源氏物語「萩の上露」原文と現代語訳・解説・問題|紫式部

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源氏物語(げんじものがたり)は1008年(寛弘五年)に書かれた長編小説で、作者は紫式部です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる源氏物語の中から「萩の上露」について詳しく解説していきます。

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源氏物語「萩の上露」の解説

源氏物語でも有名な、「萩の上露」について解説していきます。

源氏物語「萩の上露」の原文

風すごく吹き出でたる夕暮れに、前栽見給ふとて、脇息に寄りゐ給へるを、院渡りて見奉り給ひて、

「今日は、いとよく起きゐ給ふめるは。この御前にては、こよなく御心もはればれしげなめりかし。」

と聞こえ給ふ。
かばかりの隙あるをもいとうれしと思ひきこえ給へる御気色を見給ふも心苦しく、つひにいかに思し騒がむと思ふに、あはれなれば、

おくと見るほどぞはかなきともすれば 風に乱るる萩の上露

げにぞ、折れかへりとまるべうもあらぬ、よそへられたる、折さへ忍びがたきを、見出し給ひても、

ややもせば消えあらそふ露の世に 後れ先だつほど経たずもがな

とて、御涙を払ひあへ給はず。宮、

秋風にしばしとまらぬ露の世を たれか草葉の上とのみ見む

と聞こえ交はし給ふ御容貌どもあらまほしく、見るかひあるけにつけても、かくて千年を過ぐすわざもがな、と思さるれど、心にかなはぬことなれば、かけとめむ方なきぞ悲しかりける。

「今は渡らせ給ひね。乱り心地いと苦しくなり侍りぬ。言ふかひなくなりにけるほどと言ひながら、いとなめげに侍りや。」

とて、御几帳引き寄せて臥し給へるさまの、常よりもいと頼もしげなく見え給へば、

「いかに思さるるにか。」

とて、宮は御手をとらへ奉りて泣く泣く見奉り給ふに、まことに消えゆく露の心地して限りに見え給へば、御誦経の使ひども数も知らずたち騒ぎたり。
先々もかくて生き出で給ふ折にならひ給ひて、御物の怪と疑ひ給ひて夜一夜さまざまのことをし尽くさせ給へど、かひもなく、明け果つるほどに消え果て給ひぬ。

宮も、帰り給はで、かくて見奉り給へるを、限りなく思す。
誰も誰も、理の別れにてたぐひあることとも思されず、めづらかにいみじく、明けぐれの夢に惑ひ給ふほど、さらなりや。

賢き人おはせざりけり。
候ふ女房なども、ある限り、さらにものおぼえたるなし。

院は、まして、思し鎮めむ方なければ、大将の君近く参り給へるを、御几帳のもとに呼び寄せ奉り給ひて、

「かく今は限りのさまなめるを。年ごろの本意ありて思ひつること、かかるきざみにその思ひ違へてやみなむがいといとほしきを。
御加持に候ふ大徳たち読経の僧なども、みな声やめて出でぬなるを、さりとも、立ち止まりてものすべきもあらむ。
この世にはむなしき心地するを、仏の御しるし、今はかの冥き途のとぶらひにだに頼み申すべきを、頭おろすべき由ものし給へ。
さるべき僧、誰かとまりたる。」

などのたまふ御気色、心強く思しなすべかめれど、御顔の色もあらぬさまに、いみじくたへかね御涙のとまらぬを、理に悲しく見奉り給ふ。

「御物の怪などの、これも、人の御心乱らむとて、かくのみものは侍めるをさもやおはしますらむ。
さらば、とてもかくても、御本意のことはよろしきことに侍るなり。
一日一夜忌むことの験こそは、むなしからずは侍るなれ、まことに言ふかひなくなり果てさせ給ひてのちの御髪ばかりをやつさせ給ひても、異なるかの世の御光ともならせ給はざらむものから、目の前の悲しびのみまさるやうにて、いかが侍るべからむ。」

