源氏物語「心づくしの秋風」原文と現代語訳・解説・問題|紫式部

すすき
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源氏物語(げんじものがたり)は1008年(寛弘五年)頃に書かれた世界最古の長編小説で、作者は紫式部です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる源氏物語の中から「心づくしの秋風」について詳しく解説していきます。

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源氏物語「心づくしの秋風」の解説

源氏物語でも有名な、「心づくしの秋風」について解説していきます。

源氏物語「心づくしの秋風」の原文

その日は、女君に御物語のどかに聞こえ暮らし給ひて、例の、夜深く出で給ふ。
狩の御衣など、旅の御よそひいたくやつし給ひて、

「月出でにけりな。なほ少し出でて、見だに送り給へかし。いかに聞こゆべきこと多くつもりにけりとおぼえむとすらむ。
一日二日たまさかに隔つる折だに、あやしういぶせき心地するものを。」

とて、御簾巻き上げて、端に誘ひ聞こえ給へば、女君、泣き沈み給へる、ためらひて、ゐざり出で給へる、月影に、いみじうをかしげにてゐ給へり。

「わが身かくてはかなき世を別れなば、いかなるさまにさすらへ給はむ。」

と、うしろめたく悲しいけれど、思し入りたるに、いとどしかるべければ、

「生ける世の別れを知らで契りつつ 命を人に限りけるかな

はかなし」
など、あさはかに聞こえなし給へば、

惜しからぬ命に代へて目の前の 別れをしばしとどめてしかな

「げに、さぞ思さるらむ。」

と、いと見捨てがたけれど、明け果てなばはしたなかるべきにより、急ぎ出で給ひぬ。
道すがら面影につと添ひて、胸もふたがりながた、御舟に乗り給ひぬ。

須磨には、いとど心づくしの秋風に、海は少し遠けれど、行平の中納言の、「関吹き超ゆる」と言ひけむ浦波、夜々はげにいと近く聞こえて、またなくあはれなるものは、かかる所の秋なりけり。
御前にいと人少なにて、うち休みわたれるに、一人目を覚まして、枕をそばたてて四方の嵐を聞き給ふに、波ただここもとに立ち来る心地して、涙落つとも思えぬに、枕浮くばかりになりけり。

琴を少しかき鳴らし給へるが、我ながらいとすごう聞こゆれば、弾きさし給ひて、

恋ひわびて泣く音にまがふ浦波は 思ふ方より風やふくらむ

と歌ひ給へるに、人々おどろきて、めでたう思ゆる(*)に、忍ばれで、あいなう起きゐつつ、鼻を忍びやかにかみわたす。

源氏物語「心づくしの秋風」の現代語訳

須磨に出発する当日は、女君(=紫の上)にお話をのんびりと日が暮れるまで申しあげて過ごしなさって、いつものように、夜が更けてからご出発なさる。
狩り衣など、たびの御装束はひどく地味に装いなさって、

「月がすっかり出ましたね。(明るいですが)やはり少し端(=外に近い場所)に出て、せめて見送るだけでもなさってくださいね。(須磨に行ったら)どんなにか申し上げたいことがたくさんたまってしまったことよと思われることでしょう。
一日二日まれに離れている時でさえ、妙に気の晴れない気持ちがするのになぁ。」

と言って、御簾を巻き上げて、端の方に(来るように)お誘い申しあげなさると、女君は、泣いて沈んでいらっしゃるが、心を静めて、膝をついて進み出ていらっしゃった(その姿は)、月の光に(映えて)、とても美しい様子で座っていらっしゃる。

(光源氏は)「私がこのようにはかない世と別れてしまったならば、(紫の上は)どのような様子で頼るところもなく(お過ごしに)なるだろう。」

と心配で悲しいけれど、(紫の上が)思いつめていらっしゃるので、(何かと言うと)いよいよ悲しみが増しそうなので、

「生きているこの世に別れというものがあると知らないで、死ぬまで一緒にいると、あなたに何度も約束したことでした。あてにならないものです。」

などと、(わざと)あっさり申し上げなさると、(紫の上は)

