しごとだ。そのようにして隠していらっしゃるということだが、世間の人はみな、(姫君の美しさを)世にも珍しい例として聞きつけているらしいのに。」

とおっしゃって

「やはり案内せよ。私は好色めいた心などもたない者だ。(寂しい所に)こうして過ごしていらっしゃる(姫君たちの)ご様子が、不思議と、いかにも世間にありふれた女と同じようでいらっしゃるとは、思われないのだ。」

とねんごろにおっしゃるので、(宿直人は)

「あぁもったいない。(しかし、ご案内すると)思慮のないことをしたように、あとで言われることもございましょう。」

と言って、姫君たちのお部屋の前庭は、竹の透垣で囲って(ほかの庭とは)すっかり仕切りが別になっている所を教えて、近く寄せ申し上げた。
(薫の)お供の人々は、西の廊のほうに呼び寄せて、この宿直人がもてなす。

(薫が)あちら(の姫君の部屋)に通じているらしい透垣の戸を、少し押し開けて御覧になると、月が風情のある程度に霧が一面にかかっているをながめるために、簾を短く巻き上げて女房達が座っていた。

隠れ縁に、たいそう寒そうに、体がほっそりして、糊気のない体に慣れた着物を着た女童が一人と、同じような様子をした年かさの女房などが座っていた。

(庭の間の)奥にいる姫のうち、ひとり(中の君)は柱に少し隠れて座り、琵琶を前に置いて、撥を手でもてあそんでいたときに、雲に隠れていた月が急にたいそう明るくさし出たので、

「扇でなくて、この撥によっても、月は招き返すことができるのですね。」

と言って、(月のほうを)さしのぞいた顔は、非常にかわいらしく、つやつやと美しいようだ。
(もう一人の)寄り添って横になっている姫(大い君)は、琴の上におおいかぶさるようにして、

「夕日を呼び返す撥はあるそうだけど、(月を招き返すとは)変わったことを思いつきなさるお心だこと。」

と言って、ほほえんだ様子は(中の君より)もう少し重々しく奥ゆかしい感じであった。

(中の君は)「(撥で月を招き返すことは)できなくても。この撥も月と無関係ではありませんわ。」

などと、たわいもないことを、うちとけて話し合っていらっしゃる様子は、見ないで想像していたのとは全く違って、たいそうしみじみと身にしみてなつかしく、風情がある。

昔物語などに語り伝えてあって、若い女房などが読むのを聞くと、必ずこのようなことを述べているが、(実際は)そうでもなかったのだろうと、(そんな作り話が)憎らしく思われたのに、なるほど(昔物語にある通り)しみじみと趣深い、人の知らない所も確かにある世の中であったのだなぁと、(薫は姫君に)心を奪われるにちがいない。

霧が深いので、(姫君たちの姿は)はっきり見ることができそうもない。
もう一度月が出てほしいと(薫が)お思いになっているうちに、奥の方から、

「どなたかおいでです。」

とお知らせ申す人がいるのだろうか、簾を下ろして、みな奥に入って行ってしまった。
驚いた様子ではなく、おだやかにふるまって、そっと隠れていった様子などは、衣ずれの音もたてず、とても物やわらかでいじらしくて、非常に上品で優雅なのを、(薫は)しみじみと心が引かれる、とお思いになる。

源氏物語「薫と宇治の姫君」の単語・語句解説

[かく遊び給ふ]
こうして演奏なさるのだ。

[所からにや]
(宇治という)場所柄のせいであろうか。

[しばし]
しばらくの間。

[なまかたくなしき]
どことなくものわかりの悪そうなのが。

[何か]
いやなに(それには及ばない)。

[いたづらに帰らむ憂へを]
むだに帰るような嘆きを。

[もののくま]
物の陰。

[さるなほなほしき心地にも]
そうした(宿直人のような)身分の低い者の心にも。

[かくなむ遊ばせど]
こうして演奏なさるけれども。

[しか忍ぶ給ふなれど]
そのようにして隠していらっしゃるということだが。

[聞き出づべかめるを]
聞きつけているらしいのに。

[げになべておぼえ給はぬなり]
いかにも、世間にありふれた女と同じようでいらっしゃるとは、思われないのだ。

[あなかしこ]
あぁ、もったいない。

[しこめて]
囲って。

[あなたに通ふべかめる]
あちらにつうじているらしい。

[萎えばめる]
糊気のない、体に慣れた着物を着た。

[ゐ隠れて]
隠れて座って。

[琵琶]
四弦(まれに五弦)の弦楽器。

[撥]
琵琶を弾く道具。

[扇ならで、これしても]
扇ではなくて、この撥によっても。

[にほひやかなるべし]
つやつやと美しいようだ。

[琴の上に傾きかかりて]
琴の上におおいかぶさるようにして。

[入る日を返す撥こそありけれ]
夕日を呼び返す撥はあるそうだけど。

[重りかによしづきたり]
重々しく奥ゆかしい感じであった。

[さらによそに思ひやりしには似ず]
見ないで想像していたのとは全く違って。

[昔物語など]
『宇津保物語』や『住吉物語』などをさす。

[さしもあらざりけむ]
そうでもなかったのだろう。

[もののくまありぬべき世なりけり]
人の知らないところも確かにある世の中であったのだなぁ。

[月さして出でなむ]
月が出てほしい。

[なごやかにもてなして]
おだやかにふるまって。

*源氏物語「薫と宇治の姫君」でテストによく出る問題

○問題:「かやうのこと(*)」とはどのような内容か。
答え:人目につかない意外な所に美人が住んでいるようなこと。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は源氏物語でも有名な、橋姫の「薫と宇治の姫君」についてご紹介しました。
(読み方は”かおるとうじのひめぎみ”)

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

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