源氏物語「女三の宮の降嫁」原文と現代語訳・解説・問題|世界最古の長編小説

あじさいの写真|夏に咲く花々
Sponsored

紫式部(むらさきしきぶ)が寛弘五年(1008年)に書いた世界最古の長編小説、源氏物語(げんじものがたり)。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる源氏物語の中から「女三の宮の降嫁」について詳しく解説していきます。
(読み方は”おんなさんのみやのこうか”)

Sponsored

源氏物語「女三の宮の降嫁」の解説

源氏物語でも有名な、「女三の宮の降嫁」について解説していきます。

源氏物語「女三の宮の降嫁」の原文

かくて二月の十余日に、朱雀院の姫宮、六条院へ渡り給ふ。
この院にも、御心まうけ世の常ならず。

若菜参りし西の放ち出でに、御帳立てて、そなたの一、二の対、渡殿かけて、女房の局々まで、こまかにしつらひ磨かせ給へり。
内裏に参り給ふ人の作法をまねびて、かの院よりも御調度など運ばる。

渡り給ふ儀式いへばさらなり。
御送りに、上達部などあまた参り給ふ。

かの家司望み給ひし大納言も、安からず思ひながら候ひ給ふ。
御車寄せたる所に、院渡り給ひて、おろし奉り給ふなども、例には違ひたることどもなり。

ただ人におはすれば、よろづのこと限りありて、内裏参りにも似ず、婿の大君といはむにも事違ひて、めづらしき御仲のあはひどもになむ。

三日がほど、かの院よりも、主の院方よりも、いかめしくめづらしきみやびを尽くし給ふ。
対の上も事にふれて、ただにも思されぬ世のありさまなり。

げに、かかるにつけて、こよなく人に劣り消たるることもあるまじけれど、また並ぶ人なくならひ給ひて、はなやかに生ひ先遠くあなづりにくき気配にてうつろひ給へるに、なまはしたなく思さるれど、つれなくのみもてなして、御渡りのほども、もろ心にはかなきこともし出で給ひて、いとらうたげなる御ありさまを、いとどありがたしと思ひ聞こえ給ふ。
姫宮は、げにまだいと小さく片なりにおはする中にも、いといはけなき気色して、ひたみちに若び給へり。

かの紫のゆかり尋ねとり給へりし折思し出づるに、かれはされて言ふかひありしを、これは、いといはけなくのみ見え給へば、よかめり、憎げに押し立ちたることなどはあるまじかめりと思すものから、いとあまりものの栄えなき御さまかなと見奉り給ふ。
三日がほどは、夜離れなく渡り給ふを、年ごろさもならひ給はぬ心地に、忍ぶれどなほものあはれなり。

御衣どもなど、いよいよたきしめさせ給ふものから、うちながめてものし給ふ気色、いみじくらうたげにをかし。
などて、よろづのことありとも、また人をば並べて見るべきぞ、あだあだしく心弱くなりおきにけるわが怠りに、かかること(*)も出で来るぞかし。

若けれど中納言をばえ思しかけずなりぬめりしをと、我ながらつらく思し続けらるるに、涙ぐまれて、

「今宵ばかりは理と許し給ひてむな。これより後のとだえあらむこそ、身ながらも心づきなかるべけれ。またさりとて、かの院に聞こし召さむことよ。」

と思ひ乱れ給へる御心の中苦しげなり。
少しほほ笑みて、

「自らの御心ながらだに、え定め給ふまじかなるを、まして理も何も。いづこにとまるべきにか。」

と、言ふかひなげにとりなし給へば、恥づかしうさへおぼえ給ひて、頬杖をつき給ひて寄り臥し給へれば、硯を引き寄せて、

[目に近く移れば変はる世の中を 行く末遠く頼みけるかな]

古言など書きまぜ給ふを、取りて見給ひて、はかなき言なれど、げに、と理にて、

[命こそ絶たゆとも絶えめ定めなき 世の常ならぬ仲の契りを]

とみにもえ渡り給はぬを、

「いとかたはらいたきわざかな。」

と、そそのかし聞こえ給へば、なよよかにをかしきほどに、えならずにほひて渡り給ふを、見出だし給ふもいとただにはあらずかし。
年ごろ、さもやあらむと思ひしことども、今はとのみもて離れ給ひつつ、さらばかくにこそはと、うちとけゆく末に、ありありて、かく世の聞き耳もなのめならぬことの出で来ぬるよ、思ひ定むべき世のありさまにもあらざりければ、今よりのちもうしろめたくぞ思しなりぬる。