と申し給ひて、御忌みに籠り候ふべき心ざしありてまかでぬ僧、その人かの人など召して、さるべきことども(*)、この君ぞ行ひ給ふ。

源氏物語「萩の上露」の現代語訳

風がもの寂しく吹き出した夕暮れに、(紫の上が)庭先の植え込みをご覧になるということで、脇息に寄りかかって座っていらっしゃるのを、院(=光源氏)がおいでになって拝見なさって

「今日は、本当によく起きて座っていらっしゃるようですね。この中宮の御前では、この上なくご気分も晴れ晴れなさるようですね。」

と申しあげなさる。
このくらいの小康状態があるのもたいそううれしいとお思い申しあげていらっしゃる(光源氏の)ご様子を(紫の上は)ご覧になるのもおつらく、最期の時(=自分が死ぬことになった時)は(光源氏が)どんなに心配して騒ぎ立てなさるだろうと思うと、しみじみと悲しいので、

こうして起きていると見えますのも、あと僅かな間のことで、ややもすれば吹く風に乱れ散る萩の上露のようなはかない私の命でございます。

本当に、(萩の葉は吹く風に)折れかえり萩の葉に留まっていられそうもない(露に)、(紫の上の命が)たとえられている、折までも耐えがたいものと、(庭先を)ご覧になさるにつけても、

どうかすると先を争うように消えていく露、その露のようなはかない世なら、(せめて)後れ残ったり先立ったりすることなく一緒に死にたいものです。

と言って、(光源氏は)涙を払いきれないでいらっしゃる。宮は、

秋風にしばらくもとまらず散ってしまう露のようなこの世の命を、誰が草葉の上のこととだけ思いましょうか。(、わが身もおなじことでございます)。

と歌を詠み交わしなさる(紫の上と宮の)お顔だちなど理想的で、見る価値があるにつけても、このままで千年も過ごすすべがあったらなぁ、と(光源氏は)お思いになられるけれど、思うとおりにならないことなので、(命を)引きとめる方法がないことが悲しいのだった。

(紫の上は宮に)「もう(あちらへ)お行きください。気分がたいへん悪くなってきました。どうにもならなくなってしまった様子とは言いながらも、(宮の前で横になるのは)たいそう失礼でございますよ。」

と言って、御几帳を引き寄せて横になられる様子が、普段よりとても頼りなくお見えになるので、

「どんな様子でいらっしゃいますか。」

とおっしゃって、宮は(紫の上の)お手をお取り申しあげて泣きながら拝見なさると、本当に消えゆく露のような感じで臨終にお見えになるので、病気平癒、延命の加持祈禱を僧侶に頼むため、寺々へ送る使者が大勢大騒ぎをしている。
以前もこのようにして(臨終と見えながら)息を吹き返しなさった場合におならいなさって、物の怪(のしわざ)と疑いなさって一晩中さまざまなことを全てさせなさったが、そのかいもなく、夜が明けきる頃には息が絶えなさった。

宮も、お帰りにならないで、このように(紫の上の臨終を)看取り申しあげなさったことを、(深い因縁だと)この上なくお思いになる。
どなたも、逃れられない別れ(=死別)で同じようなことがあることだともお思いにならず、めったにないほどたいそう悲しく、夜明けが近く、まだ暗い頃に見る夢かと取り乱しなさっている様子は、言うまでもないことであるよ。