惜しいとも思わない、この私の命とかえて、目の前のあなたとの別れをしばらく止めたいものだなぁ。

「本当に、そのようにお思いになっていらっしゃるだろう。」

と、とても見捨てがたいけれど、すっかり夜が明けてしまったならば体裁が悪いだろうから、急いでご出発になられた。
道中(紫の上の)姿がありありと思い出され、ぴったりと身に添って(いるようで)、胸もふさがった(思いの)まま、お舟にお乗りになった。

須磨では、ひとしお思いを尽くさせる秋風によって、海は少し遠いけれど、(須磨に流罪になったという)行平の中納言が、「関吹き超ゆる」と詠んだとかいう浦波が、毎夜本当にたいそう近くに聞こえて、この上なくしみじみと風情があるものは、このような所の秋であったのだなぁ。

(光源氏の)おそば近くにはひともたいそう少なくて、(皆が)寝続けている時に、(光源氏は)一人目を覚まして、枕を斜めに立てて家の四方の激しい風の音を聞いていらっしゃると、波がすぐにこの辺りに打ち寄せて来る気持ちがして、涙がこぼれるとも思えないのに、(いつの間にか)枕が浮くほどになってしまったのだった。

琴を少しかき鳴らしていらっしゃるのだが、(その音が)自分でもひどくもの寂しく聞こえるので、弾くのを途中でおやめになられて、
恋しさに耐えきれずに泣くと、その声に似ている浦波が寄せてくるのは、私のことを恋しく思う人々のいる(都の)方から風が吹いてくるからだろうか。

とお歌いになっていらっしゃると、(寝ていた)人たちもはっと目を覚まして、すばらしいと思われるので、我慢できずに、わけもなく身を起こしながら、(皆)そっと鼻をかんでいる。

源氏物語「心づくしの秋風」の単語・語句解説

[やつし給ひて]
地味に装いなさって。

[見だに送り給へかし]
せめて見送るだけでもなさってくださいね。

[いかに]
どんなにか。「おぼえむとすらむ」に掛かる。

[おぼえむとすらむ]
思われるだろう。

[たまさかに隔つる折だに]
まれに離れている時でさえ。

[いぶせき心地するものを]
気の晴れない気持ちがするのになぁ。

[ためらひて]
心を静めて。

[ゐざり出で給へる]
膝をついて進み出ていらっしゃった。

[いみじうをかしげにて]
「いみじう」は「いみじく」のウ音便。「をかしげなり」は情趣があるさま。美しいさま。

[別れなば]
もし別れたとしたら。

[さすらへ給はむ]
頼るところもなく(お過ごしに)なるだろう。

[うしろめたく]
心配で。

[思し入りたるに]
思いつめていらっしゃるので。

[いとどしかる]
いよいよ悲しみが増しそうなので。

[はかなし]
頼りにならない、あてにならない、の意。

[とどめてしかな]
止めたいものだなぁ。

[さぞ思さるらむ]
「さ」は「惜しからぬ…」の歌の内容を指す。

[はしたなかるべきにより]
体裁が悪いだろうから。

[つと]
じっと、ずっと、ぴったりと、の意。

[言ひけむ]
言ったとかいう。

[夜々]
毎夜。

[またなくあはれなるものは]
この上なくしみじみと風情のあるものは。

[うち休みわたれるに]
(皆が)寝続けている時に。

[枕をそばだてて]
枕を斜めに立てて。

[すごう]
「すごく」のウ音便。

[弾きさし給ひて]
弾くのを途中でおやめになられて。

[おどろきて]
はっと目を覚まして。

*源氏物語「心づくしの秋風」でテストによく出る問題

○問題:誰が何を「めでたう思ゆる(*)」のか。
答え:共の者たちが、歌を朗詠された光源氏の声を。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は源氏物語でも有名な、「心づくしの秋風」についてご紹介しました。

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