さこそつれなく紛らはし給へど、候ふ人々も、

「思はずなる世なりや。あまたものし給ふやうなれど、いづ方も、皆こなたの御気配には方避り憚るさまにて過ぐし給へばこそ、事なくなだらかにもあれ。押し立ちてかばかりなるありさまに、消たれてもえ過ぐし給はじ。また、さりとて、はかなきことにつけても安からぬことのあらむ折々、必ずわづらはしきことども出で来なむかし。」

など、おのがじしうち語らひ嘆かしげなるを、つゆも見知らぬやうに、いと気配をかしく物語などし給ひつつ、夜更くるまでおはす。

源氏物語「女三の宮の降嫁」の現代語訳

こうして二月の十日過ぎに、朱雀院の姫君が、六条院へお移りになる。
この院(=光源氏)でも、ご準備は並ひととおりではない。

(光源氏が玉鬘からの)四十の賀の祝いの若菜を召しあがった(母屋の)西側の仕切りを取り払って設けられた部屋に、御帳台を立てて、そちらの一、二の対の屋から、渡殿にかけて、女房たちの各部屋まで、入念に準備し飾りつけさせなさった。
入内なさる人の儀式にならって、あちらの院(=朱雀院)からもご調度などが運ばれる。

お移りになる儀式(の盛大さ)はいまさら言うまでもない。
(朱雀院から六条院への)お見送りに、上達部などが大勢参上なさる。

あの、女三宮の家司になる事を望む形で求婚なさった藤大納言も、心穏やか出なく思いながらお供なさる。
お車を寄せた折に、院(=光源氏)がいらっしゃって、(女三の宮を)お降ろし申しあげなさるなど(というの)も、(准太上天皇としての)通例とは違ったことどもである。

(光源氏は)臣下でいらっしゃるので、(儀式には)全てのことに制限があって、入内の儀式にも似ていないし、(また普通の)婿である、親王の子といおうにも事情が違って、珍しいお間柄の取り合わせである。
三日間の結婚の儀の間、あちらの院(=朱雀院)からも、主人の(六条)院の方からも、厳かで類を見ない風雅を尽くし(て贈答を)なさる。

対の上(=紫の上)も何かにつけて、普通にもお思いになれないご夫婦の仲の様子である。
本当に、このような(光源氏と女三の宮の結婚の)ことにつけて、この上なく人(=女三の宮)にひけを取り圧倒されることもないだろうが、その他に匹敵する人(=競争相手)がいない状態に慣れていらっしゃって、(そこへ女三の宮が)華やかに将来が長く(=若く)侮りがたい様子で移っていらっしゃったので、(紫の上は)なんとなくきまりが悪くお思いにならないではいられないが、(それを)とりわけ平然とふるまって、(女三の宮が)移っていらっしゃる際も、(光源氏と)心を一つにしてちょっとしたこともお世話なさって、たいそういじらしい(紫の上の)ご様子を、(光源氏は)ますます(めったにないほど)素晴らしいとお思い申し上げなさる。

姫君は、本当にまだたいそう小さく未熟でいらっしゃる中でも、たいそう幼稚な感じがして、ひたすら子どもっぽくていらっしゃる。
あの紫(=藤壺宮)のゆかり(=紫の上)を探し出してお引き取りなさった時をお思い出しになると、あちら(=紫の上)は機転が利いて話しがいがあったが、こちら(=女三の宮)は、とても幼稚にばかりお見えになるので、(それも)よいようだ、憎らしげに我を張ることなどはまずないだろうと(光源氏は)お思いになるものの、全くあまりにも見栄えがしない(幼稚な)ご様子だなぁと見申しあげなさる。

三日の間は、毎夜欠かさず(光源氏が、紫の上と生活する東の対から女三の宮のいる寝殿に)お出かけになるので、数年来そのよう(なこと)にも慣れていらっしゃらない(紫の上の)気持ちで、こらえるけれどやはりなんとなくしみじみと悲しい。
(光源氏の)ご衣装などに、いっそう(香を)たきしめさせなさるものの、もの思いに沈んだ様子でぼんやりと眺めていらっしゃる様子は、たいそう可憐で美しい。

(光源氏は)どうして、いろいろな事情があるにせよ、紫の上以外の人を並べて妻として見なければならないのか、浮気っぽく意思が弱くなってしまっていた私の過ちから、この様なことも起こることだよ、若いけれど(まじめである)中納言(=夕霧)を(朱雀院は婿として)お考えにもなれなかったようだったのに、と我ながら(わが身が)情けなくお思い続けられると、自然と涙ぐまれて、