気がしっかりしている人はいらっしゃらないのだった。
お仕えしている女房たちも、そこにいる人皆、一人も分別がつく者はいない。

院は、なおさら、気を鎮めなさるようなすべもないので、大将の君(=夕霧)がおそば近くに参りなさったのを、御几帳の近くにお呼び寄せ申しあげなさって、

「このように今は最期様子であるようだ。(紫の上が)長年抱いてきた(出家)願望を、このような機会にその思いに背いて終わってしまうのがとてもかわいそうなので。
御加持に奉仕する徳の高い僧侶たちや読経のための僧なども、皆読経もやめて外に出てしまったようだが、そうだとしても、立ち止まって仕事をするはずの者もいるだろう。
この世では無益な気持ちがするが、仏の御利益を、今はせめてあの冥界(死者の世界)への道案内としてだけでもお頼み申しあげなければならないので、(紫の上を)剃髪して出家させなければならない旨をお伝えください。
しかるべき僧は、誰か残っているか。」

などとおっしゃるご様子は、気を強く持とうとお思いなのだろうが、お顔の色も不通と違っている様子で、悲しみに耐えかねお涙がとまらないのを、もっともなことだと(大将の君は)悲しく見申しあげなさる。

(夕霧は)「物の怪などが、これも、人のお心を乱そうとして、このようにばかりなるもののようですから、(もしかすると)そのようなことでいらっしゃるのでしょうか。
それならば、いずれにせよ、出家したいという願いのことはよいことだと聞いております。
一日一夜でも出家したことによる効果は、無駄ではないときいていますが、本当に亡くなられてしまわれて後で御髪だけを剃髪なされても、現世と異なる来世への明るい道しるべにもおなりにならないでしょうに、目の前の悲しみばかりが増すようで、いかがなものでございましょうか。」

と申しあげなさって、御忌み(=使者を供養するための一定期間の儀式)に籠もってお仕えしようという意思があって退出していない僧の、この僧、あの僧などをお呼び寄せになって、しかるべきことなどを、この君(=夕霧)がお指図なさる。

源氏物語「萩の上露」の単語・語句解説

[風すごく吹き出でたる夕暮れ]
風がもの寂しく吹き出した夕暮れ。

[寄りゐ給へるを]
寄りかかって座っていらっしゃるのを。

[渡りて]
来て。

[起きゐ給ふめるは]
起きて座っていらっしゃるようですね。

[いかに思し騒がむと]
どんなに心配して騒ぎ立てなさるだろうと。

[よそへられたる]
たとえられている。

[ややもせば]
ともすると。

[露の世]
露のようにはかない世。

[経ずもがな]
間をおかずにいたい。

[払ひあへ給はず]
払いきれない。

[聞こえ交はし給ふ]
詠み交わしなさる。

[あらまほしく]
理想的で。

[千年を過ぐすわざもがな]
千年も過ごすすべがあったらなぁ。

[今は]
もう、もはや、の意。

[乱り心地]
気分がすぐれないこと。病気。

[いとなめげに侍りや]
たいそう失礼でございますよ。

[いと頼もしげなく]
とても頼りなく。病状の不安定さを表す。

[ならひ給ひて]
おならいなさって。

[消え果て給ひぬ]
息が絶えなさった。

[理の別れ]
当然の別離。

[めづらかにいみじく]
めったにないほどたいそう悲しく。

[賢しき人]
気がしっかりしている人

[ある限り]
そこにいる人皆。

[さらにものおぼえたるなし]
「たる」の下に「者」などを補う。

[年ごろの本意]
長年抱いてきた願望。

[きざみ]
機会、折、場合、の意。

[いといとほしきを]
とてもかわいそうなので。

[ものすべきも]
仕事をするはずの者も。

[頭おろす]
剃髪して出家する。

[ものし給へ]
お伝えください。

[さるべき僧]
しかるべき僧。ふさわしい僧。

[とてもかくても]
いずれにせよ。

[いかが侍るべからむ]
いかがなものでございましょうか。

[行い給ふ]
ご指図なさる。

*源氏物語「萩の上露」でテストによく出る問題

○問題:「さるべきことども(*)」とはどういうことか。
答え:紫の上を出家させる為に剃髪などをしなければいけないこと。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は源氏物語でも有名な、「萩の上露」についてご紹介しました。

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