枕草子(まくらのそうし)は1001年(長保3年)頃に書かれた随筆で、作者は清少納言です。
今回はそんな高校古典の教科書にも出てくる枕草子の中から「木の花は」について詳しく解説していきます。
枕草子「木の花は」の解説
枕草子でも有名な、「木の花は」について解説していきます。
枕草子「木の花は」の原文
木の花は、濃きも薄きも紅梅。
桜は花びら大きに、葉の色濃きが、枝細くて咲きたる。
藤の花はしなひ長く、色濃く咲きたる、いとめでたし。
四月のつごもり、五月のついたちのころほひ、橘の葉の濃く青きに、花のいと白う咲きたるが、雨うち降りたるつとめてなどは、世になう心あるさま(*)にをかし。
花の中より、黄金の玉かと見えて、いみじうあざやかに見えたるなど、朝露にぬれたる、あさぼらけの桜におとらず。
ほととぎすのよすがとさへ思へばにや、なほさらに言ふべうもあらず。
梨の花、よにすさまじきものにて、近うもてなさず、はかなき文つけなどだにせず、愛敬後れたる人の顔などを見ては、たとひに言ふも、げに、葉の色よりはじめてあいなく見ゆるを、唐土には限りなき物にて文にも作る、なほさりとも様あらむと、せめて見れば、花びらの端にをかしきにほひこそ、心もとなうつきためれ。
楊貴妃の、帝の御使ひに会ひて、泣きける顔に似せて、
「梨花一枝、春雨を帯びたり。」
など言ひたるは、おぼろけならじと思ふに、なほいみじうめでたきことは、たぐひあらじとおぼえたり。
桐の木の花、紫に咲きたるは、なほをかしきに、葉の広ごりざまぞ、うたてこちたけれど、異木どもと等しう言ふべきにもあらず。
唐土にことごとしき名つきたる鳥の、選りてこれにのみ居るらむ、いみじう心異なり。
まいて琴につくりて、さまざまなる音の出でくるなどは、をかしなど世の常に言ふべくやはある。
いみじうこそめでたけれ。
木のさまにくげなれど、棟の花、いとをかし。
枯れ枯れに、さま異に咲きて、必ず五月五日にあふも、をかし。
枕草子「木の花は」の現代語訳
木の花(で美しいもの)は、濃い色のも薄い色のも紅梅(がすばらしい。)
桜の花びらが大きく、葉の色が濃いのが、枝が細くて咲いている(のが美しい)。
藤の花は、花房が長く、色濃く咲いているのが、大変すばらしい。
四月の末、五月の初め頃に、橘の葉(の色)が濃く青々としているところに、花がたいそう白く咲いているのが、雨が降っている早朝などは、世に類なく情悪がある様子で美しく心ひかれる。
花の中から、(橘の実が)黄金の玉かと思われて、非常にくっきりと見えているのなど、朝露にぬれた、夜明けの頃の桜に劣らず(美しい)。
(その上、)ホトトギスにゆかりの深い木だとまで思うからであろうか、やはり改めて言い表すことができない(ほどすばらしい)。
梨の花は、まことに興ざめするものであって、身近において賞美しないし、ちょっとした手紙を花の咲いた木の枝につけて贈ることさえせず、かわいらしさが欠けている人の顔などを見ては、(梨の花のようだと)たとえに言うのも、なるほど、葉の色からはじめてつまらなく見えるが、中国ではこの上もないものとして漢詩文にも詠むのは、やはりそう(=梨の花が興ざめするものである)とはいっても理由があるのだろうと、強いて(よいところを探そうと)見ると、花びらの端に美しい色あいがほのかについているようだ。
楊貴妃が、帝(=玄宗皇帝)のお使いに会って、泣いたという顔をたとえて、
「梨花の一枝が、春の雨に濡れている。」
などと言ったのは、並々ではあるまいと思うにつけて、やはりとてもすばらしいことは、くらべるものもあるまいと思われた。
桐の花が、紫色に咲いているのは、やはり風情があることだが、葉が広がった様子は、なじめず不快で初々しいが、他の木などと同列には言い残すことができない。
中国に初々しい名前のついた鳥(=鳳凰)が、選んでこの木だけにとまると聞くのは、この上なく格別である。
まして(桐の木を)琴に作って、いろいろな音色が出てくるなどは、趣があるなどと世間並みに言うことができるだろうか(、いや、できない)。
非常にすばらしい(木である)。
木の姿はみっともないけれど、棟の花は、とても趣がある。
花が枯れかかっているように、風変わりに咲いて、必ず五月五日(の節句)に咲き合うのもおもしろい。
枕草子「木の花は」の単語・語句解説
大変すばらしい。
[つごもり]
ここでは(陰暦で)月末、下旬、の意。
[ついたち]
ここでは(陰暦で)月初め、上旬、の意。
[雨うちて降りたるつとめて]
雨が降っている早朝。
[世になう]
「世になく」のウ音便。
[あさぼらけ]
朝、ほのぼのと明るくなった頃。明け方。
[ほととぎすのよすがとさへ]
ホトトギスにゆかりの深い木だとさえ。
[思へばにや]
思うからであろうか。
[言ふべうもあらず]
「べう」は「べく」のウ音便。
[よにすさまじきものにて]
まことに興ざめするものであって。
[愛敬後れたる人]
かわいらしさが欠けている人。
[あいなく見ゆるを]
つまらなく見えるが。
[さりとも様あらむ]
そうはいっても理由があるのだろう。
[にほひ]
ここでは、美しく映える色、美しい色合い、の意。
[心もとなうつきためれ]
「心もとなう」は「心もとなく」のウ音便。
[おぼろげならじ]
並々ではあるまい。
[うたてこちたけれど]
なじめず不愉快で初々しいけれど。
[心異なり]
格別である。特別である。
[世の常]
ここでは、世間並み、ありふれたこと、普通、の意。
[言ふべくやはある]
言うことができるだろうか、いや、できない。
[にくげなれど]
みっともないけれど。
[さま異に]
風変わりに。
*枕草子「木の花は」でテストによく出る問題
○問題:「心あるさま(*)」とはどういうことか。
答え:情趣がある様子だということ。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は枕草子でも有名な、「木の花は」についてご紹介しました。
その他については下記の関連記事をご覧下さい。
枕草子の原文内容と現代語訳
枕草子「御方々、君たち」
枕草子「村上の先帝の御時に」
枕草子「賀茂へ参る道に」
枕草子「ふと心劣りとかするものは」
枕草子「古今の草子を」
枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」
枕草子「大納言殿参り給ひて」
枕草子「宮に初めて参りたるころ」
枕草子「殿などのおはしまさでのち」
枕草子「頭の弁の、職に参り給ひて」
枕草子「雪のいと高う降りたるを」
枕草子「中納言参り給ひて」
枕草子「二月のつごもりごろに」
枕草子「九月ばかり
枕草子「木の花は」
枕草子「すさまじきもの」
枕草子「かたはらいたきもの」
枕草子「うつくしきもの」
古典作品一覧|日本を代表する主な古典文学まとめ