「(婚礼三日目の)今宵だけは当然のことだときっとお許しくださるでしょうね。これからのちの夜離れがあったとしたら、我ながらも不愉快でしょう。またそうかといって、あの(朱雀)院が(私があなたのもとにばかりいると)お聞きになるようなこと(が気がかりだ)よ。」

と色々と思い悩んでいらっしゃるお心の中は苦しそうである。
(紫の上は)少し微笑んで、

「自分のお心であるのに(そのお心)さえ、お決めになれないようですのに、なおさら道理も何も(私には決めかねます)。(最後は)どこに決着するのでしょうか。」

と、取りつく島もない様子であしらいなさるので、(光源氏は)その上きまり悪いとまでお感じになって、頬杖をおつきになって物にもたれて横におなりになったので、(紫の上は)硯を引き寄せて、

[目のまでも、心変わりがすればこんなにも変わってしまう夫婦の仲でしたのに、将来遠くまで、頼りにしていたことであるよ。]

(紫の上の歌と同趣の)古歌なども交ぜ合わせてお書きになるのを、(光源氏は)手に取ってご覧になって、なんということもない歌だが、なるほど、ともっともであるので、

[命こそ本当に絶えるだろうけれど、こんな無常の世の中とは違った私たちの仲でしょうに(二人の仲は絶えることはありませんよ)。]

(と書いて)すぐには(女三の宮の所へ)お出かけになれないのを、

(紫の上が)「たいそうきまりの悪いことですよ。」

と促し申しあげなさるので、(光源氏が)柔らかく美しい様子(の衣装)で言いようがないほど素晴らしく良い香りを漂わせながらお出かけになるのを、部屋の中からご覧になるにつけても(紫の上の気持ちは)全く平静ではないよ。

長年の間に、そういうこともあるだろうと思った事なども、(光源氏は)今はもうとばかりお遠ざけになり続けて、それならばこのままで大丈夫だろうと、安心しきっているこの時期に、挙げ句の果てに、この様に世間の外聞もひととおりでない事が起こったことよ、(これでもう大丈夫と)思って安心できる夫婦の仲でもなかったのだから、(紫の上は)これから先も不安に思うようになられた。
あんなにさりげなく(気持ちを)お紛らわしになるが、おそばにお仕えする女房たちも、

「思いがけない夫婦の仲になりましたね。(光源氏には)多くの方がいらっしゃるようだが、どなたも、皆こちら(=紫の上)の御ものごしには一目置いて遠慮し気がねがする様子でお過ごしになるからこそ、何事もなく平穏でもありましたのに。(女三の宮の)我を張ってこれほどである(紫の上に屈しない)様子に、(紫の上も)圧倒されたままではお過ごしにもなれないでしょう。また、そうかといって、些細なことに結びつけても心穏やかでないことがあるような折々には、きっと面倒な事などが起きるでしょうよ。」

などと、思い思いに語り合い嘆かわしそうであるのを、(紫の上は)全く気づかぬように、たいそうご機嫌よくお話などなさりながら、夜が更けるまで(起きて)いらっしゃる。

源氏物語「女三の宮の降嫁」の単語・語句解説

[まねびて]
ならって。

[安からず思ひながら]
心穏やか出なく思いながら。

[世のありさまなり]
ご夫婦の仲の様子である。

[人に劣り消たるること]
人にひけを取り圧倒されること。

[うつろひ給へるに]
移っていらっしゃったので。

[なまはしたなく]
なんとなくきまりが悪く。

[片なりにおはする]
未熟でいらっしゃる。

[いはけなき気色]
幼稚な感じ。

[夜離れ]
男性が女性のもとに通わなくなる事。

[忍ぶれど]
こらえるけれど。

[あだあだしく]
浮気っぽく。

[えならず]
言いようがないほど素晴らしい。

[ありありて]
挙げ句の果てに。

[なのめならぬこと]
ひととおりでないこと。

*源氏物語「女三の宮の降嫁」でテストによく出る問題

○問題:「かかること(*)」とは何か。
答え:光源氏が女三の宮と結婚する事。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は源氏物語でも有名な、「女三の宮の降嫁」についてご紹介しました。

その他については下記の関連記事をご覧下さい。

参考/おすすめ書籍


タイトルとURLをコピーしました